生活保護法的支援ハンドブック by 日本弁護士連合会貧困問題対策本部
史上最大の生活保護法改正に対応!
生活保護のしくみ・基礎知識から、
違法・不当な運用を争う際の論点、
審査請求・訴訟等の手続について、
改正行政不服審査法や最新の判例・実務を織り込み改訂!
目次
- 第1章 生活保護をめぐる最近の状況
(生活保護制度に対する無知と偏見・差別意識/日本弁護士連合会人権擁護大会・シンポジウムの決議/生活保護問題対策全国会議の結成/生活保護問題緊急対策委員会の取組み/運動の発展/生活保護バッシングと社会保障制度改革推進法の成立/制度史上最大の生活保護改革/これからの課題―生存権保障の岩盤である生活保護制度を守る意義) - 第2章 生活保護制度のしくみと基礎知識
(生活保護制度の活用/生活保護法制と生活保護制度のしくみ/生活保護利用をめぐる典型的な論点/生活保護基準とその引下げ) - 第3章 生活保護の違法な運用に対する争い方
(審査請求、抗告訴訟、国賠訴訟のしくみと争い方/違法な運用の実例と裁判例・裁決例/生活底上げのための闘いの重要性)
MEMO
◆辞退届けによる保護廃止
保護適用の当初から、「3ヶ月以内に仕事を見つけて自立することが条件」
であるかのように保護利用者に告げ、
3ヶ月以内に就労自立ができなければ「約束だから」と言って
辞退届けを提出するよう働きかけることがある。
しかし、このようなことは許されない行為である。
◆保護開始時の預貯金
現在の運用では、保護開始の時点で手許に保有することが認められる現金・預貯金の額は、
該当世帯の最低生活費(1ヶ月分)の2分の1程度でしかない。
これを超える額の現金や預貯金があれば収入と認定されて当初の保護費が減額され、
申請時点で1ヶ月分の最低生活費を上回る現金・預貯金がある場合には保護が認められない扱いになっている。
※保護利用中の預貯金は80万円までは判例で認められている。
◆稼働能力
稼働年齢層(おおむね65歳未満)で、病気・障害等のない場合でも、
失業等によって現実に稼働することができず困窮状態に陥る場合は少なくない。
しかし、そのような状態の人が生活保護の開始を申請しようとしても
「稼働能力がある」というだけで保護申請が受付られない場合が多い。
稼働能力があっても、それを現実に活用する環境がない場合は、
申請を拒否できない。
◆停止・廃止
どのような場合に停止となり、廃止となるかについて、
明確な区分はないが、
生活状況や臨時収入の額により、
保護を要しないであろう期間がおおむね6ヶ月以内であれば停止、
それを超えると廃止、というのが実際の運用である。
◆違法な水際作戦
実際には、「生活保護を利用したいのですが…」と訪れた申請者に対し、
福祉事務所の職員が、「まだ若いから働けるはず。仕事を探して」
「子どもさんや兄妹がいるなら援助してもらって」
「車や持ち家がある人は、生活保護は受けられない」
などと言って申請用紙を渡さず、
「相談」扱いとして追い出してしまう事例が後をたたない(これを水際作戦という)。
水際作戦を防ぐには、適宜の紙に、
必要事項を漏れなく記載した申請書を作成して持参することも有効である。
申請は要式行為ではなく、口頭の申請も可能なのであるから、
福祉事務所の定めた様式にこだわる必要はない。
ただ、所定の用紙への書き直しを求められた場合は、
この点に応じるなど柔軟な対応も必要である。
◆申請処理の流れ
生活保護は、原則として、申請によって開始される。
申請場所は、原則として住居地を所管する地方自自体の福祉事務所である。
保護の開始を申請する者は、
申請書を保護の実施機関に提出しなければならない。
申請書を提出できない特別の事情がある場合、
口頭による申請でもよい。
◆多重債務と生活保護
借金があると生活保護は受けられないという誤った固定観念を、
本人だけでなく、自治体担当者ですらもっている場合もある。
多重債務者の多くは生活保護基準以下で生活しており、
失業や病気などによって、
当面の収入のめどが立っていないケースも多い。
◆高齢者と生活保護
急速に高齢化が進む中で、
国民年金に満額40年加入していた場合でも、
老齢基礎年金の受給額は1人月額64,400円であり(2014年度)、
これも年々切り下げされている。
また、受給者の平均月額は5.5万円程度となっている。
◆最後のセーフティネット 生活保護
生活保護制度は、
他の制度によっては健康で文化的な最低限の生活さえ
維持し得ない人々を支えるための最後のセーフティネットとして、
こうした人々が自助努力をなし得るスタートラインに
立つための最低限保障されるべきものである。
必要な場合に、生活保護制度を活用することは、
当然であり躊躇されるべきではない。
◆非正規労働者の増加
パート、アルバイト、派遣社員、契約社員などの
非正規雇用労働者は年々増加し、
1995年に約1000万人だったものが
2005年には約1600万人、
3人に1人の割合まで増加し、
2012年には約1813万人となっている。
◆深刻化する現代日本の貧困
OECDによると日本の貧困率は16.0%(2009年)である。
加盟国30カ国中第4位の高い率であり、
年々増加する傾向にある。
図・表