この国の冷たさの正体 一億総「自己責任」時代を生き抜く by 和田秀樹
大阪府出身の受験アドバイザー、評論家、精神科医の肩書を持つ和田秀樹さんの著書です。
弱者だけが責任を問われる
かつてない
陰湿社会の深層!
ネット私刑、いじめ、生活保護バッシング、
テロ犠牲者に「国に迷惑をかけるな」。
なぜ日本人は、
ここまで冷たくなったのか。
個人、会社、国家、どの位相でも
インチキな自己責任の論理が
幅を利かせている日本。
「自由」よりも強者の下で威張ることを好み、
「平等」よりも水に落ちた犬をぶっ叩く。
わたしたちを取り巻く病理を徹底解剖…
<目次>
【第一章】「国に迷惑をかけるな」の異常さ
(誰かを蹴落とさないと自分が蹴落とされる社会/新幹線放火事件のやるせなさ/自己責任を突き詰めて行くと、その先は死しかない/「一億総活躍社会」の異常さ/テレビが「正義」を垂れ流す/私たちは強者の嘘の情報にまみれている/「国に迷惑をかけるな」の異常さ/強者が責任をとらない日本という国/安心して働けない社会/バッシングによって消えた芸人/生保削減を目指す議員の恥ずかしい勘違い/前払い金をネコババする国と企業/自己責任という病はいつ発病したか/「民意を問う」という茶番劇/負けの美学がなくなった大阪/景気が悪くなれば、弱者から切り捨てられる/4割を超える非正規雇用で生活保護にまっしぐら/ほか)
【第二章】人の弱みを食い物にするやつら
(社会不安を背景に拡大する依存症ビジネス/ネットゲームの依存性の怖さ/企業は依存症患者に責任を持て/自殺は断じて自己責任ではない/報道で自殺者を増やし続けるマスコミ/飲酒運転の厳罰化が示すこと/都市部のものさしで地方の事情は測れない/ルールがあるのにルールに従わない日本人/困ったときのために法律がある/日本社会、泣き寝入りの構図/もっと身近なことに大騒ぎしろ/弱者を叩くのは、もう止めよう/ほか)
【第三章】何があっても自分を責めるな
(自己関連づけをやめる/「かくあるべし」思考から脱却する/思い込みをやめれば楽になる/答えの出ないことにクヨクヨしない/他人の言葉を深読みしない/失敗ではなく過程にすぎないと考える/本当に頭がいい人の条件とは/「ブレる」人のほうが強い、堂々とブレるべし/物事を複眼的に捉える思考訓練をする/「逃げ道」をいくつか持っておく/非を認めない国民性ゆえ、自己責任が必要だったアメリカ/ほか
【第四章】自分の人生まで冷たくしないために
強い者になびくスクールカースト世代/競争原理をなくすことで、個性を潰す日本の教育/子ども天国、大人地獄/大学生の8割は競争しない/かわいい子には、競争をさせよ/誰でもヒーローになれる/社会に出る前に借金苦にまみれる奨学金制度/エリート教育に力を注げない日本/社会貢献をする人間がトップに立つ仕組みを/コメンテーターの嘘にだまされない/日本人の集合知はまだまだすごい/日本は一億総振り込め詐欺に遭っている/「情けは人のためならず」を実践しよう/善悪二元論には、乗らない/「完全な人間」という幻想/人間なんだから、依存症/責任を取りたくないヤツの言い分が自己責任/ほか)
MEMO
◆思い込みを捨て、しなやかに生きる
現代は、自分が弱者なり、
下流になりに落ちる確率が高い時代である。
たとえば、
若い世代の貧困は、本人が自覚しない状態で
進行していくことが多い。
地方の若い世代では年収200万円ぐらいが珍しくなくなってきている。
多くは親と同居しているので、
年収200万円でもあまり貧困を感じない。
もちろん貯蓄することはできない。
そうした貧乏を自覚しないプア層の人たちが
自分の子どもを大学に行かせる段階になって初めて、
貯金がないことに気づく。
生活保護の受給をしていないから、
自分は貧困層だと考えない。
本当はワーキングプアだったということが
後になってわかる。
2014年に内閣府が発表した調査では、
男女の9割以上の人が自分の生活を「中流」
と考えているという結果が出た。
しかし、日本の労働者の多くが非正規雇用で、
貯蓄も増えてない現状を考えれば、
それは親と同居しているから
あらわになっていないのに過ぎないのではないか。
1千兆円を超える財政赤字を抱え、
労働人口が急減する局面を迎え、
日本はこれから社会保障も削らなくてはならない厳しい状況である。
このような状況で、私たちは自己責任に陥ることなく、
思い込みを捨て、他人に優しく、しなやかに生きて、
自分たちに与えられた権利を守り続けるしかない。
◆「情けは人のためにならず」を実践する
多くの人が騙されているとか、
ほとんどの人が弱者で将来的には生活保護に頼る可能性がある
と言っても、それでも「そんなことはあるわけがない」
という人がいる。
自分が弱者ということを認識したくない恐怖心から、
ぎりぎり弱者ではない瀬戸際のところにすがみつきたいという心理がある。
それが「認知的不協和」という心理である。
自分が貧困に陥ったとき、
認知的不協和を起こして
「生活保護をもらうヤツは最低だ」
とバッシングに走らないようにしたい。
日本には他人と自分を比較して、
他人の目を気にしすぎることで不幸せになっている人が多い。
「左遷された、オレはもう終わった」
「生活保護を受けて、近所の目が冷たい」
しかし、他人があなたをどう思っているかは、
そもそもわからない。
それを推測することに意味もない。
確実に言えることは、
あなたが気を病むほどに、
誰もあなたに関心がない。
弱者にやさいしというのは、
決して慈悲深い人間だからそうするのではなく、
弱者になったときに自分を受け入れやすくなるということである。
◆したたかに生きる知恵を持つ
自己責任論から逃れるには、
強者と一緒になって弱者を叩くのではなく、
「したたかに生きる」知恵が必要である。
この国では生活保護を利用している人は
たくさんいると情報番組でコメンテーターが平気でウソをつく。
ところが、日弁連の資料によると捕捉率
(利用資格がある人のうちの利用率)は15.3%から18%と言われている。
仮に2割としても、
生活保護を受けるべき人の5分の1しか、
利用していない。
ところが、海外に目を向ければ、
ドイツでは6割以上、フランスでは9割以上が利用している。
日本は、先進国の中でも最低レベルで利用率が低い。
こうしたウソは統計データを調べればすぐにわかる。
◆社会に出る前に借金苦にまみれる奨学金制度
独立行政法人の日本学生支援機構の調査では、
2012年度において、昼間の4年生大学に通う大学生の52.5%は、
何らかの奨学金を受けていることがわかった。
ほんの20年前は、奨学金を受ける人は全体の2割り程度であった。
ところが、20年間で家計の収入が悪化する一方で、
大学の授業料が上がり、大学に進学するためには
奨学金に頼らざるを得ない状況が訪れている。
日本では奨学金といっているが、
諸外国では奨学金という場合は
普通返済義務がないものを指す。
日本の奨学金の実体は、学生ローンである
日本での代表的な奨学金は、
日本学生支援機構が行っている奨学金で、
その貸出額は、1兆円を超え、
およそ150万人が利用している。
一方で、1日以上の滞納者は、33万4千人。
利用している約1割の人が返済が難しくなっている。
奨学金を滞納することで、
住宅ローンを組めなくなったり、
結婚を断られたり、
その後の人生設計にマイナスを生じさせている事例が多い。
日本の奨学金制度は弱者を再生産させるような面がある。
◆かわいい子には、競争させよ
アメリカ人には、ヒーローになれる場を
たくさん用意しようという考え方がある。
ところが、日本の場合、
負ける子がかわいそうだからと競争を減らし、
結局、誰もヒーローになれない社会をつくり出そうとしている。
◆大学生の8割は競争しない
今の私立大学のおよそ半分は、
付属校からの進学組か、
もしくは推薦か、AO入試(※)かのいずれかだと思う。
それに加えて、実質的には無試験の定員割れの
大学生が山ほどある。
最近の大学生世代は、
大学に進学する約60万人の中でまともに一般試験を経て、
合格した受験生は12万人程度しかいないことになる。
大学を目指す人のおよそ8割は、
競争を避けて大学生になっているのに、
社会に出た途端、
いきなり激しい競争にさらされたら、
メンタルに問題が出てくるのもやむを得ない。
※AOとは、アドミッションズ・オフィスの略で、大学側が求める学生像(アドミッション・ポリシー)に合っているかどうかや、学びへの意欲や関心、適性を重視して選考する入試。
◆子ども天国、大人地獄
日本は、子どもはなるべく傷つくことを避ける子ども天国で、
大人は激しい競争に一生さらされる大人地獄である。
大人のほうが実は子どもより心が弱いので、
子ども時代に「自殺という選択肢を選ばない」メンタル耐性を
つけておいたほうが、大人になってから激しい競争社会に
さらされたときに自殺が増えないのではないかと思う。
◆「ブレる」人のほうが強い、堂々とブレるべし
認知的成熟度が低い人は、
物事の白黒を決めたがる。
心理学の言葉で、「曖昧さ耐性」というものがある。
認知的成熟度が低い人というのは、
この「曖昧さ耐性」が低い人が多い。
つまり、曖昧さに耐えられない人が多いということである。
現実の世界では白黒をハッキリ決められることは少ない。
しかし、曖昧さ耐性の低い人は、
何でもかんでも白黒に当てはめようとする。
また、認知的成熟度が低い人が、
よく使うフレーズに「○○するべきだ」
「○○するべきでない」というフレーズがある。
こういう「べき思考」の人たちは、
生活保護を受けなければ生活できなくなっても、
生活保護を受けずに我慢し続けることを選ぶ。
また、借金がとても返済できない金額になったとしても、
自己破産を選ばすに、夜逃げをしたり、
最悪の場合、自殺を選ぶ人もいる。
べき思考から抜け出すには、
曖昧さを身につけることが必要である。
「生活保護を受けるなんて恥ずかしい」
ではなくて、
「人生をやり直せる。また一から頑張ろう」
と前向きに考えるほうが、
自分を許すことができる。
「自己破産なんて、
能力がない人間がすることだ。
するべきではない」
と決めつけるのてはなく、
「自己破産ができることで、
日々の仕事に集中することができる、
もう一度、人生を立て直そう」
と考えるほうが、
とても建設的である。
◆弱者を叩くのは、もう止めよう!
「どうして自分を責めるのか?
必要なときに他人が責めてくれるから、
いいじゃないか」
これはアインシュタインの言葉である。
この精神が大事である。
◆もっと身近なことに大騒ぎしろ!
原子力発電所が再稼働して事故が起きる確率や、
安保法制が成立して、将来自分の子どもが兵隊にとられる
確率をちょっと考えてみてほしい。
それらの確率と、あなたが病気やケガ、
心の病などで働けなくなったり、
配偶者の暴行行為で、子どもを自分ひとりで養育
しなければならなくなる確率ではどちらが高いか?
もちろん、後者である。
それであれば、原発や安保のことよりも
生活保護をはじめとした社会保障費が
削られるということ事態こそ憂慮すべきではないか。
自分がそのような状態になるということを予想して、
生活保護バッシングに賛成する人など、ほとんどいない。
普通の人たちでも、
一生のあいだに生活保護を受給する可能性は低くない。
国民年金しかない高齢者であれば、
十分な預金や金融資産がない限り、
ほぼ確実に生活保護を受けなくては
生活することができなくなる。
国やマスコミ、強者と一緒になって、
生活保護バッシングをやっている場合でない。
◆日本社会の泣き寝入りの構図
民主主義の場合、
弱者がつくるルールでない場合、
たとえば、就業規則のような会社が作ったルールは、
本来は労働組合と合議の上で決めることになっている。
ところが、そこがないがしろにされて、
勝手に就業規則だけを決めるのは
民主主義の原則から言えば間違っている。
強者がつくった守れないルールを破ったからといって、
自己責任を問われるのは、理屈に合わない。
法律というと日本人は、
「裁判沙汰にするなんて気が引ける」とか、
「法律よりも話し合いで解決しないといけない」
といって嫌がる人が多い。
しかしながら、実際にはいわゆる法によって
弱者が守られている部分もある。
話し合いで解決しようとしたら、
当然、財力のある経営者が有利になるに決まっている。
だから本来は、法に頼っていいことは法に頼るべきなのである。
生活保護を受給するのも国民の当然の権利である。
生活保護を受給している人が、
働いている自分より1万円多くもらっているというのであれば、
自分も生活保護を受給するというのも当然の権利である。
つまり、日本人は、法律を知らな過ぎるというところに問題がある。
法律を知らないがゆえに、
官僚と警察のいいようにあしらわれ、
守れないようないい加減な法律が
次々とつくられるという構図になっている。
◆ルールがあるのにルールに従わない日本人
自己責任論がまかり通ってしまう理由に、
日本人は明確なルールよりも、
組織の空気や、周囲の人間関係がつくった習慣に
従ってしまうという問題がある。
原点といえるのが、1991年に起きた電通の過労自殺事件。
当時24歳の男性社員が入社1年5ヶ月後に自殺した。
毎月の平均残業時間は明確に証拠として
残っているものだけでも147時間にも及ぶ。
自殺直前には、徹夜での業務も増え、勤務終了後、
2時間後に出社するという異常な勤務状態にあった。
両親も心配して、有給休暇を取るなどの提案をするが、
他の人が休んでいないのに自分だけ休むのは言いづらいと言い残し、
自宅で首をつって亡くなった。
会社には、60~80時間の明確な月別残業上限ルールがあるのに、
他の人が我慢しているからといって、
ルールに従わないのが恒常化していたのである。
男性社員は、日常的にパワハラを受けていたともいわれており、
休暇を取ったり、労働基準監督署に訴えるといった手段も取らずに、
死を選んでしまった。
パワハラなど労働法規違反を取り締まる
コンプライアンス体制は整備された。
しかし、日本の職場の「ここぞというときは絶対休めない」
という大きな病理は、現在も解消していない。
残業時間が法律や会社で設定したルールの上限を超えているとか、
サービス残業を強制されるとか、
パワハラが恒常化しているなど、
本来であればルールに違反しているのに、
それを黙認するのは、
法律が何のためにあるのかわからない。
つまり日本という国は、
自己責任論をふりかざす割には、
自己責任というものの判断基準が、
何か見えないその場の雰囲気しだいになっている。
労働のルールを守った上での自殺なら
自己責任という強弁も通じるが、
そうでなければ自己責任とは言えない。
日本では、職場で法律を持ち出すと、
クレーマー(異常な要求者)扱いされてしまうが、
自分たちを守るためにつくられた法律であり、
そもそも法規に定められた範囲を大きく超えて
働かせる理不尽な企業のほうがクレーマーなのである。
◆自殺は自己責任ではない
日本人が世界から奇異な民族だと
見られる点が2つある。
ひとつは、借金が返せないから自殺すること。
もうひとつは、借金が返せないから強盗をするということ。
自分が遊ぶ金欲しさに強盗をするというのは理解できるが、
強盗したお金で借金を返すというのはあり得ないと、
驚きをもって受け止められる。
強盗という重大犯罪を犯してまで借金を返そうというのは、
日本人にとって「借金をしている」のが度を越して恥ずべき
状態だと思われているからにほかならない。
その考えかたはかなり異常な心理状態なのであって、
自殺は自己責任ではなく、
ほんとんどが精神的疾患の結果であり、
その意味では「防げる」はずのいたましい死である。
生活保護バッシングがあるから、
生活保護が受けられない人が増えているのと
同じ構図である。
◆「自己責任論」の最終目的は「高齢者殺し」
自己責任論の本当の目的というのは、
高齢者殺しである。
これから史上類をみない高齢社会に本格的に突入する。
蓄えのない高齢者や年金の少ない高齢者は、
このままいけば、生活保護を受給せざるを得ない。
ただ、生活保護の原資には限りがある。
彼らが受給申請しなければ、
財政問題は片付く。
しかし、面とむかってそんなことは言えない。
そこで持ち出されたのが「自己責任」である。
自己責任論の行き着く先は、
いわゆる終末期医療もしくは寝たきりになってからの
医療打ち切りを含めて、
国に依存する人を切っていく社会の到来である。
◆日本の裕福層はアメリカの富裕層よりたちが悪い
日本の裕福層たちは、
お金を持ってもそのお金を社会のために
還元しようなどと考えていない。
そして、より税金の低い国に海外移住しよとする
人たちを増やしただけだ。
アメリカの富裕層は、冷戦時代、
国にたくさん税金を払ってきた。
アメリカは富裕層であっても、
国を強くするための税金は惜しまないという
愛国心のある国である。
もちろん、富裕層の中にはタックス・ヘイブンに
資産を避難させたり、所得課税の少ない海外に
移住する人もいる。
しかし、アメリカの大富豪と呼ばれる人たちは、
あえて税金を払おうという人が多い。
ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットなど
世界有数の富裕層は自分たちにもっと課税しろと主張している。
しかし、日本の金持ちで、
国のためにお金を出すという人は
果たしてどれだけいるのか?
◆4割を超える非正規雇用で生活保護にまっしぐら
パートや派遣労働者などの非正規雇用が4割に達した。
10年の調査より1.3%上昇し、調査開始依頼最多となった。
すべての労働者の2.5人に1人は非正規雇用となった。
また、非正規雇用者の約8割は年収200万円未満ともいわれており、
日々の生活費にお金は消えてしまい、
貯蓄をすることもできない。
貯蓄ができないとなれば、
そうした人たちが病気やケガ、加齢によって
働けなくなったときに、
生活保護を受ける可能性がますます高くなる。
非正規雇用の人たちは、
ボーナスや昇給、退職金もない。
彼らが老後に受給できる年金の額は、
基本的に国民年金のみとなる。
このような状況下で、
弱者を叩いている場合ではない。
◆前払金をネコババする国と企業
近年では「給料が高すぎる」中高年は
リストラのターゲットになる。
給料をカットしたり、
最悪の場合は退職に追い込む。
今年の業績が悪い。
それはあなたが給料に見合った働きをしていないせいで
自己責任ですよねという論理で、
長年会社に「積み立てていた」
お金が踏み倒されるということになる。
ある種の詐欺がまかり通っている。
日本は福祉水準が低い国で、
失業保険や生活保護も諸外国と比べると
充実していない。
教育分野はとくに手薄で、
消費税20%を導入しているヨーロッパ諸国は
教育費用が無料だったり、共働き家族のために
24時間預けられる保育所が地域ぐるみで無料で設置されている。
ところが日本には子どもを育てたり、働けなくなってからの
制度が充実していない。
それでも成り立ってきたのは、
高度成長期に大企業を中心として福祉に力を入れてきたからである。
◆生活保護
年金だけでは食べられず生活保護を受けている高齢者は、
若い頃に税金をたくさん払ったから、
今は国にそのお金を返してもらっているのだ
という感覚が正しい。
若い人にくらべて恵まれた世代なのに、
その上生活保護とは図々しいと思うかもしれないが、
社会の設計がそうなっているのである。
◆強者のウソの情報に騙されるな!
何かを決定するときは、
正しい情報を収集して、
正しい分析をする必要がある。
しかし、テレビの情報番組だけ見ていると、
私たちは間違った情報に支配されいる。
「ギリシャは公務員が多い、だから財政が破綻した」
報道によってこう思っている人も多いとおもうが、
ギリシャの労働人口に占める公務員の割合は14.1%である。
じつはこの数字は、OECD諸国では平均的な数値であり、
アメリカやイギリスとほぼ同じ比率である。
「ギリシャが財政破綻したのはギリシャ人が怠け者だから」
というイメージが先行しているが、これもウソである。
どの統計でもギリシャ人はEUの優等生ドイツ人と
比べてはるかに労働時間が長い。
もっとも、労働生産性が低いために
それだけ働かなければならないという面もあるが、
「怠けている」というのは間違っている。
こんなことはいくらでもある。
たとえば、日本の財政破綻が問題になる場合、
必ずセットで語られるのが消費税の問題。
消費税を欧米諸国並に引き上げて、
法人税を下げなければいけない。
これがグローバル・スタンダードだという。
しかし、現在のところ国際的に見て経済が好調なのは
アメリカである。
日本の法人税は15年で32.11%、16年からは31.33%まで下がった。
ところが、アメリカの法人税率は40.75%(カリフォルニア州)で、
日本より断然高い。しかも消費税が10%を超えている州はひとつもない。
◆「一億総活躍社会」の異常さ
安倍政権は「一億総活躍社会」の
スローガンを掲げた。
一億人の国民がこぞって活躍する社会を目指す。
一見もっともらしい考え方であるが、
すごくいやな感じがする。
一億総活躍社会を裏返してみれば、
要するに「働かない人間を許さない」
という社会である。
安倍政権の掲げる「一億総活躍社会」は、
労働力を増やし、消費を増大させることが目的である。
しかし、女性が「活躍していない」ことが、
日本の現状の原因というなら、
それは責任転換である。
なぜなら、消費が増えないのは、
一人あたりの給料が下がっているからであり、
人口が減っているからである。
現代の日本は、
生産性信仰を捨てるべきである。
「一億総活躍社会」から感じる
「働かざる者食うべからず」という
メッセージも、その信仰からきている。
◆自己責任を突き詰めていくと、その先は死しかない
生活保護は、
日々の暮らしのセーフティネットである。
仕事を失った、病気で働けなくなった、
母子家庭になったなど、
人生にはいろいろなトラブルがつきもの。
生活の手立てを失う可能性は、
誰にでもある。
そうなったときに日々の生活を再建するために、
生活保護がある。
この制度は憲法の生存権を保証するための制度である。
生存権とはただ生命を保つのではなくて、
「健康で文化的な最低限の生活を営む権利」
のことである。
日本は生活保護の受給資格があるのに、
もらっていない人が約8割もいる。
多くの人たちは、
当然の権利である生活保護を受給することに対して
自責の念にかられる。
日本人は、うつ病気質の人、
自責気質の人が多いので、
たとえ自分自身が直接バッシングに
さらされていなくても、
世間の空気に耐えられない。
◆一億総「自己責任」時代を生き抜く
ネット死刑、いじめ、
生活保護バッシング、テロ犠牲者に
「国に迷惑をかけるな」…。
なぜ日本人は、
ここまで冷たくなったのか。
個人、会社、国家、
どの位相でもインチキな自己責任の
論理が幅を利かせている日本。
「自由」よりも強者の下で威張ることを好み、
「平等」よりも水に落ちた犬をぶっ叩く。