なぜシマウマは胃潰瘍にならないか―ストレスと上手につきあう方法 by ロバート・M・ サポルスキー
ロバート・M・ サポルスキー (RobertM. Sapolsky)
1957年生まれ。
アメリカの神経内分泌学者、行動生物学者。
ストレスと神経変性の関連を研究し、その一環としてヒヒの集団の長期にわたる観察とコルチゾール・レベルの調査を続けている。
現在、スタンフォード大学教授(生物学/神経科学/神経外科)…
シマウマだって、
ストレスにさらされて生活している。
でも、ストレスから不眠症になったり、
胃に穴があいたりするのは人間だけ!
どうすればストレスから身を守れるのか、
シマウマに教えてもらう…
目次
第1章 なぜシマウマは胃潰瘍にならないか
第2章 腺、鳥肌、ホルモン
第3章 脳卒中、心臓発作、呪術による死
第4章 ストレス、代謝、流動資産の決済
第5章 潰瘍、大腸炎、下痢
第6章 発育不全と母親の重要性
第7章 セックスと生殖
第8章 免疫、ストレス、病気
第9章 ストレスによる無痛覚
第10章 なぜ精神的ストレスはストレスフルなのか
第11章 ストレスと鬱病
第12章 老化と死
第13章 ストレスと上手につきあう方法

MEMO
なぜシマウマは胃潰瘍にならないか
◆結婚生活は健康の向上に結びつくが、
この一般原則が当てはまらないケースがある。
間違った結婚をすると、
免疫の抑制につながる。
◆瞑想の訓練を積んだ人は、
少なくとも瞑想状態に入っている間は、
糖質コルチコイドのレベルや身体の代謝の指標を下げることができる。
◆人間の回復力において重要な要素は、
その人がコントロールを強く「内在化」
つまり自分の運命は自分が握っていると考えるか、
あるいは、それとも「外在化」、
つまり自分には日々の生活のできごとをほとんどコントロールする力はないと
考えているかにかかっている。
◆高齢の生体が、
糖質コルチコイドを過剰に分泌する理由は説明がつく。
では、なぜ、フィードバックの調整がうまくいかないのか?
それは、年齢を重ねる中で、
脳のある部位(海馬)が退化するからである。
年をとると糖質コルチコイドのレベルが上がるのは、
フィードバック調節に問題がある。
そして、これは海馬ニューロンを失うことと関係している。
では、なぜ、老化した海馬は多くのニューロンを失うのか。
おそらく、海馬のニューロンが死ぬのは、
糖質コルチコイドにさらされ続けたからだ。
糖質コルチコイドが脳に作用するとき、
まず最初に海馬に影響を及ぼす。
◆脳はCRF(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)をさらに分泌すべきかどうかを
見極めなければならない。
脳は、脳を流れる血流からそのホルモンのサンプルを採取して、
循環器系の糖質コルチコイドのレベルを量る。
脳はそのレベルが低いと、CRFの分泌を続ける。
◆サケは放卵すると、
糖質コルチコイドの分泌の調整が機能しなくなる。
◆多数の種において、
糖質コルチコイド(※)の過剰が老化における死の直接の原因であることがわかっている。
※糖質コルチコイドは、副腎皮質の束状層で産生される、副腎皮質ホルモンの一つである。グルココルチコイド とも言われる。
◆身体が動き続ける長さ、
すなわち単位体重あたりの呼吸数、心拍数、および代謝量は限られていて、
それが切れると命のメカニズムが擦り切れる。
◆ストレスを加えない限り、
年配者は多くの点で若者と機能面で
それほど差はない。
しかし、ストレスの中に放り込まれると、
その弱さの幾つかを劇的なほど露呈する。
◆高齢とは、
生態がもはやストレスにうまく対処できないときである。
ストレスは、特にそれが長引いたり強い場合、
老化を加速する。
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◆あなたが愛する人と素晴らしいときを共有していると…
呼吸は乱れ、心拍数も増す。
これは交感神経系の活動が高まっているからだ。
身体の多くの部分の交感神経系の悲鳴をよそに、
暫くの間、副交感神経系の緊張を可能な限り持続しようと孤軍奮闘する。
しかし、やがて、それ以上は我慢できなくなり、
ペニスの副交感神経系は活動を停止する。
入れ代わりに、
交感神経系が唸りをあげてやってくる。
そしてついに、
我慢しきれずに射精する。
射精の瞬間が迫っていて、
まだ射精しなくなければ深呼吸をすればよい。
なぜか?
胸の筋肉を拡張すると、
副交感神経系から交感神経へのシフトを遅らせるからだ。
ストレスを受けているときや、
不安を感じているときには、
副交感神経系がうまく機能せず、
そのために勃起しにくくなる。
これがインポテンツ。
◆過度の運動をする男性は他の人に比べ、
LHRH、LHおよびテストステロンの循環レベルは低く、
精巣も小さく、精子の運動能力も劣る。
◆テストステロンと勃起不全
男性においては、
脳がLHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)を放出する。
するとこのホルモンが下垂体を刺激して、
LH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵細胞刺激ホルモン)を放出させる。
そして今度はLHが精巣を刺激して、
テストステロンを放出させる。
男性はFSHに刺激される卵胞を持たないので、
FSHが精子の生産を刺激する。
これが基本的な男性の生殖機能だ。
ストレスを受けると、
これらのシステムは全て抑制される。
◆臨床医学は
「あなたの具合が悪いのはXという病気にかかっているからだ」
といった説明は得意だが、
どうしてXという病気になったのかといったことになると、
得意とは言えない。
だから、開業医たちは、
「あなたが具合が悪いのはX病のせいで、
ストレスに関係するようなナンセンスなもののせいではない」
と言う。
◆「慢性的あるいは反復的なストレスはあなたを病気にする危険を増大させる」
という言い方は本当は正しくない。
ストレスがあなたを病気にすることはないし、
ストレスのために病気になる危険が高まるわけではない。
ストレスは、
ストレスがもとであなたを病気にするような身体の変調をきたす危険を高めたり、
あるいは、身体の変調に対するあなたの防衛機能を無力化する危険を高める。
◆ストレス反応とはあなたの身体が
ホメオスタシスを回復しようとする働きのことで、
ある種のホルモンの分泌、他のホルモン抑制、
神経系の特定部分の活性化、並びに他の生理的変化となって現れる。
ストレス反応は肉体的あるいは生理的な攻撃に対してだけでなく、
それらを予期しただけで生じることもある。
◆たとえば、あなたが命がけで逃げているシマウマ、
あるいは食べ物を求めて疾走しているライオンだとする。
そのときの身体の生理的反応メカニズムは、
そのような短時間の肉体的緊急事態に対処するために
素晴らしい適応能力を示す。
私たちがストレスを感じながら思い悩んでいるときにも、
これと同じ生理的反応を示す。
そして、そのようなストレスが精神的、
あるいは何らかの理由で長期にわたって刺激されると、
危険な因子を抱えることになる。
ストレス関連の病気は、
激しい肉体的緊急事態に対応するために進化した生理的システムを、
極めて頻繁に活性化することから生じている。
◆ストレスは、
身体を蝕む慢性の病気を誘発することも、
また悪化させることもある。