GET UP! 座りっぱなしが死を招く by ジェイムズ・A・レヴィン
ジェイムズ・A・レヴィン
医学博士。
アメリカの研究病院メイヨークリニックの研究員。
専門は肥満と健康増進。
Treadmill Desk(ウォークステーション)の発明者でもある。
これまでに百本以上の研究論文を発表。
数十もの企業でオフィス改革プログラムに携わり、学校の教室をより活動的な場にするためのスクールアドバイザーとしても活躍中。
NASAの年間発明賞、万博のプラチナ賞、ミネソタ州年間起業家賞を受賞…
衝撃の研究結果!
1時間座ることで寿命が2時間縮む!
人類は何百万年も昔に歩行するよう進化し、
以来思考力も二足歩行と足並みをそろえて進化してきた。
脳も体と同じように、
動きながら進化したのだ。
人間が座り出したのは
都市化と工業化のあとであり、
それからわずか二百年しか経っていない。
進化の過程に反する行為は不具合を起こす。
目次
1 「椅子教祖」の台頭(幕開け/食べよう、動こう/脳の傾向 ほか)
2 「椅子教祖」の呪い(椅子の呪い[からだ編]/椅子の呪い[こころ編]/椅子の呪い[自動車編] ほか)
3 「椅子教祖」の追放―革命的問題解決(幸福革命/発明せよ!テクノロジー革命/働け!オフィス革命 ほか)

MEMO
GET UP! 座りっぱなしが死を招く
◆ある部族の物語
あるところに、
とても幸福に暮らしている部族があった。
狩人は狩りを、農民は農耕を、
冒険者は冒険を、
主婦は家の切りもりをして
暮らしたいた。
お年寄りや病人や子どもは、
世話をしてもらえた。
みんなが暮らして
いけるだけのものが充分にあった。
ある日、
一番腕のいい狩人がこう考えた。
「おれは一番狩りがうまい。
一番たくさん獲物をとる。
せっかくの獲物を、
どうしてみんなと分ける必要がある?」
そこで狩人は、
山のてっぺんに小屋を建てた。
そして獲物を独り占めして、
みんなその小屋にしまい込んでしまった。
ほかの狩人たちもすぐに真似をして、
一人、また一人と、
山の上に家を建てては一人で
暮らすようになった。
部族はもうやってけなくなった。
お年寄りや病人はまもなく亡くなった。
主婦や子どもたちは
どこかほかへ行くしかなかった。
さて、山の上の狩人たちはどうなったか。
一番腕のいい狩人は、
ご馳走をたらふく食べて、
とても太ってしまった。
もう狩りに行くこともできない。
とうとう病気になって、死んでしまった。
お医者さんはとっくの昔になくなっていたから。
残った狩人たちも、
思っていたほど上手に狩りができなくなった。
弓矢をつくる職人がいなくなり、
みんなで分け合っていた貴重な知識も失われた。
狩人たちは、
お腹を空かせて死んでしまった。
強者も弱者も同じくらい、
部族の恩恵を被っていたのだ。
必要以上のモノを欲しがるのは、
誰にとっても無益なことだ。
先住民の文化では、
必要以上に広い家に住むのは狂気の
沙汰とみなされる。
プラトンによれば、
多様な人々がそれぞれの技能(医術など)を
持ち寄って相互に依存し、
仕事(治安維持など)を分配し、
結束を固めるのに必要なだけの人数を
確保するために、社会は生まれたのだという。
◆肥満の人は、同じ生活環境にある痩せた人よりも、
座っている時間が1日に2時間15分長い。
◆睡眠不足が肥満を生む!
長く眠らずにいると、
通常より食べる量が増える。
にもかかわらず、運動量は増えない。
むしろ睡眠不足のために疲労困憊(こんばい)し、
運動量が減って座っている時間が長くなる。
睡眠不足が肥満を生む。
睡眠不足は食べる量も座る時間も
増やすのである。
昼寝は体に良く、
エネルギーを与えてくれる。
睡眠不足の人は、
午後に昼寝をするとよい。
◆座りっぱなしは新たな喫煙である!
1日に11時間以上座っている人は
4時間以下しか座らない人に比べ、
早死にのリスクが40%高い。
長時間の座りっぱなしは、
糖尿病、骨粗鬆症、心疾患、短命
につながる。
糖尿病、骨粗鬆症、心疾患以外にも、
椅子の余罪が次々に明るみに出てきた。
乳がん、大腸がん、肺がん、子宮内膜がん、
鬱病、高血圧症、腰痛、睡眠の質の低下なども
長時間の座りっぱなしに関係している。
たとえば女性は体重に関係なく、
1日に1時間散歩するだけで、
じっとしている人と比べて乳がんのリスクが
14%も低下する。
残念なことに、週に数回ジムに通う程度では、
長時間の座りっぱなしの害は打ち消せない。
多くの人は1日30分間エクササイズしただけで
健康的な生活を送っていると安心している。
でも、それ以外の23時間30分の過ごし方も
考えなければならない。
ジム通いしたとしても、
長時間の座りっぱなしが健康に与える
悪影響は帳消しにできない。
ジムに通っていようとも、
座りっぱなしはやはり命取りなのだ。
◆糖尿病が多くなったワケ!
食後に座ったままでいた場合、
血糖値は高山型を描いて急上昇し、
ピークが2時間にわたって持続する。
しかし食後に15分間、
時速約1.6キロの速度で歩くだけで、
上昇カーブは高山型から穏やかで
安全な丘陵型に変わる。
ピーク時の血糖値が半減する。
食後にちょっと歩くだけで、
高血糖は抑えられる。
朝食であろうと昼食であろうと、
食後に必ず15分間ほど軽い
ウォーキングをするとよい。
食べ物は燃料だ。
私たちは動くために食べる。
食べても動かずにいると、
その結果は高山レベルの血糖値だ。
椅子依存症が広がる現代社会で
糖尿病の罹患率(りかん)が倍増すると
予想されるのは、当然なのだ。
◆人は都会に住んだだけで、
農村部の人の半分しか動かなくなる。
都市化にともなってカロリー燃焼量が
これほど減少するのであれば、
世界に蔓延する肥満の原因は
完全に説明できる。
◆「座り屋」にする要因
「動き屋」の脳は「動きなさい」
という信号をひっきりなしに出しつつ、
死に物狂いでその信号に反応している。
一方肥満傾向にある人の脳は
「動きなさい」という信号に対して無反応だ。
このように、
人を動かそうとする脳と
座らせようとする脳との違いは
生まれつきだ。
だが、人を「座り屋」にする要因は
脳だけではない。
筋肉が「座り屋」タイプである場合にも、
座っている時間は長くなる。
さらには「座り屋」傾向の脳が
「座り屋」傾向の筋肉を生んでいる
可能性もある。
座っている時間が長いと
筋肉が運動不足になるからだ。
◆座り病
肥満の人は、
同じ環境で暮らしている
痩せた人よりも長く
…しかもはるかに長く…
座っている。
座ることが、
肥満の人の低NEAT(非運動性活動熱産生)
を引き起こしている。
肥満は典型的な座り病である。
肥満とは椅子依存症にほかならない。
椅子は太るのだ。
◆肥満の核心はNEAT!
余剰カロリーを摂取しても
太る人と太らない人がいる。
この違いは何か?
その答えは
NEAT(非運動性活動熱産生)
にある。
太らない人は、
余剰カロリーをすべて燃焼する。
太らない人は、
日々の活動のなかで座らずに
動き回っている間に余剰なカロリーを
消費している。
NEATのスイッチを入れられる人は、
食べすぎても太らずにスリムな
体形を維持できる。
それに対して食べすぎたあと
座ったままでいる人、
つまりNEATのスイッチを入れられない人は、
余剰のカロリーをすべて体脂肪に変えてしまう。
肥満の核心は、
NEATなのである。
肥満の人は、
同じ環境で暮らしている痩せた人よりも長く…
しかもはるかに長く…
座っている。
座ることが、肥満の人の低NEATを
引き起こしている。
肥満は典型的な座り病であり、
座っている時間が長ければ長いほど、
肥満になりやすい。
つまり、椅子は太るのだ。
◆座りっぱなしは
肥満の重大な引き金になり得る!
◆運動、食物、生き残り。
この3つは厳然と結びついている。
人間は生きるために食べ、
食べるために体を動かす。
運動が生を決定ずけるのだ。
◆座ることは喫煙よりも体に悪い!
座ったままで1時間過ごすごとに、
人生の時間は2時間ずつ、
永久に失われる。
◆「座る」という行為は本来「休憩」する行為である!
座るというのは本来、
立ちっぱなしの身体を
休めるための行為だ。
解剖学的に見ても生理学的に見ても、
人体の本来のありかたは
立ちっぱなしなのだ。
人間は1日の大半を直立して
過ごすようにできている。
歩きながら仕事をし、
歩きながら子どもを育て、
歩きながら発明し、
歩きながら食料を集め、
狩りをするときは走る。
「座る」という行為はもともと、
「活動的に1日のなかで何度か
活動を中断し、ほんの短時間ずつ
休み行為」だったはずだ。
だが、現代人の生活では活動と休憩が
逆転している。
私たちは1日に13時間座り、8時間眠る。
立ち上がって活動するのは3時間だけだ。
1日中座っていては、
健康が損なわれるというのに…
◆椅子依存症
椅子依存症とは、
アルコール依存症患者がいつも
スコッチのお代わりに飢えているのと
同じように、座ることに飢えている
状態を指す。
現代人はベッドから車の座席へ、
車から事務用の椅子へ、
職場から帰宅してまたソファへと、
だらだらと移動しては座り続けている。
その代償はあまりにも大きい。
座ったままで1時間過ごすごとに、
人生の時間は2時間ずつ、
永久に失われる。
座りっぱなしが人生にどんな苦痛を
もたらすか、
体への悪影響を考えたらきりがない。
座りっぱなしの生活は、
人間の最も本質的な部分を蝕む。
現代人はとぼとぼと力なく歩き、
オフィスではキュービクルのなかで
ひとり寂しく、悲しい気持ちで座っている。
私たちを乗せた椅子は、孤島と化しているのだ。