競争と公平感

競争と公平感―市場経済の本当のメリット by 大竹 文雄

大竹 文雄
1961年(昭和36年)、京都府宇治市生まれ。
83年京都大学経済学部卒業。
85年、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了、大阪大学経済学部助手、大阪府立大学講師を経て、大阪大学社会経済研究所教授、大阪大学博士(経済学)。
労働経済学専攻…

日本は資本主義の国のなかで、
なぜか例外的に市場競争に対する拒否反応が強い。

男女の格差、不況、貧困、高齢化、派遣社員の待遇など、
身近な事例から、
市場経済の本質の理解を促し、
より豊かで公平な社会をつくるためのヒントをさぐる…

私たちは市場競争のメリットをはたして十分に理解しているだろうか?

また、競争にはどうしても結果がつきまとうが、
そもそも私たちはどういう時に公平だと感じるのだろうか?

目次

1 競争嫌いの日本人(市場経済にも国の役割にも期待しない? / 勤勉さよりも運やコネ? / 男と女、競争好きはどちら? ほか)

2 公平だと感じるのはどんな時ですか?(「小さく産んで大きく育てる」は間違い? / 脳の仕組みと経済格差 / 二〇分食べるのを我慢できたらもう一個 ほか)

3 働きやすさを考える(正社員と非正規社員 / 増えた祝日の功罪 / 長時間労働の何が問題か? ほか)

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MEMO

競争と公平感

◆教育の分野では、
「より所得を稼げるようになること」ではなく、
「豊かな人生を送ることができるようになること」を目的にしていて、
豊かさとはお金以外の価値にあるということを教えようとしている。

しかし、最低限のお金がないと、
幸福な人生を送ることが難しい

実際、ある程度の年収(年収700万円から800万円くらい)まで、
所得が高くなるほど平均的な幸福感も高くなる。

◆世代間の利害対立を発生させるのは、
年金や医療だけの問題ではない。

教育も同じである。

高齢者はすでに、
自分の子どもの教育費負担はなくなっている。

そうすると、
高齢者にとって公的な教育費を増加させることに
直接的なメリットはない。

したがって、人口の高齢化によって
高齢者は、政府支出の中身を年金や医療といったものを充実させ、
教育費を低下させることにその政治力を使う。

◆投票者が高齢化するにつれて、
政府支出の中身は、
年金・医療・福祉といった高齢者がより
需要するものにシフトしていく。

◆デフレが発生した理由

お金への選好の特殊性が、
消費せずお金を貯めすぎという
人々の行動を起こしてしまう。

人々は株や不動産を保有したがるし、
そのため価格が上がっていく。

バブルの発生だ。

しかし、株や不動産をもっていることの
うれしさがなくなってしまうと、
バブルが崩壊してしまう。

そうすると、人々は株や不動産ではなく、
お金だけをもちたがる。

お金を持ちたがるとお金の値段は上がっていく。

お金の値段が上がるということは、
お金の価値が上がることだからモノへの値段が下がる。

つまり、デフレの発生だ。

デフレが発生すると人々は、
買い物をするのを将来に先延ばししようとする。

なぜなら、そのほうが安くモノが買えるからだ。

そうなると、まずますモノが売れなくなってしまう。

モノが売れなくなるから、
失業が発生する。

こうした悪循環が続いてしまって、
長期の不況が発生する。

このような悪循環を止める方法は、
ただひとつ、失業者を公共投資や
公的サービスによる雇用で雇う
ことである。

◆不況の原因は需要の減少

◆相対的貧困率が上昇している5つの理由

  1. 不況の影響
    不況のために経済全体の所得が低下しているが、低所得の人が失業すると貧困につながる可能性が高い。
  2. 技術革新の影響
    コンピュータの発達で、コンピュータの得意な計算、決まりきった仕事はどんどん人からコンピュータに変わってきている。そして、賃金の高い仕事と低い仕事に、二極化してきている。
  3. グローバル化の影響
    貿易が進んで、労働力が安い外国から製品が輸入されるようになったことが日本の低賃金労働の賃金を下げた。中国で日本より安く生産できるのであれば、日本でその製品を作る必要はない。世界との競争にさらされる製品を作っている場合は、その賃金は日本国内だけではなく、外国の賃金水準の影響を受けることになる。このため、日本国内で低賃金労働が増えてきている。
  4. 高齢化の影響
    高齢者は引退して、勤労期に比べると所得が減っている人々が多い。そのため、高齢者が増えてくると、相対的貧困率は上昇することになる。
  5. 離婚率の上昇
    母子家庭は、母親の労働時間が限られている傾向があるため、貧困になりやすい。母子家庭などの相対的貧困率は2006べbで54.3%と非常に高い。結婚数に比べた離婚数も増えており、これが母子家庭の増加をもたらし、相対的貧困率の上昇をもたらす原因になっている。

◆日本で高いのは、
相対的貧困率であって、
絶対的貧困率ではない。

日本で貧困状態にあるとみなされる人の所得は、
世界でみると高いほうであることは事実である。

絶対的な意味で貧しいのではない。

◆日本人は「選択や努力」以外の要因で所得が決まることに否定的で、
アメリカ人は才能や学歴による所得の差を認める傾向にある。

日本人は「選択や努力」以外の生まれつきの才能や学歴、運などの要因で
所得格差が発生することを嫌うため、
そのような理由で格差が発生したと感じると、
実際のデータで格差が発生している以上に「格差感」を感じると考えられる。

また、日本の経営者の所得がアメリカのように高額にならないのは
「努力」を重視する社会規範があるためかもしれない。

◆所得格差に関する意識の日米差

アメリカ人が重要だと考えているのは努力、学歴、才能の順番であるの対し、
日本人は努力、運、学歴の順番である。

◆どうして、日本とフランスでは、
高額所得者の所得独占度が高まらなかったのか?

これには次の2つの可能性が考えられる。

  1. 日本やフランスでは、労働市場の規制が残っていたり、組合の力が強かったり、所得格差に関する社会的規範が存在することで、高額所得者の所得が市場価値より低めに抑えられている。
  2. アメリカでは経営者の裁量権が高まったので、自分たちの所得を高めに決めるようになった。

◆アメリカにおける所得格差拡大の特徴は、
高所得者、高学歴者の所得が他の所得階層に比べて
急激に高まったこと、
高学歴者のなかでの格差が大きくなったことを示している。

◆所得格差の拡大の多くは、
人口の高齢化で説明できる。

日本では最近の20代を除いて、
同じ年齢層内の所得格差は変わっていない。

それにもかかわらず、
日本全体として所得の不平等化が進んできたのは、
人口の高齢化が原因だ。

日本では年齢が高い人のほうが年齢層内の
所得格差が大きい。

人口高齢化によって日本人のなかで
所得格差が大きいグループが増えてきたため、
日本全体の所得格差が広がってきた。

日本は若い頃の所得格差が小さく、
所得格差は40歳以上にあんって顕著になる。

年功的処遇のもとで、
競争の結果が出るのは40歳を過ぎてからだ。

◆アメリカ人のさまざまな価値観は
出身国の特徴を大きく反映している。

現在居住している国の経済制度から
価値観が形成されるというよりも、
価値観のほうが先にあって経済行動や
その国の経済制度の形成に影響を与えている。

◆激しい競争にさらされると、
他人を信じないようになると予想されるが、
現実には逆らしい。

規制緩和が進んだ地域や競争が激しい産業で働いている人ほど
他人を信用する傾向が高い、
という研究がある。

◆失業保険制度の最大の問題は、
仕事をするのが嫌で働きたくない人が、
失業したと偽って失業保険をもらったり、
まじめに職探しをしないことだ。

このような不真面目な失業保険受給者を排除するために、
失業給付の水準を低くしたり、
失業給付期間を短くしたりすることが
多くの国で行われている。

◆宗教的な価値観が人々の行動に影響を与え、
生産性に影響している可能性がある。

たとえば、
天国や地獄といった死後の世界の存在を
信じる人の比率が高いほど経済成長率が高い。

一方、
教会に熱心に行く人の比率が高い国ほど
経済成長率が低い。

◆人間の脳には、
アリとキリギリスの両方の思考システムがある。

◆経済学では、
人間が後悔するのは、
時間割引率がある特徴をもっていることが
ひとつの原因と考えられている。

時間割引率とは言い換えれば、
「せっかち」の程度
である。

あとえば、
ひと月後に1万円もらうのと
1年とひと月後に1万1000円もらうのとでは、
どちらも同じ価値があると考える人がいたとすれば、
その人の時間割引率は年10%ということになる。

◆利己主義か平等主義かという価値観は、
教育や家庭環境によって形成されていく。

つまり、
私たちが平等主義的な価値観をもっているとすれば、
それは家や学校での教育の結果であって
人間が生まれながらにもっている価値観ではない。

◆他人との比較から不満が生まれるというのは、
人間が自分のことだけを考えて行動するとみなしてきた
伝統的な経済学では考えられなかった。

つまり、
人間には何らかの公平感があり、
その公平感から現実が乖離(かいり)すると不満を持つ
と言える。

◆利他的かどうかは、
ある程度遺伝的な影響を受けている。

◆教育年数が長い人ほど
時間割引率が低い(忍耐強い)ことが明らかになった。

————————————————-
◆幼少期に育った家庭環境が
その後の学力や所得に決定的に大きな影響を
与えるということが学問的に明らかになってきた。

◆第二外国語の発音は、
12歳以下で学ばないと不完全なものになってしまう。

◆家庭環境に恵まれなかった子どもたちに、
学校教育以降でのみ援助をしても効果がなく、
就学前の段階での援助と組み合わせることが重要である。

◆将来の労働力を強化し生活の質を高めるための
最も効率的な戦略は、
幼少期の恵まれない子どもたちの境遇を
改善することである。

◆人間は常に理性的は判断に基いて
意思決定を行おうとしているが、
これに反して近い将来の利得は情動的な反応を促し、
意思決定を左右することになる。

つまり、情動が勝ってしまうと、
遠い将来の大きな利得よりも近い将来の小さな利得を選んで、
後悔してしまう
ことになる。

◆人間の非合理性も、
脳の特性にもとずいている。

将来よりも現在を極端に重視したり、
利益よりも感情を重視してしまうといった人間の特性が、
脳の仕組みに起因しているのであれば、
経済学の構築も社会の仕組みもそれを
前提に考える必要がある。

◆神経経済学とは、
行動だけからはわからない人間の意思決定の仕組みを
脳科学の手法を用いて明らかにする研究領域である。

◆就学後の教育の効率性を決めるのは
就学前の教育であり、
特に出生直後の教育環境が重要であることが明らかになった。

◆貧困の連鎖の原因…

栄養状態の悪い妊婦から低体重児が生まれ、
その子どもが育っても健康状態が悪く、
所得が低くなる。

所得が低い親となって、
子どもを産むと低体重の子どもが生まれる。

そうすると、
またその影響が子どもが大人になったときに現れる。

◆出生時体重の違いが
IQ、教育、所得などに影響を与えることが
明らかになっている。

◆出生時体重が低いことと、
注意欠陥・多動性障害の発生率の高さ、
教育水準の低さ等との間に相関があることが
明らかにされてきている。

◆胎児期に栄養状態が悪いと、
さまざまな臓器は発育不全になり、
インスリン分泌不全、
インスリン抵抗性、
グルココルチコイド過剰状態などが起こる。

変化した機能の特性は出生後も継続されるので、
出生後に栄養過多になると、
肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧などに罹患(りかん)しやすくなる。

◆出生時の体重とメタボリック症候群

一連の研究で出生時の体重が低いと
成人になってから冠状動脈性心臓病・糖尿病・高血圧などの
生活習慣病にかかる人の割合が高い。

胎児期における栄養が少ないと、
飢餓状態に耐えるために、
体内に脂肪を蓄積しやすいように体質をプログラムする

ところが、
生まれてくると飢餓の世界ではなく、
飽食の世界だ。

飢餓に備えて作られた体質は、
飽食の環境では、
肥満に象徴されるメタボリック症候群をもたらす。

◆景気がよくて完全雇用であれば、
努力すれば仕事に就けるはずなので、
仕事が見つからないというのは、
本人が努力をしていないためだと多くの人が考える。

そういう社会では、
勤勉が人生の成功にとって重要であり、
市場競争は勤勉な人に報いるための社会制度として
適合していることになる。

これに対し、不況では、
失業が発生して、
どれだけ努力しても、
その努力と無関係に仕事に就けない人が出てくる。

仕事に就けるかどうかは、
運・不運やコネの有無が重要となってくる

人生は運・不運だと思うのも仕方がない。

◆高校や大学を卒業してしばらくの間に、
不況を経験するかどうかが、
その世代の価値観に大きな影響を与える。

この年齢層の頃に不況を経験した人は、
人生の成功は努力よりも運による」と思い、
「政府による再分配を支持する」が、
「公的な機関に対する信頼をもたない」、
という傾向がある。

この価値観は、その後、年をとってもあまり変わらない

◆日本人は勤勉な国民で、
それが高い生産性の原動力になってきたとされている。

しかし、2005年時点では、
そのような認識がずいぶん薄れてしまい、
運やコネを重視するようになっている。

◆日本人は自由な市場経済のもとで豊かになったとしても
格差がつくことを嫌い、
そもそも市場で格差がつかないようにすることが大事だと考えている。

◆市場競争で格差が発生したら、
それに対する対策は基本的には2つある。

  1. 政府による社会保障を通じた再配分政策によって格差を解消する
  2. 低所得の人たちに技能を身につけさせて高い所得を得られるよう教育・訓練を充実する

では、なぜこういう議論が主流にならないのか…

◆スピード競争する漁師

まずは、次の問題を考えてみてほしい。

  1. 毎日決まった時間に漁に出て、決まった時間漁をする
  2. 漁が多く穫れそうな天候の日に長時間漁をして、そうでない日は他のことをする
  3. 魚が少ない日に集中的に漁をする
  4. 誰よりも早く漁に出て、魚が穫れなくなるまで頑張る

1と2では、2のほうが漁獲量が高くなる。
どうせ同じ時間働くなら、
魚が多く獲れる日に集中的に働くほうがいい。

では、3や4の選択肢があれがどうか?

実は、これら4つの選択肢には、
正しい戦略が書かれていない。

正しい選択肢は、
「時間当たりの所得が高い日に長時間漁をすること」であり、
それが漁師にとっての所得最大化の行動である。

4の戦略は、
天候も何も考えず働く方法で、
あまり賢い戦略ではないように思える。

しかし、現実には日本の漁師は4のような行動をとっている。

なぜか?

それは、漁業では獲れるだけ魚を獲ってもいいのではなく、
漁業資源を守るための規制が存在するからだ。

具体的には、魚種ごとに総漁獲可能漁が決められて
資源管理が行われている。

日本の沿岸漁業では、
オリンピック方式という資源管理が行われている。

この方式では、
漁期と漁獲量の上限が決められているだけである。

漁民は、
漁期が始まると一斉に漁をはじめ、
漁獲枠が一杯になると漁期が終わる。

つまり、
漁獲競争をして、一番早く多く獲ったものが
最大の所得を得られる仕組みになっている。

漁師の働き方は、
合理性やインセンティブの与えられ方で、
まったく異なるものになる。

その上、価値観も大きな影響を与える。

いくら特定の働き方が金銭的に望ましいとわかっていても、
特定の時間は働くべきでないという強い価値観をもっていれば、
その価値観を優先することになる。

◆短期目標の損得

毎日の目標額を決めて行動するという
「計画的な態度」が、
悲惨な結果をもたらしかねない。

「計画的」に見えるのに、
うまくいかないのは、
計画の期間が間違っているからだ

人生はその日1日で終わるわけではない。

ツイている時もあれば、
ツイていない時もある。

長期的にみれば、
ツイている時に頑張って、
ツイていない時には他のことをしたほうが得なのだ

計画をもっと長期の観点で立てて、
日々の計画は長期の利益を最大にするように行動すればいい。

でも、実際には、
長期の計画を立てただけでは、
それをうまく実行できないことが多い。

そのため、
短期の計画も同時に立てて、
それをチェックしていくことで、
長期計画を達成しようとしてしまう。

人はどうしても短期計画に縛られる。

でも、世の中には短期計画の達成に集中することが
馬鹿げている場合も多い。

◆あなたが漁師だったら

漁師の仕事はきつくて、
どの働き方の漁師も一週間の労働時間は40時間だとする。

そして毎日天候がランダムに変化するとする。

このとき、

    • 毎日8時間タイプ
    • 目標漁獲高タイプ
    • 大魚時集中タイプ

のどの漁師が、
一週間での漁獲高が一番多くなるか?

答えは…
大魚の時に集中して働くタイプである。

次に漁獲高が高いのは
毎日8時間働く漁師、
一番少ないのは目標漁獲高を決めている漁師である。

なぜなら、
一週間で働く労働時間が決まっているのだから、
最も魚が獲れる時間に集中的に働いたほうが、
魚が獲れない時間が長く、
魚が獲れる時間に短く働くより、
より多くのの魚が獲れるからだ。

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