雨の日には雨の中を 風の日には風の中を by 相田 みつを
相田 みつを
大正13年、栃木県足利市生まれ。
書家・詩人。
旧制中学の頃から、書と短歌に親しむ。
その後、自分の言葉、自分の書をテーマに独自のスタイルを確立し、数多くの作品を生み出す。
昭和59年、『にんげんだもの』が出版され、多くの日本人の心をとらえて根強いファン層を広げる。
平成3年12月17日、67歳で逝去
「雨の日には雨の中を 風の日には風の中を」
相田みつをの真髄であるこの言葉は、
私たちの心にそっと寄り添い、
暖めてくれる…
目次
雨の日には
生きていてよかった
いいですか
たね
水にぬれなければ
遠くからみている
そっとしておく
悔
欠点
無為不待〔ほか〕

MEMO
雨の日には雨の中を 風の日には風の中を
◆やりなおしが
きかねんだなあ
人生というものは
◆なんにも欲しがらぬときが
一番強い
◆どうもがいても
だめなときがある
ただ手を合わせる以外には
方法がないときがある
ほんとうの眼がひらくのは
そのときだ
◆あの人
何人か集まれば
あの人はいつもお茶当番
立ち居ふるまいは控えめだが
身のこなしの早いこと
話が始まればいつも聞き役
やさしい微笑をたたえて
大きくうなずくだけ
あの人はいつの集まりでも
自分ではほとんどじゃべらない
しゃべらないけど明るい
栃の木の、あの大きな葉のように
そして…
しゃべらないあの人がいないと
なんともつまらない
その場がさびしい
「話い上手より聞き上手」
聞き上手のチャンピオン
それは観音さま
あの人はみんなの観音さまだ
◆苔のつぶやき
わたしには殆ど陽が当たらない
わたしには杉の木や
松の木のように
高くてカッコいい
姿にはなれない
その代り
どんな風が吹いても
倒れるということがない
わたしには初めから
倒れるだけの高さがないから
◆使ったところが
強くなる
頭でもからだでも
でも
その反対
使わぬところは
◆ある日自分へ
おまえさんな
いま一体何が一番欲しい
あれもこれもじゃだめだよ
いのちがけでほしいものを
ただ一ツに的をしぼって
言ってみな
◆いのち
アノネ
にんげんはねえ
自分の意志で
この世に生まれてきた
わけじゃねんだな
だからね
自分の意志で
勝手に死んでは
いけねんだよ
◆人間追いつめられて
はじめて本音を吐く
その時どんな本音を吐くか
それが大事
◆花の下・草の上
得意泰然
失意淡然
古人のことばです
得意の時も平然
失意の時も淡々
顔色一ツ変えない
ふだんと同じ
という意味ですね
ところで自分は…?
とてもとてもそんなわけには……
得意有頂天
失意ゲンナリ
ちょツとよければすぐのぼせ
ちょツとわるけりゃすぐしょぼん
そんなわたしでも
仏さまがちゃんと生かして
くれるんですね
得意有頂天
失意ゲンナリ
そのままで…
そのまま少しも修正なしで
生かされてきて
生きてきて
きょう花の下
いま草の上
わずかな酒に酔ってます
◆そっとしておく
余計なことだったかな
うん、余計なことだったな
頼まれもしないのに
勝手に先まわりして…
こっちは親切のつもりで
やったことだけれど
当人にとっては
余計な(おせっかい)だったかも
そっとしておくことが
一番よかったのに
親切という名のおせっかい
そっとしておく思いやり
慈善という名の巧妙な偽善
まだ青い稲の上をわたる
風の行方を見ながら
ひとりつぶやく朝でした
◆たね
種子さえ蒔いておけば
いつかかならず芽が出る
よいたねにはよい芽が
悪い種子には悪い芽が
忘れたころに
ちゃんと出てくる
◆いいですか
いくらのろくてもかまいませんよ
たいせつなことはね
いつでも前をむいて
自分の足で
自分の道を歩く
ことですよ
みつを