ハズリット箴言集 人さまざま by ウィリアム・ハズリット
WILLIAM HAZLITT(ウィリアム・ハズリット)
1778-1830=イギリス・ロマン主義時代の批評家・エッセイスト。
主著に『シェークスピア戯曲の登場人物について』(1817)、『イギリス詩人論』(1818)、『イギリス喜劇作家論』(1819)、『エリザベス時代演劇論』(1820)、『円卓』(1817)、『座談』(1821-22)、『時代の精神』(1825)ほか。
こざかしい人間と
偽善者と口先ばかりの小才子がはびこる
今の世の中で、
ともすれば見失われがちな大切なことを
ハズリットは私たちに思い出させてくれる。
それは、
この世から何が失われようと、
偉大な気高いものを消し去ることは誰にもできない、
そしてそれを探し求め、
いつくしむことこそ、
私たちの人生を実り多いものにする、
ということである。
箴(しん)言集とは、
- 文章が簡潔であること
- 意味が一目瞭然であること
- わずかな文字ですべてを語ること
- 内容が陳腐であってはならないこと
- 展開させればひとつのセッセイとなるに十分な内容と土台を持つと同時に、それひとつがまとまった思想を持つこと
目次

MEMO
◆何をするにしても、
才能ある者は努力するから
それに秀でるのではない。
秀でるから努力するのである。
◆人間の醜さを最もはっきり示すのは、
人は不幸者を助けることも、
その不幸に自ら立ち向かうこともせず、
いたずらに犠牲者を避けるということである。
なまじかかり合いになって同情や助力を
更に期待されたりしたら大変だという気持ちで、
まるで倒れかかった建物から逃げ出すかのように、
人は不幸者から逃げ去るのである。
◆敵を作ることを恐れていたら、
本当の友人は決して作れないだろう。
◆経験を積んだ賢い人たちの
助言に我々は耳傾けようとしない。
彼らは老人だと我々は思うからである。
彼らも昔は若かったし、
我々と同じ状況に身を置いたことも
あるのだということを我々は忘れる。
◆自分に勝てる同業者が
一人もいなくなると、
人は汗水たらして精進することを
やめてしまう。
進歩は競争の終わりと共に
終わるのである。
◆よくなろう、よくなろうと、
いつも努力している者は
決して大人物にはならない。
偉大さは高く聳え立つ峰であって、
登りは険しく長い。
この高みにひと飛びで
達するには天性の大胆さと力がいる。
ねばり強い細心の一歩一歩ではない。
◆善悪は、一枚の絵にも光と影が
なくてはならないように、
人生にはなくてはならない
もののように思える。
成功も度重なれば喜びは減るし、
楽しいこともすぐ飽きがくる。
苦労あっての快適な骨休めであり、
ひもじさあっての粗食のうまさである。
疲れた者には堅い寝床も羽根に変わる。
すべてにおいて、
追求の困難と不確かさが
目的達成の喜びを増す。
不幸な者は不幸だからこそ、
幸福の追求とそれへの憧れが強い
という意味で幸せだともいえる。
欲望することは、
ある意味で、
享楽することである。
◆最良の会話は観察と内省と
逸話から成り立っている。
具体的な例を挙げない長ばなしは
冗漫(じょうまん)な論説と同じで
退屈きわまりない。
◆我々の最大関心事が
我々自身にあるからといって、
他人も同じくらい強烈に
我々に関心を持っていると
思ったら大間違いである。
その逆だと思った方がよい。
◆人生の不幸の半分は、
間違った物事にいろいろ
手を出しても成就はおぼつかない
ということを考えす、
あまりにも多くを望むことからくる。
我々は自分にない器量に憧れて
自分をみじめにする。
そして、仮にそのような器量が
自分にあったとすれば、
今、自分が持っているものを
維持できなくなるということを
考えない。
しかも今、自分にあるものこそ、
いよいよとなれば、
他の何を棄ててでも、
これだけは手放したくない
というものだ。
◆友人は我々のためなら
何でも喜んでやってくれそうだが、
最も肝心なことになると逃げる。
彼らが我々のために
常に用意しているものはひとつしかない。
つまり我々が望んでもいない
忠告である。
◆世論とは、
世相と群集心理との
相乗作用の結果である。
◆世間が人を評価するのは
その専門分野の能力によってである。
我々が自分を評価する時も同様である。
自分の仕事の中にこそ、
人の一生の成功が賭けられている
からである。
しかし我々の才能と仕事が一致しないことが、
何と多いことだろう!
このようなことが
どうして起こるのか。
ひとつには、
人は自分自身に忠実でないからである。
我々は自分に似つかわしくない
事柄に目を向けて、
自分本来の傾向をねじ曲げたり
軽んじたりしている。
これが我々の仕事と天性の素質との
間に奇妙な食い違いを起こさせるのである。
◆死は最大の悪である。
なぜならそれは
希望を断ち切るからである。
◆希望は最良の財産である。
希望を全く失わない限り
人は完全に不幸だとは言えないし、
またそこまで落ち込むことも稀である。
◆他人にお節介を焼いたりして
迷惑がられるバカがいる。
彼らは自分のことは
何ひとつ処理できないくせに、
他人のこととなると何ひとつ
放っておけないのだ。
人助けのつもりで実は
人の邪魔をする。
はじめに援助を申し出て
肝心なときに尻込みするのは、
人の仕事を最初から
ぶちこわしにかかるのと
同じことである。
◆素直な人なら、
世間に認められると他人をねたむ
ことをしなくなる。
人が他人に対して一番公平になれるのは、
自分が世間から公平に評価されたと
思える時である。
成功しても他人を公平に見ることが
できないとすれば、
その成功は当人の真価とは
無関係のものだった証拠である。
◆親しい仲間をほめるのは
一種の自己愛である。
仲間をほめるときに我々が
慎重なのは嫉妬心のせいでもあるが、
何よりもこの自己愛をさらけだすことを
恐れるからである。