3つのゼロの世界

3つのゼロの世界――貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済 by ムハマド ユヌス

ムハマド ユヌス (Muhammad Yunus)

バングラデシュの経済学者・社会活動家。
1940年、バングラデシュのチッタゴン生まれ。
ダッカ大学を卒業後、米ヴァンダービルト大学で経済学博士号を取得。
72年に帰国後、チッタゴン大学経済学部長を務める。
74年のバングラデシュ大飢饉における貧しい人々の窮状を目の当たりにし、83年に「グラミン銀行」を創設。
2006年、グラミン銀行と共にノーベル平和賞受賞。
その他、マグサイサイ賞、米大統領自由勲章、米議会名誉黄金勲章など受賞・受勲多数…

トランプ現象、格差の拡大、加速する温暖化…
世界はいま、資本主義の機能不全にあえいでいる。

貧困者のための銀行・グラミン銀行を創設し、
母国バングラデシュの貧困を大きく軽減した功績により
ノーベル平和賞に輝いたユヌス博士が、
世界に広がるグラミン・グループと関連団体の活動をもとに、
人類が直面する課題を解決するための具体策を語る…

目次

第1部 問題(資本主義の欠陥/新たな文明を創る―対抗経済としてのソーシャル・ビジネス)

第2部 3つのゼロ(貧困ゼロ―収入格差に終止符を打つ/失業ゼロ―われわれは仕事を探す者ではなく仕事を創る者である/二酸化炭素排出ゼロ―持続可能な経済を創る/よりよい未来へのロードマップ)

第3部 世界を変える巨大な力(若者―世界の若者に元気と力を与える/テクノロジー―科学の力を解き放ち、すべての人を自由にする/グッド・ガバナンスと人権―すべての人にうまく機能する社会を作る鍵)

第4部 未来への足がかり(われわれが必要とする、法律と金融のインフラ/明日の世界をデザインし直す)

3つのゼロの世界
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MEMO

3つのゼロの世界

◆依存は人間をおとしめる。

人生を価値あるものにする自由と独立性を欠き、
他者に依存して生きる最下層が存在する状態に甘んじていてはいけない。

◆人はふたつの選択肢を持って生まれてきており、
このふたつの選択肢を一生持ち続ける。

しかし、若者はこれを教わることが一度もない。

ふたつの選択肢とは、
誰もが、仕事を探す者になることもできれば、
仕事を創る者になることもできる
というものだ。

つまり、ほかの起業家の仕事に依存するのではなく、
自分自身が起業家になれる
わけだ。

◆国際労働機関(ILO)の予測では、
若者が加わることで労働力が増え、
これからの10年間で合計約4億人に達するという。

これがILOの言う「切迫した課題」で、
向こう10年のうちに4億の生産的な雇用を創出しなければならない。

年に4000万件ということになる。

問題をさらに悪化させているのが、
オートメーションやロボット技術の広がりや、
AIの発達などの動きだ。

それらのおかげで、
企業は多くの分野で生産高を減らすことなく
労働者を削減できるようになった。

加えて、人々は健康で長生きするようになったので、
生計を立てるために長く働く必要がある、
また長く生きたいと希望している。

これが雇用をめぐる状況をさらに圧迫する。

この先何年も、
政治家や政府は雇用創出と失業対策に頭を悩ませることになりそうだ。

◆現在のシステムの中では、
貧困者はまるで盆栽のようなものだ。

盆栽の木も、
自然に生える普通の大きさのマツと同じ種から出発する。

しかし小さな鉢で育てられ、
水も栄養もわずしか与えられないので、
盆栽は本来の大きさまで育つことがない。

普通サイズの木の小さなレプリカになるだけだ。

貧困者にも同じことがいえる。

貧困者は盆栽人間だ。

盆栽のように成長を阻まれているのである。

貧困者になる前の出発点にある種には、
何の問題もない。

しかし今のシステムは、
非貧困者と同じ機会を貧困者に提供しない。

その結果、
ほかの人と同じように創造性と
起業家精神を発揮することができないのだ。

◆貧困は貧しい人々が作り出すのではないと
認識するところから始めることが重要だ。

貧困を作り出すのは、
あらゆるリソースがトップへ押し寄せる傾向にある
経済システムである。

そこでは人口のたった1%が持つ富が、
キノコの傘のように大きく膨らみ続けている。

キノコの傘のイメージは、
現在の状況をとてもよく表している。

巨大なキノコの傘の部分が少数が所有する富で、
そこからぶら下がる非常に長くて細い柄が、
残り99%が所有する富だ。

時間の経過とともに、
柄はさらに細く長くなり、
傘はどんどん大きくなる。
———————————
◆ソーシャル・ビジネスのNPOの違い

◆ソーシャル・ビジネスには、
利益の最大化を目指す企業や、
従来の慈善団体にはない長所がある。

利益を上げなければならないというプレシャーがなく、
利益を求める投資家からの圧力もないソーシャル・ビジネスは、
現在の資本主義がうまく対処できない状況でも
経営を続けることができる。

投資利益率はほぼゼロだが
社会的な見返りが非常に大きい。

そんな状況でも経営を続けられるのだ。

また、ソーシャル・ビジネスは
収益を生み出すように設計されており、
経済的に自立している

だから、事業を続けるためにドナーから資金を集める必要はない。

非営利組織の世界では、
多くの人がドナーからの資金獲得とエネルギーを費やしている。

◆いま稼働している資本主義の何よりの問題は、
システムがただひとつの目的しか認めていないことにある。

個人の利益を利己的に追求するという目的だ

その結果、
この目的に沿って設計されたビジネスだけが受けいれられ、
支援される。

しかし、世界中で何百万人もの人々が、
貧困や失業、環境破壊の根絶など、
個人の利益以外の目的を追求しようと熱意を燃やしている。

貧困と失業と環境破壊をなくす、
これらを目標にビジネスを設計して始めさえすれば、
この3つの問題は劇的に軽減できるはずだ。

そこでは、
ソーシャル・ビジネス
決定的に重要な役割を果たす。

◆「ほんものの人間」とは、
さまざまな性質を併せ持つ存在だ。

ほかの人間との関係に喜びを見出して、
それを大切にする。

ときには利己的になることもあるが、
それと同じぐらい思いやりがあって人を信頼し、
無私でもある。

自分のお金を稼ぐためだけでなく、
他人のためにも働く。

社会をよくするために、
環境を守るために、
喜びと美と愛とをこの世界にもたらすためにも働くのだ。

◆人間は基本的に個人の利益を追い求める存在だという考えがある。

経済合理性とは、
個人の利益を最大にすることだと考えられている。

この考えから、
人間は他人に対して単なる「無関心」にとどまらない冷酷な
行動をとるようになる。

「食欲」「搾取」、「利己的」とでも言える行動だ。

多くの経済思想家によれば、
人間が利己的なのはそもそも問題ですらない。

それどころか、
利己心は資本主義的人間の一番の美徳なのだ。

個人的には、
利己的であることが一番の美徳である世界には
暮らしたくない。

◆富とは磁石のようなものだ。

小さな磁石はどれも、
いつのまにかいちばん大きな磁石に引き寄せられる。

これが現在の経済システムの仕組みだ。

そしてほとんどの人が、
このシステムを暗黙のうちに受け入れている。

貧しい人、
つまり磁石を持たない人にとっては、
何かを自分に引き付けるのは難しい。

仮に小さな磁石をなんとか手に入れたとしても、
それを持ち続けるのは困難だ。

投稿者: book reviews

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