「病は気から」を科学する by ジョー・マーチャント
ジョー・マーチャント (Jo Marchant)
科学ジャーナリスト。
生物学を学び、医療微生物学で博士号を取得。
ネイチャー、ニュー・サイエンティストなどの一流科学誌で記者、編集者をつとめたのち、独立。
ガーディアンやエコノミストに寄稿。
海洋考古学から遺伝子工学の未来まで、先端科学の専門家として執筆活動をおこなう。
ロンドン在住…
科学も心も、万能ではない。
過敏性腸症候群、がん、うつ、自己免疫疾患、分娩…
最新医療における「心の役割」を緻密な取材をもとに検証。
イギリスの気鋭科学ジャーナリストによる知的興奮のノンフィクション!
目次
第1章 偽薬――プラセボが効く理由
第2章 型破りな考え――効力こそすべて
第3章 パブロフの力――免疫系を手なずける方法
第4章 疲労との闘い――脳の「調教」
第5章 催眠術――消化管をイメージで整える
第6章 痛み――バーチャルリアルティと鎮痛剤
第7章 患者への話し方――気遣いと治癒
第8章 ストレス――格差と脳の配線
第9章 マインドフルネス瞑想法――うつと慢性疾患
第10章 健康長寿――老化と社会的つながり
第11章 電気の刺激――神経で病気を治す
第12章 神を探して――ルルドの奇跡と科学

MEMO
「病は気から」を科学する
◆結局のところ、
科学が伝えているのは、
人間は、ほとんどの人が考えているように、
まわりの世界を受け身的に体験しているのではなく、
その体験をかなりの部分まで自ら構築し、
制御しているということだ。
思考、信仰、ストレスレベル、世界観のすべてが、
その人が病気になるか、
元気でいるかに影響を与える。
◆貧困と不平等が起こすストレスにより、
その住民の大部分が、
オムツが取れる前から生涯にわたり、
慢性疾患に苦しむと運命づけられる。
◆米国は世界で最も豊かな国だが、
3兆ドルを使っても、
平均余命はコスタリカのような中流国にかなわない。
◆現在、私たちが直面している最大の脅威は、
薬で簡単に治せる急性感染症ではなく、
薬がほとんど効かない慢性のストレス性の病気だ。
◆多くの状況において、
人には、心(意識と無意識)の力を利用することで
自分の健康に影響を及ぼす能力がある。
自分には代替医療が効くと感じるならば、
中止する必要はない。
従来の医療がまだ同じ効果を与えてくれない場合は特にそうだ。
だが、代替医療の療法士がくれる助言は批判的に受け止めること。
そして、自分の脳と体を信じることだ。
気分をよくするために、
秘薬も、鍼も、手の動きも必要ない。
◆心が健康に影響を及ぼしているといっても、
それですべてを治せるわけではなく、
心を利用する治療法が、
突然、正しいものになるわけではないことは覚えておくべきだ。
◆外見はどんなに違っても、
誰もが心の底で幸せになりたいと思っている生きものにすぎない。
共通しているものに目を向ければ、
連帯感が生まれ、
その結果、
相手が求めているものや困っていることに対応しやすくなる。
相互依存にも同じことが言える。
「人は他者の助けを借りず、
自分だけでは生き残れない」
サンドイッチのような生存に必要なとても単純なものでさえ、
農夫からスーパーの従業員まで、
多くの他者と自分をつなげるものだ。
暖房、電力、道路、車、燃料など、
1日を過ごすのに必要なあらゆるモノへ範囲を広げれば、
私たちは膨大な数の人たちに支えられいる。
こういったことを考える時間を取れば、
自然に他者に対する感謝の念や愛情が湧いてくる。
◆海馬は普通、年齢と共に萎縮し、
アルツハイマー病の初期段階で正常に機能しなくなる。
ところが、
この被験者(※)たちの場合は拡大していた。
脳の年齢に伴うダメージが逆転したのだ。
※被験者には週15時間、貧困地区の小学校で、
子どもが本を読む手助けをするボランティアをしてもらった。
被験者には、
あなたが方が必要だ、
あなた方の知恵と経験が欲しいと訴えた。
◆「必要とされること」で高齢者は変わる
自己調節、理性的思考、社会的な関係に欠かせない
脳の前頭前皮質は、脳の他の部位より速く衰える。
孤独な人々と、慢性的にストレスを感じていいる人びとでは、
このプロセスが急速に進み、
最終的には認知症になる。
老人たちは加齢と共に孤立し、
片隅へ押しやられ、
徐々にコミュニティから切り離されていく。
◆何よりも子どもたちを守っていたのは、
子育ての仕方だったことが明らかになった。
成長期の重要な段階で親から受けた適切な心遣いが、
のちの人生で子どもを守っていた。
忍耐強い子のほとんどは、
用心深い、しっかりとした親に育てられていた。
◆心の状態が、
遺伝子発現を根本的に大きく変える。
◆ストレス、
特に社会的なストレスが影響を及ぼすのは脳だけではない。
それは、DNAにまで伝わっていく。
◆孤独の科学—人はなぜ寂しくなるのか by ウィリアム・パトリック (著), ジョン・T・カシオポ (著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4309245064/
◆群衆の中の孤独が人を蝕む
まわりから拒絶されたり、
疎外感を抱いたりすると、
体に痛みを感じたときと同じように
脳内のある領域が活性化する。
社会から拒絶されたり、孤立したりすれば、
人はただ悲しくなるだけではない。
傷つき、自分の身が脅かされていると感じる。
◆社会からの孤立は、
肥満、運動不足、喫煙と同じくらい、
健康に害を及ぼす。
強い社会的な絆がなければ、
あらゆる原因による死のリスクが2倍になる。
◆社会的「つながり」が健康長寿のカギとなる。
◆マインドフルネス瞑想が、
コルチゾールホルモンや炎症マーカーなど体の生理学的な
ストレスの兆候を軽減させることがわかっている。
瞑想によりテロメアが保護されるどころか長くなり、
細胞の老化を遅らせる可能性があることを示唆している。
◆高齢のがん患者の脳を解剖したところ、
人生の終末期に入っても
新しい細胞が作られていることが明らかになった。
瞑想も新しい脳細胞を作り出す。
慢性的なストレスとうつ状態は海馬と前頭前皮質を萎縮させ、
扁桃体は肥大し、
神経結合が増強する。
しかし、たった8週間の訓練(瞑想)ののち、
その逆の変化が起こった。
瞑想は人を有利な立場に戻し、
ストレスに強くすることを示唆している。
◆健康を保つためにヨガを始め、
その効果に驚いた。
脳の働きが変わった。
ものごとに対する考え方が変わった。
心がより安定し、
人に共感し、
ものごとを別の視点から見ることができるように感じた。
◆人は、すでに起こったこと、
まだ起こっていないこと、
おそらく決して起こらないことにくよくよ悩み、
神経をすり減らす。
ところが、マインドフルネスは、
人をさらに一歩先へ進ませてくれる…
思考が浮かんでも、
それに支配される必要はないのだ。
◆注意しないと、
心と体は互いを食い物にするという
悪循環に陥る。
不快な思考は、体にストレス反応を起こす。
しかし、そのプロセスは逆方向にも作用する。
闘争・逃走モードになれば、
脳は脅威に対して強い警戒態勢を取る。
つまり、ストレスを感じるほど、
不快な思考がわきあがってくる。
◆幼児期のストレスは、
人を脅威に対して用心深くさせるだけではない。
それは、食べ物、薬物、セックス、お金など、
あらゆるものに対する欲求を調整する、
脳の報酬回路にも悪影響を及ぼず。
◆人はストレスに支配される必要はない。
受け止め方をわずかに変えるだけで、
ストレスの大きな出来事が健康に及ぼす悪影響を減らし、
追い詰められた状況でもより能力を発揮できる。
けれども、残念なことに、
ストレスを減らそう、
問題をもっと前向きに考えようとするのは、
必ずしも簡単ではない。
特に慢性的にストレスにさらされている人たちは、
否定的な思考パターンに囚われている可能性がある。
その理由は、
時間が経つにつれ、
ストレスが脳の配線を物理的に変えてしまうからだ。
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◆女性のストレスが大きいほど、
テロメア(※)が短くなる。
テロメアが短い人たちは、
糖尿病、心疾患、アルツハイマー病、脳卒中など、
ストレス性の病気に罹りやすく、早死する。
※テロメア は真核生物の染色体の末端部にある構造。染色体末端を保護する役目をもつ。
◆ストレスを感じると、
人は病気になるだけではない。
老化も進む。
◆ストレスの強い仕事を持つ人は著しく短命で、
死因のほとんどが心疾患である。
慢性的にストレスにさらされていると、
コルチゾールが常に体内に放出された状態になる。
すると、ずっとオフスイッチとして作用するため、
免疫系が抑制される。
つまり、慢性的なストレスは、
人のワクチンに対する反応を弱め、
風邪からHIVにいたる感染症に罹りやすくしてしまう。
◆なぜシマウマは胃潰瘍にならないか―ストレスと上手につきあう方法 by ロバート・M・ サポルスキー
https://www.amazon.co.jp/dp/4431707646/
ライオンに追われるシマウマは闘争・逃走反応を最大限に活用している。
狩りが終われば、
シマウマは普通の状態に戻り(捕まって食われなかった場合だが)、
生理機能も正常に戻る。
まさに身も心も穏やかな状態だ。
この動物は、追われて逃げ回ったことを思い出したり、
次回も助かるだろうかとくよくよ悩んだりしない。
しかし、人間はシマウマとは違う。
人の脳はもっと洗練されているため、
失敗から学び、未来のことを考える能力がある。
だが、それは常に心配事を抱えているということでもある。
テロ攻撃、解雇、夫婦仲、大渋滞から友人との言い争いまで、
過去の出来事を思い出し、
未来の問題を悩む。
これがストレスであり、
程度は小さくても、地震に遭ったときと同じ緊急反応を体に引き起こす。
つまり、人は自宅の暖炉の前に座り、
友人に囲まれ、お腹いっぱい食べている最中でも、
心と体は非常事態のままなのだ。
◆日本の神戸を襲った壊滅的な地震のとき、
犠牲者たちは、落ちてきた煉瓦に潰されたわけではなく、
死ぬほど怯(おび)えたために死んでしまったのだ。
◆慢性疲労症候群(CFS)は、
体の病気でも、
心の病気でもない。
その両方なのだ。
◆患者が不治の病だと信じ込めば、
不治の病になってしまう。
◆脳は、体温、酸素供給状態、体力、運動レベルなどの
身体的な変数だけではなく、
自信の程度、状況の緊急度といった心理学的な変数も取り込む。
そのうえで疲労感を利用し、
最大速度を設定する。
体力に不安がある、
あるいは走る距離がはっきりしていなければ、
脳は走る速度を遅くする。
しかし、先にある課題がはっきりわかっている、
あるいは生死がかかっているなら、
セントラルガバナーがそれを考慮し、
手綱を緩める。
これこそ、
人が緊急事態となれば、
普通ならできない、
体力と持久力による離れ業をやってのける理由だ。
◆身体能力の限界を決定するのは、
心臓や肺や筋肉ではなく、脳だ。
◆暑いと体がだるくなるのは、
筋肉が疲れたからではなく、
セントラルガバナーが体の加熱に備えて
身体活動を制限するからだ。
病気になれば、休息し、
感染症と闘うための資源を蓄えられるように、
免疫系が信号を出し、
疲労を生じさせる。
◆疲労は筋肉を限界まで追い込むことで
起こるという古い考えは真実ではない。
疲労感とは、
脳により中枢性に強いられたものである。
当然、体には物理的限界がある。
しかし、疲れた筋肉に直接反応するのではない。
脳が筋肉の限界に先んじて行動を起こし、
抹消部位から損傷を知らせる合図が出されるずっと前に疲労を感じさせ、
強制的に運動を中止させる。
言い換えれば、疲労は身体的な現象ではなく、
破壊的な損傷を防ぐために脳が作り上げる「感覚」あるいは「感情」だ。
◆医学は業界の利益のためなら、
簡単に屈してしまう。
◆ストレスなどの心理的要因をきっかけとして
神経伝達物質が放出され、
それが免疫反応に影響を及ぼすと同時に、
免疫系から放出された化学物質が逆に脳に影響を及ぼす。
病気になると、眠くなったり、
熱を出したり、憂鬱な気分になったりするして、
ベッドに引きこもるのはそのためだ。
◆免疫系と脳は生まれつきつながっている。
◆結局、心は万能薬ではないということだ。
心が体に対し、
即座に目を見張るような効果をもたらす場合もある。
食餌療法やエクササイズなど、
時間をかけて健康を築いていく多くの方法の中で、
心は重要でありながら、
気づかれにくい要素となっている場合もある
まったく効果のない場合もある。
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