幸福論 Ⅰ by カール ヒルティ
カール ヒルティ
1833‐1909。
スイスのザンクト・ガレン州のヴェルデンベルクに生まれる。
ドイツの大学で法学・哲学を学んだのち、スイスにもどり弁護士となる。
その後、ベルン大学の法学教授、国会議員、オランダ・ハーグの国際裁判所判事などを歴任しながら、『幸福論』『眠られぬ夜のために』などの宗教的・倫理的・人生論的な著述を多く残した…
「仕事をするこつ」「良い習慣」「時間をつくる方法」「幸福」他、全8編。
見やすくて読みやすい、世界的名著の決定版…
目次
1 仕事をするこつ
2 エピクテトス
3 絶えず悪者と闘いながらも策略を使わないような処世の道は、どうしたら可能か
4 良い習慣
5 この世の子らは光の子らよりも利口である
6 時間をつくる方法
7 幸福
8 人間とは何だろう、どこから来て、どこへ行くのか、あの金色に光る空の星のかなたには誰が住んでいるのか?

MEMO
幸福論 Ⅰ
◆仕事は人間の幸福のひとつの
大きな要素である。
いや、仕事なしでは、
たんなる陶酔でない真の幸福感は
絶対に人間に与えられないという意味では、
それは最大の要素ですらある。
◆時を永遠とし
永遠を時として
生きる人は
すべての争いから免(まの)かる。
◆信仰、信念の何たるかを問わず
およそ人間を生涯見捨てず、
あらゆる不幸に際していつも彼を慰めてくれるものが2つある。
それは…
「仕事」と「愛」である。
◆時間がありあまらないということこそ、
我々がこの地上で到達しうる幸福の最も本質的な構成要素である。
◆我々はまた無用な仕事を
決して自己に課してならない。
◆時間を手に入れるには…
すべての無用なことを
自分の生活から追放することである。
◆時間を節約するには…
すべてのことを、
たんに「ひとまず」あるいは暫定的にやる、
のではなく、
ただちにほんとうにやること。
◆迅速に仕事をすること
たんなる外形にはあまり重きを置かず、
つねに内容に重点を置くこと。
迅速に仕上げられた仕事が、
最善で、最も効果的な仕事だ。
◆いつもひとつの仕事を完全に仕上げてから、
他の仕事に着手するというのも、
間違ったやり方である。
これと反対に、
芸術家が往々非常にたくさんの計画や手をつけた仕事に
取り囲まれていて、
自分では左右し難いその時の気分の動くままに、
あるいはこの仕事、あるいはあの仕事と向かって行くのは、
油の乗った正しい行き方である。
◆時間節約の主要な方法のひとつは、
仕事の対象を変えることである。
対象を変えるのは、
完全な休息とほとんど同じである。
そしてこのやり方にある程度熟達すると、
我々はほとんど終日働き続けることができる。
◆時間のこまぎれを利用する
どんな仕事でも準備的な、
整理的な、機械的な種類のたくさんの副次的作業が必要であって、
それは各15分もあれば片付くようなものだが、
これが主要な労働時間と精力を食ってしまわないためには、
無駄に経ってしまう「こまぎれの時間」をあてる。
こまぎれの時間を利用すること、
そして「今日はもう始めても無駄だ」という考えをやめること、
これができれば、その人の全労働能率の半分は達成されたと言ってよい。
◆6時間、ないし8時間ものべつまくなしに、
あるいはほんのちょっとした休暇を取るだけでは、
誰でもほんとうに精神的な生産力をもった
仕事をすることはできない。
◆現代の多数の富者の不幸は、
かれらがたとえ「そんな必要がない」にせよ、
やはり定職を持たないことにある。
◆人おのおのに、
その分に応じて仕事が課さられている。
しかし、
その分を守りえないのが
人の心の常である。
◆時間を生み出す最もすぐれた方法は、
1週に6日(5日でも7日でもない)、
一定の昼間の(夜間ではない)時間に、
継続的ではなく、
規則正しく仕事をすることである。
規則正しい仕事こそ、
とくに中年期においては、
肉体および精神の健康を保持する
最善の方法である。
◆一般的な潮流に流されるままにうかうかと流れていかず、
むしろこれに抵抗し、
仕事の奴隷にも快楽の奴隷にもならず、
自由な人間として生きる。
◆すべての良き習慣を網羅した表をつくるよりは、
ひとつの良い習慣を実際にはじめる方が、
はるかに目的にかなっている。
◆我々は、
人からだまされるままになっていてはならぬ。
◆憎まねばならぬのは、
どこまでもモノであって、
人間ではない。
人間において、
善と悪とを完全に正しく判別するということは、
あまりにも困難である。
◆名誉や享楽を事としていれば、
我々は第三者に隷属する奴隷たるを免れない。
◆恐怖を起こすきっかけとなるものは、
概して、人生財の問題である。
それゆえ人生のなるべく早いうちに、
つまらない財よりすぐれた財を選ぶという習慣、
なかでもたがいに矛盾しているものを同時に持とうとしない
習慣をつけなければならない。
◆何かある不幸のはじまったとき、
あらかじめわれと我が身に、
たとえば「つづいても3日だ、それ以上ではない」
と言い聞かせておけば、
一層よい覚悟で事に臨むことができる。
◆恐怖はあらゆる人間感情の中で
最も不快なものであって、
我々がどんなことをしてもこの習性から
脱却しなければならない。
◆我々はつねに、
消極的に何かの習慣をやめようとするより、
むしろある習慣をつけようとしなければならない。
つまり、悪い習慣をやめようとするのではなく、
新たな良い習慣を身につければ、
悪い習慣は自然になくなる。
◆働くもののみが、
快楽と休養の何たるかを知る。
前もって働いていない休息は、
食欲のない食事と同じような快楽でしかない。
最善の、最も快適な、
最も報酬の多い、
しかもその上最も安価である時間消費法は、
つねに仕事である。
◆多くの仕事をしようとする者は、
あらゆる無益な精神的の、
または肉体的の雑事を注意深く避けなければならない。
そして精力を、
自分の為すべきことのために
蓄積しておかなければならない。
◆仕事の結果、ある程度の疲労が生じたら、
ただちに中止すべきである。
ただ、その際仕事することそれ自体を
やめてしまう必要はまったくなく、
その特定の仕事をやめればいい。
なぜなら、仕事を換えることは、
必要な休息とほとんど同じくらい元気を回復させる。
◆精神的な仕事の場合には、
もちろんしっかりやらなければならないが、
何一つあまるところなく言い尽くし、
あるいは読み尽くすというところまで委曲を尽くし、
遺漏なきを願ってはならない。
せいぜい、比較的小さな分野を完全にやり、
もっと大きなものならその本質的な主要点をものにすることが大事である。
あまりに多くを欲するものは、
たいがいあまりに少ししか成し遂げられないものである。
◆あすのことを思いわずらうな、
1日の苦労は、その日1日だけで十分である。
◆まずは着手する
仕事に向かって腰を据え、
己れの精神をその事柄に向けるという決心、
これが結局最も困難なものである。
◆生まれつき勤勉な人間というものはなく、
ただ天性と気質によって多少活発な人間がいるだけである。
◆すべての人間の肉体的また精神的健康の保持のためには、
意味のある仕事こそ例外なく必要だ。
◆完全にその仕事に沈潜(※)し、
われを忘れることのできる者は、
最も幸福な労働者である。
※深く没頭すること。
◆仕事の種類が幸福にするのではなく、
創造と成功の歓喜が幸福にするのである。
最大の不幸は、
仕事のない生活であり、
生涯の終わりにその実りを見ることのできない生活である。
したがって世に労働の権利というものがあるのであり、
またあらねばならない。
これはあらゆる人権の中でも
最も根本的なものですらある。
「失業者」は、
実際この世における真に不幸な人たちである。
◆ほんとうの休息は、
活動のさなかにのみ生じる。
精神的には、
仕事が着々と発展したり、
課題が成し遂げるられたのを眺めることによって生じ、
肉体的には、
毎日の睡眠、毎日の食事、また無上の休養の日曜日といったもので、
自然的に与えられる中間的な休みの時に生じる。
こうした自然的な休憩にのみ中断をゆるすだけの、
絶えざる有益な活動の状態こそ、
地上における最も幸福な状態である。