細胞が自分を食べる オートファジーの謎 by 水島 昇
水島 昇
1966年東京都生まれ。
武蔵高等学校卒業。東京医科歯科大学医学部卒業。同大学大学院博士課程修了。
基礎生物学研究所(岡崎市)にて大隅良典教授の下でオートファジーの研究を開始、東京都臨床医学総合研究所副参事研究員などを経て、東京医科歯科大学教授。
酵母から哺乳類へとオートファジーの研究を展開している。
2008年度日本学術振興会賞、2009年度井上学術賞、2010年度日本生化学会柿内三郎記念賞、2011年度武田医学賞などを受賞…
私たちの体を構成する細胞の中で、
日々、劇的な変化が起きていることが分かった。
体の栄養となるタンパク質で言えば、
食事でとる3倍の量を毎日、
分解しては新しく合成している。
この細胞内の主な分解方法が、
いま注目のオートファジーである。
オートファジーは、
細胞内を掃除し、
中身を入れ替えるリサイクルの働きをしていたのだ。
目次
第1章 オートファジー、細胞内の大規模分解系
第2章 酵母でブレークしたオートファジー研究
第3章 自分を食べて飢餓に耐える
第4章 細胞の性質を変えるためのオートファジー、発生と分化
第5章 細胞内を浄化するオートファジー
第6章 相手をねらいうちする「選択的オートファジー」
第7章 免疫系でも活躍するオートファジー
第8章 オートファジーの研究最前線

MEMO
オートファジーの謎
◆多細胞となると個体の寿命も延び、
細胞の使い捨てだけでは生命の維持は困難となった。
そこで、
生物は巧妙にもそれまで飢餓応答システムとして
用いていたオートファジーを細胞内浄化システムとして
転用するようになったと考えられる。
◆ヒトはどれだけ飢餓に耐えられるか?
1日、2日の飢餓であればオートファジーが活性化されて、
それに適応しようとするが、
さらに続くとどうなるか。
普通の体重のヒトでも約2ヶ月は水だけで生きられるらしい。
体重が100kgを超えるようなヒトであれば、
7-8ヶ月は全く食べなくても健康を維持できるという報告がある。
◆オートファジーの役割
オートファジーの最も基本的な役割は飢餓に耐えることである。
飢餓は生物を苦しめてきた主要なストレスである。
多少の飢餓でも細胞や体全体が餓え死にしないようにしておく必要がある。
オートファジーによる自身の過剰分解は飢餓のときだけに起こるわけではなく、
発生の過程で細胞内を大規模に入れ替えないといけないときにも起こる。
一方で、オートファジーは細胞の中をキレイにする浄化作用ももっている。
神経細胞のように寿命の長い細胞は、
オートファジーを起こすことによって細胞内に
ゴミがたまらないようにすることができる。
◆この(細胞の掃除)問題は寿命の長い細胞で
より深刻である。
寿命の短い細胞、
たとえば寿命5日の腸粘膜の上皮細胞では、
細胞内に多少のゴミがたまろうと、
ゴミとともに天命をまっとうしてしまうので
実際はなんの問題にもならない。
しかし、
神経細胞などではそうはいかない。
神経細胞の寿命は大変長く、
ほぼ一生のつきあいとなる。
一生使い続けないといけない細胞では、
常にゴミがたまらないよう監視する必要がある。
◆細胞内は常に掃除をしないといけない
掃除をしなければゴミがたまって汚れてくる、
というのは私たちの身の回りのことだけではない。
細胞の中でも同じである。
細胞内を常に新鮮な状態に保つべく、
ゴミができればそれを処理したり、
あるいはゴミとなる前に取り替えたりする必要がある。
◆細胞はなぜ入れ替える必要があるのか?
- 基本的には新鮮さを保つため、
- 栄養を獲得するため、
- 変化をするため
の3つである。
◆体を構成する細胞の寿命
- 白血球▶3-5日
- 腸の上皮細胞▶3-5日
- 血小板▶10-14日
- 皮膚▶1ヶ月
- 赤血球▶4ヶ月
- 肝▶1年半
- 骨▶2-10年
- 脳(神経)▶ほぼ一生