LIFE SHIFT(ライフ・シフト) by リンダ グラットン, アンドリュー スコット
グラットン,リンダ
ロンドン・ビジネススクール教授。
人材論、組織論の世界的権威。
リバプール大学にて心理学の博士号を取得。
ブリティッシュ・エアウェイズのチーフ・サイコロジスト、PAコンサルティンググループのダイレクターなどを経て現職。
組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、85を超える企業と500人のエグゼクティブが参加する「働き方の未来コンソーシアム」を率いる…
スコット,アンドリュー
ロンドン・ビジネススクール経済学教授、前副学長。
オックスフォード大学を構成するオール・ソウルズカレッジのフェローであり、かつ欧州の主要な研究機関であるCEPR(Centre for Economic Policy Research)のフェローも務める。
2005年より、モーリシャス大統領の経済アドバイザー。
財務政策、債務マネジメント、金融政策、資産市場とリスクシェアリング、開放経済、動学モデルなど、マクロ経済に主要な関心を持つ…
お金偏重の人生を、
根底から変える!
成長至上の次に来る、新しい生き方!
誰もが100年生きうる時代をどう生き抜くか。
働き方、学び方、結婚、子育て、人生のすべてが変わる。
目前に迫る長寿社会を楽しむバイブル。
みんなが足並みをそろえて教育、勤労、引退という
3つのステージを生きた時代は終わった。
では、どのように生き方、働き方を変えていくべきか。
その一つの答えが本書にある。
目次
日本語版への序文
序 章 100年ライフ
第1章 長い生涯――長寿という贈り物
第2章 過去の資金計画――教育・仕事・引退モデルの崩壊
第3章 雇用の未来――機械化・AI後の働き方
第4章 見えない「資産」――お金に換算できないもの
第5章 新しいシナリオ――可能性を広げる
第6章 新しいステージ――選択肢の多様化
第7章 新しいお金の考え方――必要な資金をどう得るか
第8章 新しい時間の使い方――自分のリ・クリエーションへ
第9章 未来の人間関係――私生活はこう変わる
終 章 変革への課題

MEMO
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
◆ロボットが人手不足を救う
テクノロジーが人間の雇用を奪うかという
議論だけではなく、テクノロジーが労働力を
供給できるかという議論も重要だ。
先進国ではとくに、人口動態上の要因により
労働力の供給が不足することが予想される。
それがどこよりも顕著なのが日本だ。
最大約1億3000万人に達している
日本の人口は、2060年には8700万人まで
減るという予測もある。
しかも、このうち65歳以上の人口が
40%を占めるという。
日本では大規模な人手不足が生じる
ことは避けられない。
一方で、
ロボットに雇用が奪われるという課題もあるが、
ロボットに雇用が奪われることを心配するよりも、
ロボットが労働力人口の縮小を補い、
経済生産と生産性と生活水準を
保ってくれるということを歓迎すべきかもしれない。
◆経済的価値を生むのは「製造」ではなく「イノベーション」
アップルのiPhoneやiPadは、
主に台湾の鴻海精密工業の子会社が中国に
設けている工場で製造されているが、
製造コストが販売価格に占める割合は
5~7%程度にすぎない。
アップルが販売価格の30~60%相当を得ている。
中国の工場で鴻海の従業員が生み出している
経済的価値は一人当たり2000ドル相当なのに対し、
アップルの従業員は一人当たり64万ドル以上の
経済的価値を生み出している。
世界の最も価値あるブランド
のランキングでアップルが首位を維持しているのは
ここに理由がある。
ちなみに2位はグーグルである。
経済的価値を生むのは、
製造ではなく、イノベーションなのである。
◆中スキルの職業が空洞化する!
アメリカのデータによると、
1979年以降、低スキルの職と高スキルの職は
増えているが、中スキルの職は減っている。
スキルのレベルで見ると、
労働市場の中央に大きな穴が空いているのだ。
中スキルの雇用が空洞化しているのである。
この現象が起きた理由を理解するには、
さまざまな職業を2種類の基準に従って
分類するのが有益だ。
たとえば、主として「頭」を使う仕事か
「体」を使う仕事か、
そして、「定型的」な仕事か「非定型的」な
仕事かを基準に分類する。
「頭」を使う定型的な職には、銀行の窓口係、
「体」を使う定型的な職には、
工場の組み立てラインの仕分け係がある。
テクノロジーにより代替えがすでに
大きく進んでいるのは、定型的な職だ。
細かくマニュアル化できる業務は、
仕事のやり方をプログラムに書いて
コンピュータやロボットに担わせやすいのである。
アマゾンの大半の倉庫では、
ロボットがひっきりなしに商品を梱包担当者の
もとに運び、同時に商品のデータを中央システムに
送り続ける。
そのプロセスは、人間が介入したり、
意思決定したりしなくても機能するようになっている。
これは、機械学習とセンサーのイノベーションが
急速に進んだことで可能になった。
中スキルの雇用の空洞化が進んでいるのは、
多くの中スキルの職が、
アマゾンの倉庫の商品取り出し係のように
定型的な業務だからだ。
この種の業務では、
テクノロジーによって人間を代替えでき、
コストも人間の労働者の賃金より安く抑えられる。
◆Smart City (スマート・シティ)
いま私たちは、人類史上最も特筆すべき
大移動を目撃している。
それは、農村から都市への人口移動である。
2010年、世界全体の都市生活者の数は
36億人だった。
2050年には、それが63億人になると
見られている。
これは、毎週130万人が都市に移り住む計算だ。
都市で暮らすことを望む人が増えているのだ。
なぜか?
インターネットが登場した当時、
この新しいテクノロジーにより物理的な
距離が重要性を失い、
私たちは自分の好きな場所で暮らせるように
なると言われていた。
しかし実際には、確かに「遠さ」の弊害は
問題でなくなったかもしれないが、
「近さ」の価値はむしろ高まっている。
これは、質の高いアイデアと高度なスキルの
持ち主のそばに身を置くことの重要性が
高まっていることの表れだ。
実際、アメリカではサンフランシスコ、シアトル、
ボストンなどのスマート・シティは経済的に繁栄し、
人口も増えている。
東京の人口が増えているのも
同じ理由と思われる。
これらの都市には、質の高いアイデアと高度な
スキルをもち、自分と同様の高スキル層の多い
町に住みたいと考えている人たちが集まってくる。
そのような土地でこそイノベーションが急速に
進むことを知っていて、ほかの聡明な人たちの
そばで暮らし、互いに刺激し、支援し合いたいと
考えるからだ。
◆ギグ・エコノミーとは?
エコシステムの柔軟性を生かして、
人生に一時期に組織に雇われずに働く
選択肢も現実味をもってくる。
スキルを買いたい企業と働き手をつなぐ
テクノロジーは、ますますグローバル化し、
安価になり、洗練されつつある。
そうした仲介の仕組みはすでに増えはじえており、
それが最近話題の「ギグ・エコノミー」や
「シェアリング・エコノミー」の到来をもたらしている。
テクノロジーの進化により情報のコストが下がった結果、
買い手と売り手が互いに見つけやすくなり、
独立した情報源から相手の信頼性と品質を判断
しやすくもなった。
フルタイムやパートタイムで雇われて働くのではなく、
次々と多くの顧客の依頼を受けて働くことで生計を立てる…
そういう働き方をする人が増えるのがギグ・エコノミーだ。
すでにUpworkなどのクラウドソーシング・サイトで
自分のスキルを売ったり、
問題解決策募集サイトのInnocentive(イノセンティブ)
などで報酬を得たりする道が生まれている。
将来は、こしたウェブサイトの役割がさらに
大きくなるだろう。
◆長寿化時代は就職、引退の常識が変わる
長寿化を恩恵にするためには、
古い働き方と生き方に疑問を投げかけ、
実験することをいとわず、
生涯を通じて、「変身」を続ける覚悟を
もたなくてはならない。
いま30歳未満の人には、
すぐに給料のいい職に就こうとばかり
考えないようにアドバイスしたい。
じっくり時間を取ってさまざまなキャリア
選択肢を検討し、世界について学び、
労働市場の未来をよく理解したほうがいい。
人生が長くなれば、
人生の途中で変身を遂げることが不可欠になる。
それを実践するためには、
自分について知ることと、
自分とは大きく異るロールモデルと
接することが重要だ。
いま30歳未満のあなたは、
人的ネットワークを広げて、
自分とはまるで違う人たちと付き合う。
40~50代の人は、
働きはじめたとき、
60代で引退するつもりだっただろう。
しかし、あなたの職業人生は、
少なくともあと25年続く可能性が高い。
しかも、これから訪れようとしているのは、
スキルの価値が瞬く間に変わる時代だ。
そういう時代には、手持ちのスキルでよしとせず、
新しいスキルの習得に力を注がなくてはならない。
働く期間が長くなり、
人生の途中で変身を遂げる必要性が高まれば、
人的ネットワークを広げて自分とはまったく
違うタイプのロールモデルを見つけ、
新しい生き方の選択肢を知ることが大切になる。
60歳以上の人は突如、
長寿化の恩恵を手にすることになる。
新しい機会が開ける反面、若い頃に想像していたより
高齢になるまで働き、収入を得続ける必要が出てくる。
若者たちのメンターやコーチ、
サポートを務めることがあなたの主たる役割に
なるかもしれない。
若い世代のロールモデルになり、
生き方の指針を示せる可能性もある。
◆長寿化時代は夫婦共稼ぎが前提となる
働き方が根本から変われば、
家庭生活も大きく変わる。
長寿化時代には、
家庭でパートナーの両方が職を持つことが
不可欠になる。
二人が同時に働く形態もありうるし、
互いのキャリアを支えるために
交互に職に就く形態もありうる。
いずれにせよ、
経済的に責任を分かち合えば、
長い人生に必要な資金を確保するうえで
リスクを大きく減らせる。
ところが、
日本では職を持つ女性の割合が著しく小さい。
日本女性の70%は、
第一子出産と同時に職を辞めている。
これでは、男性が一家の稼ぎ手として大きな
重圧にさらされざるをえない。
女性が家計に貢献する余地も限定される。
夫が外で働いて金を稼ぎ、
妻が専業主婦を務めるという昔ながらの家族形態は、
長寿化時代には明らかに適さない。
日本の男女平等度は、
調査対象145カ国のうち101位に
とどまっている。
100年ライフの恩恵を最大限大きくするためには、
この状況を解消することが避けて通れない。
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◆「若い」「老いている」の概念が変わる
長寿化を恩恵にするためには、
まず視野を広げるべきだ。
高齢者医療や年金といった人生の締めくくりの
時期に関わる問題だけを見るべきではない。
これらの問題が重要でないと言うつもりはない。
65歳以上で仕事をもっている人が増えており、
企業は高齢者の雇用に世界で最も熱心だ。
高齢者を助けるテクノロジーやロボットに
関しても、世界を牽引している。
しかし、高齢者医療や年金の問題ばかり見ていると、
全体像を見失う。
長寿化により、老いて衰えて生きる年数が
長くなるわけではない。
長く生きられるようになった年月の大半を、
私たちは健康に生きることになる。
若々しく生きる年数が長くなるのである。
いまの80歳は、20年前より健康だ。
いまの80歳の人たちの子どもが80歳になるときには、
もっと健康な日々を送れる。
「老いている」「若い」という概念が大きく変わるのだ。
したがって、長寿化に備えるためには、
人生の締めくくりの時期への準備をするだけではなく、
人生全体を設計し直さなくてはならない。
長寿化時代には、人生の新たなステージがいくつも出現し、
パートナー同士の関係も様変わりする。
そして、新しい生き方が試みられるようになる。
高齢者への支援が比較的手厚いが、
長寿化時代に向けて社会が試練に直面していることは
間違いない。
試練に立ち向かうための土台は整っている。
強みを生かすためには、職業生活と家庭生活の両面で
「よい人生」とは何かについて考え方を変えることが
不可欠だ。
人が長く生きるようになれば、
職業生活に関する考え方も変わらざるをえない。
人生が短かった時代は、
「教育▶仕事▶引退」という古い3ステージの
生き方で問題なかった。
しかし、寿命が延びれば、
2番目の「仕事」のステージが長くなる。
引退年齢が70~80歳になり、
長い期間働くようになるのである。
多くの人は、思っていたより20年も長く
働かなくてはならないと想像しただけでぞっとするだろう。
不安も湧いてくる。
そうした不安に突き動かされて、
3ステージの生き方が当たり前だった時代は
終わりを迎える。
人々は、生涯にもっと多くの
ステージを経験するようになるのだ。
選択肢を狭めずに幅広い針路を検討する
「探検者」のステージを経験する人が出てくるだろう。
自由と柔軟性を重んじて小さなビジネスを起こす
「個人起業家」のステージを生きる人もいるだろう。
さまざまな仕事や活動に同時並行で携わる
「ポートフォリオ・ワーカー」のステージを
実践する人もいるかもしれない。
このように選択肢が増えれば、
人々はもっと自分らしい人生の道筋を描くようになる。
同世代の人たちが同時に同じキャリアの選択を
おこなおうという常識は、過去のものになっていく。
同世代が同時期に大学に進み、
同時期に就職し、同時期に子どもをつくり、
同時期に仕事を退く…
隊列を乱さず一斉行進する集団さながらの
画一的な生き方は、時代遅れになる。
社会が人生の新しいステージを受け入れるためには、
乗り越えなくてはならない障害がる。
国の制度が妨げになる場合もあれば、
人々の固定観念が妨げになる場合もある。
しかし、過去に機能した思考が未来も
機能するとは限らない。
たとえば、個人起業家(独立生産者)について考えてみる。
優秀な若者の安定志向が強く、
公務員や大企業への就職を目指すことが多い。
起業家志望者への支援や評価はあまりに乏しい。
人が個人起業家への一歩を踏み出すためには、
自分が新しいことを始められるという自信を
いだいていること、そして政府の政策により
後押しされることが必要だ。
ところが、日本ではそのような環境が整っていない。
起業は好ましいキャリアの選択肢と
考えられていないのだ。
若い世代が実験に踏み出すのを妨げる要因もある。
厳しい雇用状況にさらされている若者は、
学校を出たあとすぐに就職しようとする傾向が強い。
学校を卒業したあと、探検の日々を送り、
幅広いキャリアの選択肢を検討することは、
職業人生の賢明な始め方とは考えられていない。
そうした保守的な態度は、人が創造性を発揮する
機会を減らし、実験(経験)の可能性も狭めかねない。
経験することは、長寿化時代にますます重要に
なるかもしれないのに…
◆過去のモデルは役に立たない
長寿化の潮流の先頭を歩む私たちは、
世界に先駆けて新しい現実をつきつけられている。
長寿化が最も進んでいるということは、
裏を返せば、対応するために残された時間が
少ないということである。
私たちは早急に変化する必要がある。
時間は刻一刻と減っている。
政府に求められることは多く、
そのかなりの部分は早い段階で
実行しなくてはならない。
しかし、最も大きく変わることが
求められるのは私たち個人だ。
あなたが何歳だろうと、
いますぐ新しい行動に踏み出し、
長寿化時代への適応を始める必要がある。
長く生きる人生に向けて準備する責任は、
結局私たち一人ひとりの肩にかかっている。
問題は、多くのことが変わりつつあるため、
過去のロールモデル(生き方のお手本となる人物)が
あまり役に立たないことだ。
あなたの親の世代に有効だったキャリアの道筋や
人生の選択が、あなたにも有効だとは限らない。
あなたは、親の世代とは異なる選択をすることになる。
やがて、あなたの子どもたちも、
あなたの世代とは違う決断をするだろう。
人生の道筋に関する常識は、
すでに変わりはじめている。
終身雇用が当たり前ではなくなった。
若者たちの生き方も変わりつつある。
◆人生100年時代のライフスタイル
日本の100歳以上の人は、
すでに6万1000人以上。
今後、100歳を超えて生きる人は
もっと多くなる。
国連の推計によれば、
2050年までに、
日本の100歳以上の人口は
100万人を突破する見込みだ。
2007年に生まれた子どもの半分は、
107歳まで生きることが予想される。
いま50歳未満の人は、
100年以上生きる時代、
すなわち100年ライフを過ごす
つもりでいたほうがいい。
長寿化の負の側面が話題にされがちだが、
この変化を恩恵ではなく、
厄災とみなす記事が目立つ。
長寿化の恩恵に目を向け、
どうすれば、個人や家族、企業、社会全体の
得る恩恵を最も大きくできるか。
長寿化は、社会に一大改革をもたらすと
言っても過言ではない。
あらゆることが影響を受ける。
人々の働き方や教育のあり方も変わるし、
結婚の時期や相手、
子どもをつくるタイミングも変わる。
余暇時間の過ごし方も、
社会における女性の地位も変わる。
20世紀に、社会と経済は大きな変貌を遂げた。
長寿化は、21世紀に同様の大きな変化をもたらす。
この先、多くの変化が私たちを待っている。