バリュエーションの教科書 by 森生 明
森生 明
1959年大阪府生まれ。
83年京都大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。
86年ハーバード・ロースクールにて修士号取得。
91~94年ゴールドマン・サックスにてM&Aアドバイザー業務に従事。
その後、米国上場メーカーのアジア事業開発担当、日本企業の経営企画・上場担当を経て独立。
西村あさひ法律事務所およびベンチャー企業の経営顧問・外部役員を務める。
テレビドラマと映画版の「ハゲタカ」を監修。
2013年よりグロービス経営大学院教授…
基礎から最先端の理論までをカバー!
株式投資から企業IR、M&A、事業再生、「会社は誰のものか?」「金融資本主義の功罪」の議論まで…
難解な金融・ファイナンスの世界を「現場実務感覚」でシンプルに説き明かす…
目次
第1部 企業価値算定(バリュエーション)の基本構造(企業価値は財務諸表にどう表れるのか/基本公式から一歩深掘りする/DCF評価と倍率評価は、実は同じ)
第2部 基本構造から読み解くM&Aの世界と資本主義社会の課題(日本の株式市場は「サヤ取り天国」なのか/事業や業界を再編するM&A活動/日本市場に押し寄せる資本の論理とその課題・限界)
第3部 実務応用編―理論と実務に橋渡しの試み(リスクを数字にする方法/経営支配権を売り買いするM&Aの世界/リスクマネジメントをオプションで捉える/
株主のオプション価値と事業再生)

MEMO
バリュエーションの教科書
◆企業価値の算定の全体像
・企業価値の本質は「のれん」価値
・のれんはB/Sの左側の無形の営業資産価値
・のれん創出力はPBR(株価純資産倍率)
・PBR = PER x ROE
・企業価値 = 将来キャッシュフローの現在価値
◆企業ののれん価値創造力は純資産の時価と簿価の比率であるPBRで表現できる。
「PBRが1を下回る会社は存続している価値がなく、
解散したほうがマシ」と言われるゆえんもここにある。
◆PBRとPERとROEの関係
株価評価の伝統的な指標は、
▶ROE(Return on Equity, 株主資本利益率):
会社は株主資本(株主の投資総額)から年率何パーセントの利益を上げているか
▶PER(Price Earnings Ratio, 株価収益率):
株価はその会社の生み出す1株あたりの利益の何倍か
▶PBR(Price Book-Value Ratio, 株価純資産倍率):
株価はその会社の1株あたりの簿価純資産(株主資産)の何倍か
の3つだ。
「株価✕発行済株式総数=株式時価総額」なので、
PERとPBRは会社の株式時価総額を利益や株主資本で割ったもの、
と表現することもできる。
この3つの指標は、
PBR = PER x ROE
という形でつながっている。
なぜなら、「PBR = P(株式時価総額) / B(株主資本・簿価純資産」なのだが、
分母分子の両方に会社の税引き後利益(E)を掛けて2つの式を掛け算に分解できるからだ。
この公式は意外に知られていないが、
これこそがバリエーションの中核にあるシンプルな公式であり、
この式に企業価値算定のすべての構成要素が凝縮されている。
◆生き物である企業の価値を算定する基本構造は、
意外なほどシンプルな1つの公式で表現できる。
株式評価の定番指標であるROEやPERも、
M&Aや減損処理の定番であるDCF方式も、
すべてその公式を分解したり展開したものである。
ここをしっかり理解すれば
「木を見て森を見ず」に陥る心配はない。
◆ビジネスの世界で最も広く使われている言語は何か?
それは…
数字だ!
◆額に汗して働くこともなく「虚業」のファンドが
株の売買でボロ儲けするのはおかしい、
というのはもっともだが…
そのファンドがボロ儲けできるのは、
同じ株を安く売ってくれる人と高く買ってくれる人が
同時にいるから、その間でサヤが抜けるというだけのこと。
突き止めるべき課題は、
むしろ安く売った人と高く買った人が、
それぞれどのように株価を評価(バリエーション)したか、
なぜ同じ会社の株式にファンドをボロ儲けさせるほどの評価の差が生じたのか、
である。
◆バリエーション(valuation)とは?
資産の価格算定、M&Aなどで会社の企業価値や株価を算定する際に使われる用語。
「value=価値があること」に状態・結果を表す接尾辞「tion」をつけたもので、
要するに「価値」を「価格」にして表現することである。
◆バリエーションの要諦は、
2つの式でシンプルに理解できる!
1) PBR = PER x ROE
PBR:株価純資産倍率
PER:株価収益率
ROE:株主資本利益率
2) PV = C / r – g
PV:将来キャッシュフローの現在価値
C:現在生み出しているキャッシュフロー
r:割引率
g:成長率