なぜアマゾンは「今日中」にモノが届くのか by 林部健二
林部 健二
米系ラグジュアリーブランドにてMDを経験後、2001年アマゾンジャパン立ち上げへ参画。
サプライチェーン部門、テクニカルサポート部門責任者を歴任し、立ち上げからの約10年間アマゾンジャパンの成長に貢献する。
その後、大日本印刷、ドコモが出資するオンラインベンチャー企業及び大手ワイン会社にてEC部門を統括。
2014年株式会社鶴を設立。
欧米企業のEC事業管理手法をベースに、数々の企業にて日本のオンラインマーケットにあったEC事業運営を構築、コンサルティングを行う…
アマゾンジャパン立ち上げメンバーとして、サプライチェーン部門マネージャを務めた著者が明かす。
世界No1の物流戦略とロジカル経営。
アマゾン一強時代に日本企業はどう戦っていくべきか?
目次
第1章 アマゾンが引き起こした激変(通販の常識を変えたアマゾン/アマゾンと日本の物流)
第2章 アマゾンの物流戦略(唯一の顧客との接点を大切にする/上流から下流までつながっていることが命)
第3章 アマゾン物流を支えるロジカル経営(顧客最優先・長期視点/プラットフォームとしてのアマゾン ほか)
第4章 日本企業はどうアマゾンに対抗すべきか(日本においての物流課題/日本企業が今後とるべき物流戦略 ほか)

MEMO
なぜアマゾンは「今日中」にモノが届くのか
◆Amazonは社内で品質の追求を徹底しているだけでなく、
サプライヤーにも配送業者にも、
同様の高い水準の品質を守ることを要求する。
わずかでもキズがあるもは受け入れず、
サプライヤーに代替品を要求する。
たとえば本などは、ほんの小さな折れなど、
一般の書店なら受け入れるようなレベルの品物を
Amazonは不良品として扱うため、
よく取次店から「厳しすぎる」と苦情を言われるほどである。
◆なぜAamzonは「今日中」にモノを届けられるのか?
その理由は、
企業理念として顧客至上主義がベースにあり、
それを具現化するための、
優れた購買管理、注文管理、在庫管理、倉庫運営
の仕組みあるからである。
そのどれが欠けても、
今のAmazonの配送スピードは実現できない。
◆固定ロケーション VS フリーアロケーション
扱う商品が商品種多ロットの場合には、
固定ロケーションのほうが効率が良い。
しかし、多品種小ロットの注文が多い場合には、
フリーアロケーションのほうが向いている。
固定ロケーションにしてしまうと、
その決まった位置まで移動して入庫しなければならないことが、
大きな時間のムダにつながる。
空いている一番近い棚に保管するほうが、
ずっと効率的なのだ。
◆倉庫における運営は、
サプライヤーから届いた商品を入庫し、
問題ないか検品して、棚入れし、保管する。
そして注文があれば、その商品を棚から見つけて
ピッキングし、出荷のための検品を行い、
梱包して、配送業者に受け渡しをする(出庫)という流れになる。
この一連の流れを、
いかに効率良く、正確に行うか、
というのが倉庫運営の基本になる。
一般的にQCDと言うが、
Quality(品質)は高く、
Cost(コスト)は安く、
Delivery(出荷)は速く、
というのが倉庫運営で目指すところ。
Amazonでは、
QCDを数値で徹底的に管理している。
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◆一般的に通販業者は、
お届け日を「目安」と考えている。
しかし、Amazonでは、
お届け日を顧客に約束した「納期」と捉えている。
製造業においては、
ATP(納期回答)という言葉があるが、
これは厳格なもの。
この納期を破ってしまうと顧客の信頼を失う。
なので、「納期厳守」が製造業においては重要な意味を持つ。
Amazonにおいては、
お届け日の捉え方が、
この製造業の「納期」に相当する。
したがって、
決められた納期(お届け日)を守るために、
あらゆる作業者が、
この納期から逆算して割り出された期限内に
各作業を完了するように徹底されている。
Amazonは、
この「納期」を自社で意識するだけでなく、
仕入先や配送業者も含めた関係者全てに意識させることで、
お届け日を管理している。
◆自前でシステム開発を行う強み
Amazonはなぜ、
上流から下流までをつなげて効率的に
システムで情報連携することが可能なのか?
それは、
自前でシステム開発ができる
大勢を作っているからである。
ERPを入れたり、外のシステム会社に開発を依頼したりしていたら、
到底Amazonの思うようなシステムにならない。
また、システムを改善したいときや、
サービスに変更があったときに、
システム改修に時間がかかってしまう。
余談だがAmazonでは、
技術者の地位がとても高い。
普通のMBA出身者よりも、
技術者の給与のほうが高いくらい。
システムをそれだけ重要なものと考えているから、
システムを開発できる人材に投資するのである。
◆EDI(※)を道入すると、受注、発注、出荷、請求、支払いといった取引データを、
異なる企業間で電子的にやり取りすることができる。
実は、他の会社とのこうしたシステム連携を地道に行っているからこそ、
Amazonではスムーズで迅速な配送が可能になる。
※Electronic Data Interchange(電子データ交換)
◆今ではプライム会員用に、
地域限定で1時間以内に配送されるサービスまである。
その1時間で注文を確認し、
在庫の中から目当ての商品を取り出し、
検品し、梱包して、
配送ラベルを貼り、
トラックに積み込み、
顧客のもとへ運んでくる。
これはオペレーションを
最大限効率化しているからこそ、
実現できる速さなのだ。
◆Amazonは、ウェブサイトという、
もうひとつの顧客との接点にもこだわっている。
ウェブサイト上で、
商品の品揃えが豊富であることはもちろん、
在庫があること、
注文が簡単にできること、
新品だけでなく中古品も一緒に検討できること、
ランキングやレビューが見れること、
他の購入者によく買われているものがわかることなど、
顧客満足度を上げるために施策がたくさんある。
それらに加えて、
注文したものが速く届くこと、
正確に傷のない商品が届くことは、
顧客満足度を確実なものにするために
必須のサービスだと、
Amazonは考えている。
◆ネット通販では、
広告の枠やカタログのページ数のような制限はない。
そのため、ネット通販では扱う商品数が格段に増え、
商品の内容や売り方での差別化よりも、
それ以外の部分に焦点をあてた競争が始まった。
たとえば、
品揃えやウェブサイトの注文のしやすさ、
配送のスピードなど…
そして、Amazonの登場により、
それらのサービスレベルが一気に引き上げられた。
◆商品の引き渡しというタイミングで
顧客満足度に大きく影響するのは、
「配送スピート」と「品質」である。
期待した時間に、
あるいは期待以上に速く商品が届くこと。
そして、注文したものが間違いなく、
傷のない状態で届くこと。
この2点が満たされることで
顧客満足度は上がる。
Amazonはこの2点のサービスレベルを上げるために、
独自の物流戦略を持つようになった。
◆Amazonのようなネット通販業者の場合、
顧客との接点は、ウェブサイトと、
商品が顧客の手元に届けられるところの2点である。
物理的に人と人が触れ合う接点としては、
商品が顧客に配達され、
手渡されるところのみになる。
では、そのようなネット通販業者が、
リアル店舗における接客というサービス手段が取れない状況で、
リアル店舗に四敵するサービスを提供するにはどうすべきか。
その答えは、
唯一の顧客との物理的な接点である
「顧客の手元へ商品を届ける」ところのサービスレベルを
最大限まで上げる、ということだ。
一般の小売業が店舗での接客の質を気にするように、
Amazonは商品の引き渡しにおけるサービスの質を気にする。
◆Amazonは倉庫管理に非常に長けている。
そこでの強みを生かしつつ、
配送に関してはすでに高い品質とサービス力を持つ
配送業者に任せる、
というのがAmazonの基本姿勢である。
◆Amazonは取引先選定に、
感情的な「しがらみ」を持ち込まない。
顧客にとって利益になること、
Amazonにとって利益になるっこと、
それを論理と数値で判断する。
Amazonは高い理念を要求している。
その理念とは、
より安く、より速く、顧客のものに商品を届けることである。
自分たちだけではそれが達成できないので、
達成するために仕入先や配送業者に協力してもらっている。
常に顧客のためになるかを考える、
つまり顧客至上主義を貫いているのが、
Amazonという会社なのだ。
◆Amazonのカスケードの仕組みによって
戦わされているのは、
Amazonに商品を卸している業者だけではない。
配送業者も同じような
競争が起きていた。
Amazonは配送業者であるヤマト、佐川、日本郵便の3社も、
様々なやり方で競争させた。
しかし、食らいつけば食らいつくほど営業利益が
下がっていく仕組みになっている。
配送業者においても、
気がつけば皆が利益度外視で、
価格競争に躍起になっているという状況が
できあがっていた。
◆取引先に競争させるのがAmazonの戦略
Amazonは徹底した資本主義の考えのもと、
全ての取引先会社を互いに競争させることで、
完璧な経済合理性をもって契約を締結する、
という戦略を持っている。
他社に対して競争優位性を築こうとする
取引企業の努力を利用して、
高い品質と担保し、
Amazonにとって有利な取引条件を引き出す。
たとえば書籍の仕入れについても業者間で
競争させている。
日本の書籍流通の世界では、
トーハン、日販、大阪屋といった取次会社が、
Amazonから見た仕入先にあたる。
Amazonは本を仕入れる際に、
各取次会社に様々な条件を提示して互いを競争させ、
最も条件の良い業者から順位付けをする。
そして、順位が上の会社から優先的に購買リストを渡す。
たとえば、順位トップの会社が50%を納品すると、
2番目の会社に30%、3番目の会社に20%納品させる。
この仕組みを「カスケード」と呼ぶ。
カスケードの順位は、
取引条件によって変わる。
一般に書店が取次会社を頻繁に変えることはしないが、
Amazonは容赦なく順位を入れ替える。
◆Amazonは
「お客様を大切にできる」という点を実現するために、
商品をできるだけ速く、安く、
消費者に届けることを追求し続けた。
◆Amazonは企業理念に
▶地球上で最も豊富な品揃え
▶地球上で最もお客様を大切にできる企業であること
の2つを掲げている。
◆Amazonは一商品あたりのマージン(利益)が薄くても、
全体としてしっかりと利益が出るよう、
厳密に経営をコントールしている。
◆Amazonは倉庫に尋常でない金額の設備投資をした
どんどんハイテクを道入して、
倉庫内にいくつもの無線を飛ばして、
機械でモノを運ぶ仕組みを作った。
◆小売業のビジネスモデルとは
スケールするであろうと見込んだ商品やビジネスに投資して、
いわゆる薄利多売のビジネスを展開するのが
小売業のビジネスモデルである。
小売業と対照的なビジネスモデルをとっているのが
ゲーム業界である。
ゲーム業界は、
それほどスケールはしないが、
利益率が高いビジネスである。
◆ネット通販の登場により、
買い物が便利になっただけでなく、
住む場所による価格の違いといった
不公平がなくなった。
◆Amazonが書籍の通販から始めた理由
1)マーケットが大きい
2)リアルな店舗で購入してもネット通販で購入しても、特に商品内容に変わりない
3)リアルな店舗よりもネット通販のほうが、多くの商品を販売できる
最初の頃は、
書籍の在庫を持たず、
注文があったらその都度卸し(取次)に注文し、
書籍が届いたらそれを梱包しなおして顧客に発送していた。
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◆アマゾンのマーケットプレイスのメリット
▶品揃えを拡充させるスピードが速くなる
▶ニッチな商品であっても顧客の手元に届くまでのスピードが速くなる
▶アマゾンと販売業者間で価格競争が起り販売価格が安くなる
▶アマゾンのトラフィックの大きさが、販売業者にとっての魅力になる
▶FBAを利用することにより、商品の在庫から配送までをアマゾンに委託することができる(アマゾンが代理で行う)
▶販売業者はアマゾンが提供する豊富な決済手段(代引き決済、コンビニ決済など)を利用できる
◆アマゾンの「Single Detail Page」とは?
アマゾンが販売している商品と、
マーケットプレイスで販売業者が直接販売している商品が同じであれば、
その情報はひとつのページにまとめられる。
この仕組みを「Single Detail Page」と呼ぶ。
「Single Detail Page」の特徴は、
商品の情報(説明、価格、送料、新品、中古など…)がひとつにまとめられていることである。
なので、顧客は効率的に買い物をすることができる。
楽天は「Single Detail Page」ではないので、店舗ごとに商品ページが作られる。
なので顧客は複数の店舗の商品ページを見て、どこが一番安いのか、速く届くのか、
といった情報を比較する必要がある。
アマゾンが「Single Detail Page」を作り上げることができたのは、
もともと自社で小売りをやっていたからである。
そして、この「Single Detail Page」を差別化ポイントとして突き進んでいったことで、
強大なプラットフォーマーになれた。
同じようなことを日本企業がやろうとしてもできない。
◆ネット通販サイトには、大きく分けて2つの型がある。
▶自社サイト型
自社の独自サイトで通販を行う(例:アマゾン)
▶モール型
多くのショップが同居している(例:楽天、アマゾン)
アマゾンはもともと自社サイト型だったが、
2000年から「マーケットプレイス」という仕組みを始め、
他の販売会社も商品を販売できるようになった。
つまり、アマゾンは自社サイト型とモール型が混在している
非常にユニークな形態になっている。
◆アマゾンが考える「顧客のためになること」とは何か?
▶注文した商品が速く届くことと、間違いなく、そしてキズのない状態で届くこと(スピードと品質)
▶探している商品がカンタンに見つかること
▶欲しい商品の在庫があり、すぐに買えること
▶できるだけ安い価格で買えること
◆日本企業は、社内の政治や、前例の有無、商習慣などによって、
ビジネスが進んでいるのが実態である。
それに対して、アマゾンでは「顧客のために」というのが単なる標語ではなく、
実際の判断基準になっている。
◆アマゾンのビジネスのベースには、
顧客至上主義の考え方がある。
オペレーションの検討、投資判断など全てにおいて、
「最終的にそれが顧客のためになるのか」を考え、
判断基準としている。