柔訳 老子の言葉 by 谷川 太一
谷川 太一
古今東西の哲学・宗教、なかでも古事記、旧約聖書、仏教、ゾロアスター教(拝火教)、道教、神道を長年にわたり研究する一方、無償の社会活動として、のべ十数万人に対する人生相談をおこなってきた。
その知識は生命科学・宇宙物理・医療・教育・金融工学・芸術など非常に幅広く、また社会で生きるためのもろもろの知恵にも精通している。
現在、老子を現代社会からの視点で表現し、その思想と叡智を現代人の生活に生かすことに取り組んでいる…
古代中国に生きた老子の思想には、
長い時を経ても不変の真理と英知がある。
激動の今を生きる人たちの
人生の道標となりますように、
現代社会からの視点で、
老子の言葉を柔らかい表現で訳した。
「史記」によれば、
水牛にまたがって
中国の住む国を去ったのが老子の
最後の姿とされている。
老子こそは、
真の聖人と呼ぶにふさわしい人物である。
原文の漢字を眺めていると、
二千五百年も前に「老子自らが選んだ」文字に
ロマンを感じる。
老子が短い文章に選び抜いた
一文字一文字は、
何重にも深い意味をもって選ばれた
と思われる。
目次
訳者 まえがき
第一章 ネームバリューにダマされずに本質を見る大切さ
第二章 「他人と比較する心」からの認識は間違いです
第三章 競争して病むことよりも健康が第一
第四章 人の心は武器を制します
第五章 老子からの戒め
第六章 母性的な愛情がすべてを生み出します
第七章 先に結果を思わないのが極意
第八章 水のような生き方は最強です
第九章 足るを知れ
第十章 人間が理想を持つことは大切
第十一章 空を知る者は、「成す」ことができます
第十二章 物事を追求したあとに残るモノを、先に想像すること
第十三章 他人からの評価を気にすると、間違った選択をしてしまいます
第十四章 難しいことよりも愛情が大切です
第十五章 幸運になるエッセンス
第十六章 生きる意味
第十七章 上に立つ者には「信」が大切
第十八章 鏡の世界では、逆に映り表れます
第十九章 そもそもの原点を忘れるな
第二十章 生かされていることに感謝できれば、すべてはOK
第二十一章 物事の「流れ」を見ることが大切
第二十二章 盆栽の銘木ほど曲がっています
第二十三章 自然と引き合うことが大切
第二十四章 他人を意識するから無理な姿勢をしてしまう
第二十五章 大いなる母性
第二十六章 隠れて支えている物事を大切に
第二十七章 どんなことも見捨てない
第二十八章 人間は純朴さが大切
第二十九章 偏らない自然な中間が大切
補稿 何かの「最中」にいることが大切なのです
第三十章 まずは家庭から始まります
第三十一章 他人の不幸を喜んではいけない
第三十二章 何事にも原木=原因が存在しています
第三十三章 自分なりで大丈夫ですよ
第三十四章 大いなる無名の功労者
第三十五章 聞こうとするだけでも立派です
第三十六章 あわてなくても大丈夫ですよ
第三十七章 赤子のように任せ切る勇気
第三十八章 迷った場合は、行為を見ることが大切
第三十九章 自分に宿る「一つなる存在」に気づくこと
第四十章 自分の弱さを知ることは、強さに変わります
第四十一章 「大器晩成」は誤字による誤読だった 真の大器は完成しないのです
第四十二章 日常生活=宇宙原理
第四十三章 悩む時点で、まだ何かが不足している
第四十四章 必ずバランスが取られます
第四十五章 未完こそが完成して「いる」
第四十六章 「足るを知る」ことは成功への道
第四十七章 自分自身を見つめましょう
第四十八章 行為は思考に勝る
第四十九章 自分次第で変わる次元世界
第五十章 今からでも変えることが可能です
第五十一章自分が育てても所有はしない気持ち
第五十二章 自分自身で変わることが可能なのです
第五十三章 自分の良心と向き合った生活が大切
第五十四章 老子が先祖供養を絶賛する 先祖供養が子孫と国家を繁栄させます
第五十五章 自然であることが大切
第五十六章 それでよいのだ
第五十七章 執着すれば、逆にダメになっていく
第五十八章 謙虚さが幸運の秘訣です
第五十九章 質素倹約は強運を呼びます
第六十章 自分自身をゆっくりと煮つめていくことが大切
第六十一章 下手にいることが賢明です
第六十二章 すべての人間は良心(道徳)により生かされます
第六十三章 味がないことを味わう
第六十四章 預かっているだけなのです
第六十五章 パターンを見ようとする視点が大切です
第六十六章 自らを低く謙虚にいること
第六十七章 慈悲心が幸福を呼びます
第六十八章 四つの法則が大切
第六十九章 悲しみを持つ人間は強くなれます
第七十章 真理=自分の良心に生きること
第七十一章 悩みの本質
第七十二章 自分の心を守る大切さ
第七十三章 心で錦を織りましょう
第七十四章 自分のことを叱ってくれる人間は貴重です
第七十五章 自然な流れで生きること
第七十六章 自分が弱いと思える人ほど強い人です
第七十七章 すべては水平に戻されます
第七十八章 弱くても大丈夫なのです
第七十九章 恩は貸したままがよいのです
第八十章 割り切ることも必要なのが文明
第八十一章 すべては成長のために起こります
あとがき

MEMO
◆自然な流れで生きる
お金に執着する人ほど
お金は逆に逃げるが、
謙虚に生きる人ほど逆に
お金は貯まる。
結婚することに執着するほど
結婚は離れ、
あきらめて自分なりに楽しんで
生活している人ほど
逆に結婚の機会に恵まれる。
子どもが欲しいと執着している間は妊娠せず、
あきらめて生活を楽しみながら
自然に任せている時に逆に妊娠する。
どうして思いとは逆になるのか?
人の執着(重い思い)とは、
自分の良さを逆に消し、
自分が持つ可能性を抑える。
◆明日がくるとは限らない
多くの人は、
明日も自分が生きていることを
前提に話をしている。
- 経済はよくなるでしょうか?
- どの会社がよいでしょうか?
- 結婚できるでしょうか?
このようなことは全部、
明日も自分が生きていることを
前提にしている。
明日や未来のことで、
誰もが真剣に悩んでいる。
すでに明日も自分が生きている
ことを当たり前にして悩む。
明日も生きていることが
当たり前ならば、
今日の「今」に生かされていることに
感謝をしている人間は非常に少ない。
しかし、
深刻な病気を得て、
命の期限を宣告された人間は
少し違ってくる。
明日があることが
当たり前では「なかった」
ことに気づく。
そして、今この瞬間に生きようとする。
◆天の法則
- 静かでいること
- 冷静な判断をすること
- 敵には不干渉でいること
- 謙虚で姿勢でいること
◆自らを低く謙虚にいること
大河や海が多くの河川の王様となっている理由は、
それが最も低いところに存在するからである。
低く存在することにより、
無数の河川の王様になれる。
だから、民衆の上に立とうと思うならば、
必ず謙虚な言葉を持って民衆にへり下り、
民衆の先頭に立とうお思うならば、
必ず自分の身を民衆のあとに置くことが大切である。
◆この世のすべての苦しみの原因は、
何かに執着するころから「始まる」。
逆に言えば、
人間は執着しなければ、
この世は天国にもなり得る。
老子はこのことを、
「自然な流れで生きる」
と表現している。
◆いつになれば安心できるのか?
それは、「今」しかない。
明日ではダメ。
自分の夢が叶ってからではない。
もし夢が叶っても、
また必ず違う問題で悩む。
どんな環境であろうが、
今の生かされている環境と
自分自身に感謝する。
そして、自分自身を安心させる。
◆すべては自分が原因
人間は、死ぬ理由(原因)を
自分が作らなければ、
どんな環境に置かれようが
死にようがない。
さらに言えば、
自分が望んでも
死ぬことができない。
人生に幸・不幸の違いが生じるのは、
つまり運命が分かれるのは、
その人の物事への執着具合による。
執着が強ければ強いほど、
自分自身の間違いに気づけない。
だから人は、
自分自身で自分を観察して、
自分の悪い原因となりそうな行為に
早く気づくことが、
良い結果や幸運をもたらす。
偶然や、他人が決めた運命などは、
実際には存在しない。
すべての結果は、
自分自身が原因なのである。
◆足るを知る
自分の身の程を判断して、
むやみに不満を持たない。
何事にも、ほどほどを知る。
現状に感謝する。
これでは成長できない、
大きくなれない、
と思う人がいるかもしれない。
しかし、社会で大きな成功をして
「継続している」企業の創業時の
様子を見ると、
「大きくなろう、大きくなりたい」
という思いよりも、
- 目の前の仕事をただ懸命にする
- それで起こる自然な「流れ」に素直に従う
といった経営者が多い。
戦略や布石ばかりを考える経営者は
大きくはなれない。
たとえ成功しても途中で消えていく。
長くは継続できない。
社会では、
「成功する」という思いばかりが先走るが、
成功はゴールではない。
成功を「継続」させられるか否かが問題なのだ。
多くの人は、「継続」という概念が欠落している。
継続を考えると、
「足るを知る」という言葉が生きてくる。
自分の現状に感謝できれば、
それを「大切にする」ことができる。
大切にすることができると、
もっと頑張ることができる。
◆幸運であり、最善に生きるには、
- 自分ができる努力をしながら、素直で柔軟な姿勢で暮らす
- 自分にとっての「自然な流れ」を見つめる気持ちを持って暮らす
ことが大事である。
◆つなぎの存在
商売や仕事において
「うまくいかない」
「何かが足りないい」
と感じるときは、
「3つ目の要素は何か?」
を考える。
その3つ目とは
「中間の存在」、
仕事における「つなぎの存在」が
大切である。
自分の商売や仕事において、
「つなぎの存在」とは何か?
何に当るのか?
これを考えることが大事である。
◆成功する人間になるには
- 反省ができること
- 自分の弱点や、その成したい物事の弱点に気づく
- 自分の良心に沿った行動をする
- 良心を大切にする
◆継続させることが大事!
自分の思い通りにいかない、
ならない、と思っている人が多い。
そのような時は、
自分に合わない不要な欲を求めていないか
ということを省みる。
何かを無視したところで、
その次は「それの継続」という
大きな自然の「流れ」が誰にでも
待ち受けている。
多くの人は、
初めの一歩を成すことばかり考えて、
その後の「継続」が視野から欠落している。
わかりやすく言えば、
無理な結婚も同じ。
結婚がゴールとしか見えていなければ、
周りの忠告も耳に入らない。
その後の結婚生活の継続で、
初めて現実の問題と向き合うことになる。
このようなことを正しく判断するには、
「素直な視点で、それを見る」
ことが大事になる。
そして、自分の希望を実現するためには、
自分自身が真理に沿った生活を
「している」ことが、
絶対条件である。
◆自分の人生を生きる
私たちは「自分を」生きているように
思っているが、
「他人の視線のために」
生きていることがある。
自分を生きるには、
- 自分のことを知る
- 自分に勝つ
- 足るを知る
自分自身であり続ける人は、
永遠を生きることになる。
◆悩みの原因(本質)を探す
私たちは、
目の前の「悩み」だけを見て悩んでいる。
しかし、加工されて出現した「その悩み」にも、
原因となる元の原木が必ずある。
だから目の前の悩みを解決する、
自分が納得するためには、
悩みの元の原木を探そうとする
視点を持つことが必要である。
目の前の悩みだけを見て悩んでいると、
悩みの原木がそのままなので、
再び必ず同じような悩みが再生される。
◆中間を意識する
人間とは、
自分が天下を取ったと思った瞬間から、
次の崩壊が始まっている。
過去の歴史を見ても言えることであり、
国や企業や個人の栄枯衰退をみても然り。
しかし、これを避ける方法が
ひとつだけある。
何か?
「中間」
人間は、
「中間であること」を意識することが、
自分自身を最善に誘導する。
心と肉体を持つ人間を分析した結果、
人間はすべての意味において、
「中間という状態」が最善であり、
最も安定していることがわかった。
◆「重」は「軽」により支えられている
ある会社で
効率を上げるためにムダだと思われていた
社員を全員クビにした。
ところが、有能な社員もあとから
順番に辞めていって立ちいかなくなった。
なぜか?
会社に評価されない下仕事をする
人間がいなくなったので、
有能な社員がそれをすることを
バカらしくなって辞めたのである。
つまり、ムダだと思われていた社員が
嫌な仕事をしてくれて「いた」のだ。
しかし、そのようなことは会社側からは
見えないから、評価されなかったのである。
有能な社員と、ムダとされていた社員が、
両方いてこそ役割分担ができて会社が
機能して「いた」のである。
◆流れをみる!
もし自分が迷ったときは、
- 自分ができる努力をしながら
- 過去から今までの、その流れを見てみる
- 今の流れを静観してみる
このようにすると、
知恵や何かが見えてくる。
もし自分が、流れの中に没入してしまうと、
何も見えずに不安なままあわててしまう。
大きな視点で流れを見る習慣を
身につけるだけでも、
人生は改善する。
◆真の勝利者とは
人間は死ぬまで勉強して知恵を持ち、
すべてを静観する気持ちを維持しながら、
他人への奉仕の気持ちを持てれば、
その人は人生の真の勝利者である。
金持ちが勝利者ではない。
真の勝利者とは、
他人や社会に尽くせる
人間のことである。
◆この世の道理(法則)
他人から見ても、
不思議なほど幸運で恵まれた人間がいる。
本物の人間とは、
- 普段の生活でも慎重であり、絶えず周囲に注意をする「努力をしている」
- いつも身なりを清潔にして、部屋掃除もする
- 素直な気持ちで生活している
- 生活の中で、生き生きとすることを心がける
- 気持ちを安静に冷静に維持する心がけをもつ
- 時を「待つことができる」人間である
- 臨機応変に冷静に打って出る、行動を起こすことができる人間である
- 何事においても、ほどほどでやめることができる人間である
- 自分の良心に沿っていきる
このような生活の「努力」をおこなっている人間こそが、
他人から見ても不思議なほど幸運な選択と、
生活での良い動きをしていくのがこの世の道理である。
◆老子は、
世の中の物事が上手く回ること、
人間が便利に生きられること、
そこには見えない存在…空、犠牲者、陰の功労者、
名も無き者たち…、
「見えないお陰様」が存在することを
知りなさいと語っていると思われる。
「陰」があるからこそ、
「陽」が存在する。
これを「陽陰」思想とは言わずに、
陰陽思想と呼ぶのは、
先に「陰」が必要だからだ。
別の言い方をすれば、
今が貧乏ならば、
あとは金持ちになるだけだ。
もし、貧乏が嫌で奮起して頑張って、
わずかでも何かその人が得れば、
「それは最初に貧乏が存在したお陰」である。
心を空(カラ)にして生きる。
心がカラならば、
あとは知恵が入ってくるしかない。
自分の心を悩みで満たしていれば、
良い考えが入ってこれない。
◆最良の人物とは、
水のような人のことである。
水(=聖人)は、万物に恵みを与えるが、
決して万物と争うことがなく与える一方である。
そして水(聖人)は、
誰もが嫌がる自然に水が集まる低い場所
(社会的に低い地位)に存在する。
そここそが、本当は聖地(道)なのだ。
◆人間はどんな人生・環境・生活であっても、
神仏に頼らずに自分なりのできる努力をしながら、
自分が生かされていることに感謝して、
「お任せ」で生きれば大丈夫になる。