独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則 by 金出 武雄
金出 武雄(かなで・たけお)
カーネギーメロン大学ワイタカー記念全学教授。
1945年生まれ。
74年京都大学電子工学科博士課程修了(工学博士)。
同助教授を経て、80年にカーネギーメロン大学ロボット研究所高等研究員に。
同研究所准教授、教授を経て、92~2001年所長。
06年生活の質工学研究センターを設立しセンター長。
日本では01年、産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターを設立、01~09年センター長を兼任、現在は同研究所特別フェロー。
自動運転車や自律ヘリコプター、アイビジョン、顔認識、仮想化現実、一人称ビジョンなど、ロボット工学・画像認識の世界的権威であり、現在も日米を往復して独創的な研究を続けている…
日本人よ、世界を驚かせよう。
世界的に活躍するロボット研究者が、
真に独創的な仕事をするための発想と思考の秘密を語る。
目次
第1章 素人のように考え、玄人として実行する
第2章 コンピュータが人にチャレンジしている
第3章 自分の考えを表現し、説得する
第4章 決断と明示のスピードが求められている

MEMO
独創はひらめかない
◆ものの本質を考える
発想の段階においては、
「どんなことができるだろうか」
「どんなことを人は欲しているんだろうか」
というように、余計なことを考えないで、
素直にアマチュア的・直感的に考える。
そして、一旦やるとなれば、
妥協を許さず、厳密で細心、プロ的・徹底的に
突き詰める仕事をする。
知的ゲームを楽しむ習慣ができると、
世界の中で受け入れられている常識を疑ってみる。
すると時に、
ものの本質が見える。
日々の習慣を再考し、
よくするということができる。
◆転職は自分の実力を知る機会である
アメリカでは、
大学に限らず企業でも、
向いていない仕事や向いていない関係は長く続けても、
双方によくないという考えがある。
◆取引に、アメリカ人は一人で来る、日本人は3人で行く
アメリカ人が一人で来るのはそれなりの理由があるらしい。
交渉にきて誰と会い、
どういうふうに交渉すればいいかというのは、
その人の財産である。
連れ立ってくると、
その知識やノウハウ、コネクションを
他人に渡すことになる。
他人に渡すということは、
企業の中で自分の値打ちを減らし、
立場を危うくすることになりかねない。
だから一人で来たるのである。
◆周りからの目を気にしないアメリカ人
自分が周りからどう見られているかということに、
まったくと言っていいほど関心を示さないかのように見える
言動をするアメリカ人が多い。
日本人は、一般に他人や外国、世界からどう見られているかに
非常に敏感である。
言い換えると、
自意識過剰である。
◆情報のうち、
最も重要なものの一つは、
世界のどこにどんな人がいて
何をしているかという情報である。
◆英語敎育はあまり早くからやらないほうがよい
思考を養うためには、
子どもの思考過程が固まるまでは
一つの言語で教えたほうがいい。
◆一般にプレゼン資料は
パッと見てわかりやすいように作れという。
しかし、本当のコツはそうではない。
実は、プレゼン資料は「それだけでは」
内容がわからないように作らなければならない。
それだけで何を言いたいのかがわかると、
聴衆は勝手なことを考え始める。
◆上手なプロポーザルというのは、
そのプロポーザルを読んだ人がわかるだけではない。
それを読んだ人が、
その上司やボスや選定委員会に
説明しやすく書かれていなければならない。
会社でも、
提案書や企画書を書く場合には、
直属の上司だけでなく、
その先の人を見通して書くことが肝心である。
課長が部長に、
部長が専務に言いやすいように。
◆日本人の英語で注意すべきこと…
文章を「Moreover」「Therefore」「Also」「Now」といった副詞、
「In addition」「As a result」「For the purpose of」といった副詞句、
「Because…」「Although…」といった副詞節、
「It is said that…」「The most important point is that…」といった
形式的な主語を置く出だし始める癖。
◆書物の優劣は言葉ではない、構想力と構成力だ。
◆論文を書く際に最も重要なことは
「1ユニットには1トピック」という原則である。
まず、一つの文章では一つの内容しな言わない。
例えば、「AはBである」「Aは何々をする」
といった一つのことしか絶対に言わないようにする。
◆章立ての構成だけで論文の言わんとする筋が
わかるようになっていることがポイントである。
◆日本人は、柔軟な、適応できる
などの形容詞が好きで入れたがるが、
ほとんどの場合、何の意味ももたず、
弱々しい印象を与えるだけである。
◆推理小説は、
殺人事件があって、
それを探偵が解明していく。
読者にはそのプロセスが面白いのである。
研究論文も事件、
つまり研究課題があって、
それを著者が解いていくというプロセスを提供するものだ、
推理小説と研究論文は同じ考えで成り立っている。
- サスペンス(どうなるか)
- サプライズ(まさか、あそうか)
- サティスファクション(満足感)
- シェアリング(共有)
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◆英会話上達の秘訣(2)
ヒアリングの練習は、
頭を空にして聞く。
英語で人としゃべったり、
ラジオを聞いたりする時に、
一語も聞き漏らすまいと神経を集中して聞いている人がいる。
そういう人は頭の中で何をしているかというと、
聞く先から日本語に訳しているのだ。
だから、
知らない単語が一つでも出てくると、
そこでつまずいてもうアウトになってしまう。
では、どんな練習をすればいいか?
訳すという高級な能力が働かないようにすればよい。
つまり、頭脳の活動のレベルを下げて英語を聞く練習をする。
例えば、「book」という言葉が聞こえた時、
途端に「本」、「publication」と言われたら「出版」とか、
そういう日本語の単語がすぐ出てこないようにする。
「publication」とは聞こえているけれど、
「日本語ではどういう意味だったかな?」とかいうようなことは考えないようにする
練習をする。
言い換えると、
英語が「わかったような気になる」レベルに頭の活動を下げる。
しかし、これは結構難しい。
なぜか?
レベルを下げすぎるともう音としてしか聞こえなくなって、
何を言っているのはまったくわからなくなる。
一方、レベルを上げすぎると訳し始めてしまう。
すごくしんどいのだが、
練習を重ねているとだんだん慣れてきて、
「なんとなく言っていることがわかる」という状態になる。
言い換えると、
そこそこに飛ばす練習である。
「しまった、あの単語を聞き逃した」などと思わないようにするのである。
そのためには、
ある程度内容が理解できている音声(テープ、動画)などを繰り返し聞くようにするのがよい。
◆英会話上達の秘訣(1)
英語に限らず外国語の発音の上達には秘訣がある。
早口で、大きな声でしゃべる練習をすること。
しゃべるということは、
相手に自分の意思や感情、考えを伝達することを目的とする。
そのためには、
速くコミュニケーションするというのが重要だから、
どんな言語でも、速くしゃべるように作られている。
英会話上達の一番の要諦は、
できるだけ早口でしゃべる練習を日頃からすることである。
ただ、ここで大切なことは、
大きな声で発音すること。
◆最適な英会話の習熟レベル
日本人としての実用的英会話の習熟レベルは、
図でいえば、谷を超えて最初の山と同じ高さの位置、
つまりBの位置ぐらいが最適と思われる。
Bの点にまで到達するのは実はなかなか大変であるが、
それ以上を目指すのは無駄である。
Figure (KanadeRiron2.jpg)
◆英会話失敗談
ある人を訪ねるとき、
「あなたが今日私が会いたいと思った人の最後だ」と英語を言おうとして…
You are the last person that I wanted to meet with today.
と言うと…
「今日、私が一番会いたくなかった人があなたである」という意味になる。
「last」というのはこの場合「順番の最後」というのではなく、
そこから転じて、
「一番そうでない」という意味になる。
◆「金出理論」による英会話の上達度とその役立ち度の関係
この図は、
横軸は上手さ加減、縦軸は役立ちさ加減の座標軸である。
普通に考えると上手なほど役に立つから、
グラフは単調に45度の右上がりの直線になると思われるが、違う。
役立ち方は最初に山(M)があって、次の谷(V)を超えてから単調に増加する。
MからVの間は上手になればなるほど、
実は効果がマイナスなのだ。
Figure (KanadeRiron.jpg)
◆話し方の悪い癖(But)
日本人が英語を話す時、
文章を切り出すタイミングが要るので、
そのために「But」を使う人がある。
英語でのディスカッションで相手がひとこと言うたびに、
相槌代わりに、相手の言うことと自分の言うこととの論理関係とは無関係に、
すべての文章に「But」で始める人がいる。
◆外国では、相手の目を見て話せ!
◆新しい知識を使える知識とするには、
すでにもっている知識と結びつけなければならない。
新らしいことばかりでは
関連づけられない。
◆話は、前置きなしに、
聴衆の一番感心がある結論のところから話を始め、
途中、どこで終わってもよい順序にする戦略が大切である。
聴衆の感心が一番高いのは、
話の初めである。
◆抽象化というのは、
いわゆる抽象的に話すことではない。
特定の例、
出来事の一段上の共通の概念をつかむこと
(ツボを押さえること)である。
ツボをいかに押さえるかは、
どの分野でも、研究でも、
話し方でも、敎育でも、
同じである。
◆コンピュータ技術者が歳をとると
進歩についていけなくなるというのは、
急激な進歩に伴う新しい知識を吸収する能力が
なくなったというだけではない。
身についた思考の枠組みが、
自分のアプローチと異なる新しい考え方や知識を
吸収する邪魔をしてしまうのだ。
これを防ぐには日頃から
未知のものに触れておくことだ。
未知のものに触れる最もよい方法は、
自分の専門外の人の話を聞き、
彼らと話をすることである。
◆英単語を覚えるコツ
紙を半分に折り、
片方に英語、もう片方に日本語を書く。
そして片方を隠して「book」と見ればすぐに「本」、
反対側から、「黄色」と見ればすぐに「yellow]という、
書くという方法で暗記する。
一瞬のうちに反応できない単語には
印を付ける。
一つでも印があれば紙全体をやり直して、
しるしがゼロになるまで繰り返し、
徹底的に練習する。
◆子どもの敎育の基本は
「読み・書き・ソロバン(計算)」である。
読み・書き・計算は、
すべての学科、さらに言えば思考、
記憶力の基本の基礎である。
基本は繰り返してやることで身につくものであり、
近道はない。
◆覚える時に、
理解して覚えること。
理解して覚えたことは
正しく出てくる。
次に、
どんなことを読んだり聞いたりしても、
自分の知っていること、
経験したこととの関連を思い浮かべること。
いつも、
「もしそうなら」とその役立ち方について
想像を膨らませながら新しい知識を覚えること。
それが知識への感受性を高める。
◆記憶力には、
覚える力と引き出す力の2つがある。
いくら覚えも、
それを引き出さなければ役に立たない。
しかし、覚えていないものは引き出しようがない。
つまり、
その両方を鍛えないと、
記憶力は生きてこない。
◆「記憶力ではとてもコンピュータにかなわない。
覚えることはコンピュータにまかせて、
人間は思考力を磨いたほうが効率的だ」
と言うひとがいそうだが、
それは、とんでもない間違いである。
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◆知覚、思考、行動の源は記憶である
日常生活における知覚、思考、行動など、
すべての源をたどれば記憶に落ち着く。
企画力や創造力を働かせようとしても、
道具や材料となる知識や情報がなければ何も始まらない。
アイデアは頭の中の
記憶の組み合わせから生まれる。
その土台がしっかりしていなければ、
よいアイデアが生まれるわけがない。
◆自由作文などで創造能力を測ろうという入試がある。
だが、本当の能力はそんな抽象的な作文ではわからない。
自分で勝手なことを考え、
勝手に書くのは誰でもできる。
本当の能力は、
具体的な現実にある問題を解く能力である。
◆日本の敎育の何が間違っているのか?
日本の学校では、
知識を最も一般化し、
整理した定理という形で与え、
定理を問題にどう当てはめるかを練習する。
実験では正しいとわかている知識を
追認する手順を教えるということが
敎育の根本にある、
それを問題解決と考えているところに誤りがある。
◆日本の学生は問題解決の能力において劣っている
問題解決の能力を育てることは、
どの分野であれ、
最も重要なことだ。
日本の学生はアメリカの学生と比較して、
本来の問題解決の能力において明らかに劣っている。
本の中にある答えを見つけ出すのが
問題解決ではない。
「使い捨てカメラは、
どうしてこんなに安い値段で売れるのか?」
の問題のように、
現実の問題を自分で考えることから
さまざまな疑問が生れ、
それがテーマになる。
それが問題解決学習なのだ。
現実にある問題を自分の頭で考えて
「何とかする」という訓練をしなければ、
いくら専門的な知識があっても、
思考力、判断力、そして挑戦する意欲という
知的体力は生れない。
◆アメリカの大学では問題解決学習が基本である
学生は課題を与えられ、
自ら考え、調べ、解く学習…、
つまり、問題解決学習が基本になっている。
たとえば、こんな課題がある…
「使い捨てカメラは、
どうしてこんなに安い値段で売れるのか調べなさい」
◆他人と全く同じ言動をする人は個性的ではないという。
しかし、違えばよいと言っても、
それがある許容範囲を超えると、
それは異常性格ということになってしまう。
もちろん、
許容範囲は時とともに変わっていく。
予測可能な範囲内での
予測不可能性を作り出せるかが、
「人のようであるか」のキーなのだ。
◆コンピュータ以上のことをしなければ
人は存在価値をなくしていくかもしれない。
それは何か?
「問題解決能力」である。
問題解決と言っても、
与えられた問題の答えをマニュアルや公式にしたがって
はじき出すことではない。
現状において何を目標とすべきか、
解くことができてかつ解ければ価値のある問題の設定はどうするか、
そして、それを実際にどう解くかというのが問題解決である。
それは、研究においても、
企業においても、家庭においても同じことである。
◆何もないところから、
突然考えるということは、
普通はできない。
これだけ多くの人がいるのだ。
自分がいいと思うことは、
他人も考えている場合が多い。
似たようなことを考える人は必ずいるものである。
まったく誰も考えもしなかったアイデアは
普通ろくなことはない。
真似してもいいではないか。
最初は同じものだが、
それに何か付加するか、
それを昇華させるレベルが
どれほど高いかどうかが勝負の岐路である。
まとめると…
ほとんどの独創は、
真似に付加価値をつけたものである。
独創、創造は無から有を生み出す魔法ではない。
◆ベンチャー企業成功の条件は、
逆説的に言えば皆が考えるようなことをやることである。
皆が考えているのだが、
誰もできなかった、
思い切ってしなかったというのが成功する。
誰も考えたことのないようなものを
急に商品にしたとしても、
社会は心が準備できておらず、
価値があることに気づかないものだ。
◆アイデアは
思考の続かないところには生れない。
◆独創はひらめかない
独創的な人は「ひらめく」とよく言われる。
すると、たぶん普通の人はそんなにひらめいた経験はないから、
自分にはとても無理と思う。
しかし、アイデアはひらめくというより、
長い間考えた末の結果であることのほうが
はるかに多いのではないか。
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◆アイデアは「人に話して」発展する
どんなアイデアでも、
最初は単なる思いつきにすぎないということが多い。
アイデアを練る方法は、
考えついたアイデアを人に語りかけ、
そのやりとりでまともなアイデアかどうかをチェックし、
関連した知識を得、不備な面を修正する。
アイデアを昇華させるキーは、
「人に話すこと」である。
◆ダイエット運動と違って、
研究の場合は、
1日に10分間ずつ毎日やれば
いずれいい結果が生まれるというものではない。
長時間じーっと考え続けなくてはならない。
この、「じーっと」というのは、
ものすごくつらいことである。
寝る時も、
食事をしながらも頭をフル回転し続ける。
◆世界的に活躍している研究者には、一つの共通点がある。
それは…
「知的な体力」があることだ。
知的な体力とは…
同じことを考え続けたり、
一つのことをいろいろな方面から
考えても飽きのこない力のことである。
◆困難点を明示することが大切
どんな問題でも難しい。
何が難しいかわからないが、
難しいということはわかっている。
まずやってみて、
「なるほど、これは難しい」
「これを難しくしているのはこれだ。
ここができないから難しいのだ」
ということがわかることは、
問題を解いたり、
研究するうえでの大前提である。
◆KISS
KISS(Keep It Simple, Stupid)とはアメリカの俗語で、
もとは軍隊用語からきている。
部下がうまくできない時に、
「こら、簡単にやれ!バカモノ!」という意味。
KISSはエンジニアリングの基本的な考え方である。
◆思い切って簡単化できるかどうかが、
よくできる人とできない人の差である。
よくできる人は、
簡単化の方法に踏み込めるが、
できない人は、
「こんなに単純化してしまって、いいんだろうか」
と怖じ気いて踏み出せない。
◆創造的で、しかもほかの人たちの興味をそそり、
新しい方向に導くような考え方をする人の秘訣とは?
それは…
みんなの言うことの反対をしていればよい。
みんながよいという考えにだいたいろくなことはない。
たとえば、、
上がった株を避けて下がった株を買う。
◆考える時は素人として素直に、
実行する時には玄人として緻密に行動する。
◆素人発想、玄人実行
発想は、単純、素直、自由、簡単でなければならない。
そんな、素直で自由な発想を邪魔するものの一番は何か?
それはなまじっかな知識…知っていると思う心…である。
◆発想は、単純、素直、自由、簡単でなければならない。
しかし、発想を実行に移すには知識がいる、
習熟さらた技がいる。
考えがよくても、下手に作ったものは動かない。