「原因と結果」の経済学―データから真実を見抜く思考法 by 中室牧子, 津川友介
中室牧子(なかむろ・まきこ)
慶應義塾大学 総合政策学部 准教授
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日本銀行、世界銀行、東北大学を経て現職。コロンビア大学公共政策大学院にてMPA(公共政策学修士号)、コロンビア大学で教育経済学のPh.D.取得。専門は教育経済学。
津川友介(つがわ・ゆうすけ)
ハーバード公衆衛生大学院 リサーチアソシエイト
東北大学医学部卒業後、聖路加国際病院、ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター(ハーバード大学医学部付属病院)、世界銀行を経て現職。
ハーバード公衆衛生大学院にてMPH(公衆衛生学修士号)、ハーバード大学で医療政策学のPh.D.取得。専門は医療政策学、医療経済学。ブログ「医療政策学×医療経済学」で医療に関するエビデンスを発信している。
「因果関係を証明する方法」がわかれば、
「根拠のない通説」にだまされなくなる。
目次
はじめに
第1章 根拠のない通説にだまされないために「因果推論」の根底にある考えかた
「因果関係」「相関関係」とは何か
因果関係を証明するのに必要な「反事実」
反事実を「もっともらしい値」で穴埋めする
反事実を正しく想像できないと根拠のない通説にだまされる?
……など
第2章 メタボ健診を受けていれば長生きできるのか
因果推論の理想形「ランダム化比較試験」
「実験」を使えば因果関係を証明できる
なぜランダムに割り付けないとダメなのか
「メタボ健診」と「長生き」のあいだに因果関係はあるか
健診を受けていても長生きにはつながらない
……など
第3章 男性医師は女性医師より優れているのか
たまたま起きた実験のような状況を利用する「自然実験」
手元にあるデータを用いて、実験のような状況を再現する
「医師の性別」と「患者の死亡率」のあいだに因果関係はあるか
女性医師が担当すると患者の死亡率が低くなる
……など
第4章 認可保育所を増やせば母親は就業するのか
「トレンド」を取り除く「差の差分析」
実験をまねる「擬似実験」
前後比較が使えない2つの理由
前後比較デザインを改良した「差の差分析」
「認可保育所の数」と「母親の就業」のあいだに因果関係はあるか
認可保育所を増やしても母親の就業率は上がらない
……など
第5章 テレビを見せると子どもの学力は下がるのか
第3の変数を利用する「操作変数法」
新聞の広告料割引キャンペーンを利用する
「テレビの視聴」と「学力」のあいだに因果関係はあるか
テレビを見ると偏差値が上がる
……など
第6章 勉強ができる友人と付き合うと学力は上がるのか
「ジャンプ」に注目する「回帰不連続デザイン」
「49人の店舗」と「50人の店舗」の違いを利用する
「友人の学力」と「自分の学力」のあいだに因果関係はあるか
学力の高い友人に囲まれても自分の学力は上がらない
……など
第7章 偏差値の高い大学に行けば収入は上がるのか
似た者同士の組み合わせを作る「マッチング法」
似かよった店舗を探しだす
複数の共変量をひとまとめにする「プロペンシティ・スコア・マッチング」
偏差値の高い大学に行くと収入が上がるのか
偏差値の高い大学に行っても収入は上がらない
……など
第8章 ありもののデータを分析しやすい「回帰分析」
因果推論に適さないデータしかないときは……
データを表現する「最適な線」を引く
交絡因子の影響を取り除いてくれる「重回帰分析」
……など

MEMO
「原因と結果」の経済学
◆偏差値の高い大学に行っても収入は上がらない
多くの人は「偏差値が高い大学に行けば収入が上がる」
と信じているが、研究を見る限り、
そのような因果関係は認められない。
◆母親が大卒だと生まれてくる子どもの健康状態がよい
大卒以上の高学歴を持つ母親は、
妊娠中に喫煙する確率が低く、
妊婦検診に行く確率も高いことがわかった。
つまり、大学へ進学することによって、
子どもの健康状態がよくなるような習慣を身につける。
◆最低賃金を上げても雇用は減らない
企業は、最低賃金によるコスト増をリストラではなく、
価格に転嫁することによって切り抜けようとすることが明らかになった。
◆検診を受けていても長生きにはつながらない
デンマークで行われた研究によると、
検診を受けたからといって、
必ずしも長生きできるわけではないことが明らかになった。
つまり、健康と長生きには因果関係がないことが判明した。
◆因果関係を確認する3つのチェックポイント
1)「まったくの偶然」ではないか
2)「第3の変数」は存在していないか
3)「逆の因果関係」は存在していないか
◆「因果関係」「相関関係」とは何か?
2つのことがらのうち、
片方が原因となって、
もう片方が結果として生じた場合、
この2つの間には「因果関係」があるという。
一方、片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、
原因と結果の関係にない場合は
「相関関係」があるという。
2つの変数の関係が本当に因果関係なのか。
これを明らかにするために必要な考えかたが「因果推論」である。

◆「因果推論」は、データ氾濫時代に必須の教養である
◆「ビッグデータ」が流行語になっている現代では、
誰でも簡単にデータ分析ができるようになった。
しかし、これは必ずしもデータ分析の結果を正しく解釈できるように
なったことを意味しない。
ビッグデータ時代を生き抜くためには、
データ分析だけではなく、
データ分析の結果を解釈するスキルも身につけておく必要がある。
◆経済学では、
「2つのことがらのうち、どちらかが原因で、
どちらかがが結果である」状態を、
因果関係があるという。
つまり、体力があるという「原因」によって、
学力が高いという「結果」がもたらされたのであれば、
この関係は因果関係だと言える。
一方で、「2つのことがらに関係があるものの、
その2つは原因と結果の関係にないもの」のことを
相関関係があるという。
「体力があるから学力が高い」というのは、
「体力をつけさえすれば、(まったく勉強しなくても)
学力を上げることができる」ということである。
これはどう考えてもおかしいから、
体力と学力の関係は、因果関係ではなく、
相関関係であると考えるのが自然だ。
因果関係と相関関係を混同してしまうと、
誤った判断のもとになってしまう。
◆軽薄な人間は運勢を信じ、
強者は「因果関係」を信じる