NYブックピープル物語―ベストセラーたちと私の4000日 by 浅川 港
浅川 港
1947年山梨県生まれ。
1971年に一橋大学社会学部卒業後、講談社に入社。
現代新書、月刊現代などの編集に従事。この間、企業派遣でスタンフォード大学コミュニケーション学部修士課程に留学、修了。
1989年から2000年まで、ニューヨークの講談社アメリカで英文出版に従事。
いくつかのニューヨークタイムズ・ベストセラーを出版。
2000年に同社副社長を辞して帰国後は、米系コンサルティング会社ヘイグループのプリンシパルとして、経営コンサルティング、執筆・講演活動に従事…
グローバルな「本の海」へ飛び込んだ
日本人編集者が体験した
毎日がエキサイティングでスリリングなアメリカ出版界の日々。
返本の山からベストセラー誕生まで、
山あり谷あり、
胃が痛くなることも沢山あった海の向こうでの出版物語…
目次
第1章 本の海へ
1 五番街の巨大書店
2 出版の体制づくり
3 スタートは失敗の連続
第2章 ドプチェク回想録への道
1 現実からはあまりに遠い夢
2 実現に向けての準備
3 ドプチェク氏との打ち合わせへ
第3章 ディレイニー姉妹との出会い
1 新聞記事がヒントに
2 遅々として進まぬ編集作業
3 予期せぬ展開
4 大ヒットの予感
5 ベストセラーの誕生
6 文庫シリーズのスタート
第4章 アメリカの出版ビジネス
1 エージェントと編集者
2 IRS=国税庁との攻防
3 出版流通は日本とどう違うか
4 ファラー・ストラウスとオックスフォード
第5章 11年間の軌跡――240冊の本たち
1 アメリカの出版会とは違う視点で
2 序章にひとつのピリオド

MEMO
NYブックピープル物語
◆バーンズ&ノーブル(2007年頃の時代)は、
大量仕入れによって原価を下げる。
巨大な店舗スペースを生かして、
他店よりもはるかに豊富な品揃えを実現した。
ベストセラーは3割引とか、4割引で販売する。
しかも店内にはカフェを設けて、
非常にくつろいだ雰囲気で本を楽しめるようにした。
◆書籍の流通は、
トーハンと日販という2大取次会社を
中心にしてまわっている日本とちがって、
アメリカは書店と出版社の直接取り引きが、
全体の7割から8割を占める。
アマゾン(2006年頃)は、
イングラム(取次店)を主な仕入れ先にしていた。
◆アメリカでハードカバーの値段は、
大体25ドルくらいになる。
このくらいにしておかないと、
書店に対する売上が確保できない。
4割引くと手元には15ドルしか残らない。
だから最初の値段を高く設定せざるをえない。
日本では、
本の値段は2000円がひとつの境目になっていて、
それを超えると高いと思う読者が多いのではないか。
◆アメリカに再販制度はないので、
本の価格は、自由に小売価格が決められる。
これが大前提である。
出版社が本のジャケットに印刷する価格は、
希望小売価格もしくは参考価格だ。
印刷されて、バーコードにも入っている価格から、
何パーセント引いて売るかは、
小売店の自由なのである。
日本の場合、
部数に関係なく35%ほどの割引率で書店に卸す。
出版社によって取次店との掛け率の条件は
若干違うが、ほぼこの条件になる。
しかしアメリカでは、
バーンズ&ノーブルのような有力小売店などは
定価の5割かそれ以下で仕入れるから、
30%引きといったディスカウントをして
販売することが可能になる。
◆アメリカではきわめて多くの本がオーディオ化される。
クルマ社会のアメリカでは、
運転をしながらオーディオブックを聞く人がたくさんいる。
◆アメリカの書籍の取引条件を決める一番の要素は、
注文部数である。
普通の書店は、1冊に対して3部程度注文して、
後は売れたら補充するというやり方をとる。
そうした場合、
だいたい定価の4割から5割5分くらいの値引率で、
出版社が書店に販売する。
一度に大量の注文をくれれば50%くらいの値引率で、
販売するのが常識になっている。
10ドルの定価なら、
出版社の手元に残るのは、
5ドルということになる。
さらにこれとは別に販売促進費をつけることもある。
出版社からすれば、
粗利がどんどん減っていくことになる。
したがって定価自体を高く設定しておかなくてはならない。
◆在庫処分
本の在庫を処分するにはいろんな方法がある。
一般的に使われるのは、
リメインダーという方法である。
これは、残った在庫を定価の2割程度の安値で
専門業者に売却する方法で、
ごく日常的に行われている。
定価の2割引きではない。
定価が10ドルなら、
2ドルで専門業者に売ってしまうのである。
年に2回ほど、
どの出版社でも過剰在庫を
このリメインダーのオークションにかける。
そうすれば製作原価を切るかどうかぎりぎりのところで、
ある程度のコストを回収できる。
◆書籍の英語マーケットとしても大きい日本
日本人は英語が苦手ということになっている。
しかしよくよく数字で調べてみると
必ずしもそうではない。
たとえば、アメリカで出版される英語の本の輸出先。
統計によれば、
アメリカの書籍(英語)の輸出先とその額は
次のようになっている。
カナダ ▶3億2685.3万ドル
イギリス ▶8771.8万ドル
オーストラリア ▶7064.7万ドル
日本 ▶5327.2万ドル
日本の後ろにはたくさんの純然たる英語国が
並んでいることを考えると、
日本の輸入量の多さがわかる。
日本人が英語を苦手とするのは、
あくまでも話しをしたり聞いたりという
いわゆる会話の部分での実態であって、
読み書きの部分においては、
決して苦手としていないという事実を
物語っているように思われる。
◆日米の印税の違い
日本では定価の10%が普通だが、
アメリカはベストセラーになると15%ほどにも跳ね上がる。
しかし日本では印刷部数に対して印税を払うが、
アメリカでは実売部数を基準にする。
いまはどこでも3割から4割という高い返品率の時代なので、
結果的に日本の印税率のほうが高いことになるケースが多い。
最近は日本では、
10%から8%程度へと、
印税のパーセントを下げるケースもあるようだ。
◆英語に翻訳出版された書籍の元の言語別点数
ドイツ語やフランス語は2万点以上、
ロシア語が1万余もあるのに、
日本語は僅かに2207点。
ハンガリー語やデンマーク語よりも少ない。