スタンフォードでいちばん人気の授業 by 佐藤 智恵
佐藤 智恵
1970年兵庫県生まれ。
1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。
ディレクターとして報道番組、音楽番組などを制作。
2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。
ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家・コンサルタントとして独立。
著書多数。
2005年よりコロンビア大学経営大学院入学面接官、2016年よりTBSテレビ番組審議会委員を務める…
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▶一生使える“自分を変えるヒント”
▶ビジネスに役立つ教養としての心理学、脳科学、経済学
▶豊富な事例や実験結果でわかりやすく解説
目次
1 人間を探究する授業(自分を変えるために人間を知る
ストーリーの力―物語は利益をもたらす
マーケティング―人間の脳には限界がある
イノベーション―挑戦を阻害するものは何か
社内政治の力学―出世競争と人間の本能
リーダーシップ―「いい話」は伝染する)
2 人間力を鍛える授業(スタンフォード流会話術―一流は気くばりを忘れない
スタンフォード流交渉術―戦わない、妥協しない、損をしない
コミュニケーション―伝えるには「戦略」がいる
マインドフルネス―何歳になっても脳は鍛えられる)

MEMO
スタンフォードでいちばん人気の授業
◆日本の大企業を悩ます「イノベーションのジレンマ」
イノベーションには3つのパターンがある。
- 破壊的イノベーション
- 持続的イノベーション
- 効率化のためのイノベーション
「破壊的イノベーション」の代表例が、
ソニーのトランジスタラジオ、
ホンダのスーパーカブ、
IBMのパーソナルコンピューター、
スマートフォン、クラウド・コンピューティングなどだ。
破壊的イノベーションとは、
値段の高い製品を、
大衆向けに変えるイノベーションのこと。
従来のビジネスモデルを破壊していまうことから、
破壊的イノベーションという。
「持続的イノベーション」とは、
ガソリン車がハイブリッドカーになる、
1958年型のスーパーカブが2012年型のスーパーカブになる、
ことだ。
持続的イノベーションは、
今ある製品の延長上に生まれる
イノベーションである。
「効率化のイノベーション」とは、
すでに製造し、販売されている製品をさらに効率よく、
安価に製造するためのイノベーションのこと。
たとえば、トヨタの自動車工場で日々行われている
「カイゼン活動」などだ。
この3つのイノベーションには
どんなメリットがあるのか?
「破壊的イノベーション」は、
全く新しい市場を生み出すから、
雇用も生めば、利益も生む。
「持続的イノベーション」は、
既存の製品を置き換えるイノベーションなので、
雇用やおカネは生まないが、
競合に勝っていくためには、
新製品を出していかなくてはならない。
つまり競争優位性を保つために
必要不可欠なプロセスである。
「効率化のためのイノベーション」は、
安く効率よく製造するためのイノベーションだから、
当然、企業に利益をもたらす。
企業が持続して成長するには、
この3つのイノベーションが繰り返し
出てくるようにしなくてはならない。
つまり、効率よくすることによって節約したおカネを、
革新的な製品を生み出すために使わなくてはならない。
この中で、現代の日本人が圧倒的に得意なのが
「持続的イノベーション」と「効率化のためのイノベーション」だ。
日本人には「改善」の精神があり、
1を2にして、3にして、
というのは非常に得意だといわれている。
だから少しずつ機能を足して新製品をつくる、
とか、すでにあるプロセスを効率化する、
というのはお手の物だ。
逆に、現在の日本人がどちらかといえば苦手、
といわれているのが、
破壊的イノベーションだ。
戦後の日本人は、破壊的イノベーションを
たくさん生み出してきたが、
すごい製品をいくつか生み出した後、
ある意味、大企業病にかかってしまった。
企業は大きくなると、
どうしてもリスクをとらなくなる。
その結果、リスクの高い破壊的イノベーションに
あまり投資しなくなる。
こうした「優良企業が優良企業であるがゆえに
失敗すること」が「イノベーションのジレンマ」である。
もう少しわかりやすくいえば、
優良企業が、持続的イノベーションと、
効率化のためのイノベーションをどんどん
突き詰めていくと、破壊的イノベーションに
成功した企業にあったいう間に負けてしまう。
日本企業は、
今このイノベーションのジレンマに
陥っている。
◆なぜ優良企業は失敗してしまうのか?
日本企業にはたくさんの強みがある。
たとえば、日本にはすばらしテクノロジーがある。
要はそのテクノロジーを新規ビジネスとして
生かせるかどうかなのである。
そもそも日本企業は
イノベーションを起こすのは得意のはず。
なぜか?
社員に投資するからである。
終身雇用制のもと、
長期的な視点で人を育てようとする。
一般的にアメリカ企業は人に投資しない。
化学系のエンジニアを家電部門に異動させ、
家電について大学院で学ばせる、
なんてことはしない。
そんなことをすれば、
大学院修了後に、
よりよい賃金や職場環境を求めて、
競合会社に転職してしまうかもしれない。
日本人社員はできる限り同じ企業で
働き続けたいと思うから、
その心配はあまりない。
イノベーションを起こすのは人なのだから、
じっくり人材教育できる、
というのはとても大きな強みである。
アメリカでは、優良企業が失敗する、
という現象が数多く見られる。
大企業には十分な経営資源があり、
優れた人材がいて、市場優位性もある。
普通に考えれば、
問題なく持続できるはずである。
日本でも同じような現象が見られる。
三洋電機、カネボウ、日本航空、シャープ
といった日本を代表する大企業が次々と破綻した。
なぜ優良企業は失敗してしまうのか?
それは、
多くの日本企業は
イノベーションのジレンマに
陥っているからである。
◆多くの人が誤解しているマズローの「欲求階層理論」
マズローの欲求階層理論とは、
マズローが1943年に発表した論文
「人間のモチベーション理論」にて提唱した考え方だ。
マズローは、人間の欲求には大きくわけて5つある、という。
- 生理的欲求(食欲、性欲、睡眠欲など)
- 安全欲求(安全な生活環境、経済的安定などを求める欲求)
- 社会的欲求(社会や他人とつながっていたいという欲求)
- 承認欲求(他者からの尊敬や評価をもとめること)
- 自己実現欲求(自分の能力を発揮して自分がやりたいことを実現したいという欲求)
この5つの欲求は、
同じ次元に存在するのではなく、
階層構造になっている、とマズローはいう。
つまり、生理的欲求▶安全欲求▶社会的欲求▶承認欲求▶自己実現欲求と、
低次の欲求が満たされていくと、
より高次の欲求を強く求めるようになってくる。
さて、マズローの「欲求階層理論」は、
1(生理的欲求)を100%満たしたら2(安全欲求)へ、
2(安全欲求)を100%満たしたら3(社会的欲求)へと移行する、
と誤って解釈されていることがある。
実際には、5つの欲求は並行して存在していて、
それぞれが満たされている度合いは人によって違う。
◆消費者は本当に欲しいものをわかっていない
人間は何かを購入しようとするとき、
論理的に決断しているわけではない。
まず感情が決断し、
その決断をあとからロジックで正当化
している。
人間の購買動機には
「無意識の要素」が大きな影響を与えていて、
実は消費者は本当に欲しいものをわかっていない
ことが多い。
そのため、
「これからのマーケティングは無意識の要素を探し、
それらをストーリーにして伝え、
消費者の深層的な購入動機に訴求すべきだ。
▶マーケティング1.0(製品中心)は、
人間の生理的欲求と安全欲求を刺激する
マーケティングである。
▶マーケティング2.0(消費者志向)は、
社会的欲求を刺激するマーケティング。
顧客をグルーピングし、
特定のターゲット顧客を
満足させる商品を売り出す。
▶マーケティング3.0(価値主導)は、
顧客の自尊心を満たすマーケティングだ。
モノ=自分の価値観の象徴と考えるようになる。
▶マーケティング4.0(自己実現)は、
オンラインとオフラインの両方で、
顧客が自己実現するのに役立つ製品やサービスを
提供するマーケティングである。
マーケティング3.0と4.0において、
「この製品はあなたの価値観にぴったり合った
製品ですよ」と訴求するのに大きな力を発揮するのが
「ストーリー」である。
消費者が求めているのは、
価格の安さや機能といった要素だけではなく、
「この商品は自分の価値観に合っているか」
「この商品を持っている自分はかっこいいか」
という点だ。
「安さ爆発!」「世界最高画質!」
といった売り文句だけでは訴求できなくなっている時代に、
最後の決め手となるのは、
ストーリーなのだ。
◆決断疲れ
身体を使い続けていると
疲労するのと同じように、
精神も疲れる。
たとえば、人間は肉体的に疲れると眠くなり、
知らず知らずのうちに目を閉じてしまう。
身体そのものが「疲れているよ」
と教えてくれる。
ところが気力がなくなってきても、
眠たくはならない。
では、どうしたら疲れているとわかるのか。
それは、決断した結果に
あらわれていることがわかった。
人間はたくさん決断すると、
最後のほうの決断はいい加減になるか、
決断そのものを放棄してしまう。
◆なぜテレビショッピングは深夜に放映されるのるか?
「人間は数多くの決断を下していくと、
精神が疲労し、決断を放棄するか、
質の低下を決断してしまう」
ということが明らかになっている。
したがって、
1日が終わり、
肉体的にも精神的にも
最も疲れている時間に
深夜のテレビショッピングが
放送されているのは、
決断するのをやめて
衝動買いしてしまうことを
狙っているのである。