痛風を治す生活読本 by 鎌谷 直之
鎌谷 直之
東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター所長、医学博士。
1967年、東京大学教養学部(理科3類)入学。
1973年、東京大学医学部医学科卒業、同年、東京大学医学部内科入局。
茨城県日立市日立総合病院内科、東京大学医学部附属病院物療内科、米国カリフォルニア州スクリプス研究所等を経て、1984年より、東京女子医科大学リウマチ痛風センターに勤務。
1996年、同センター教授。
この間、米国ミシガン大学内科客員教授を兼任する。
1998年より同センター所長、現在に至る。
日本リウマチ学会認定医・指導医、日本痛風・核酸代謝学会理事。
専門は内科学…
通風が怖いのは「激痛発作」だけではない。
腎臓病や命に関わる病気を招くことも。
プリン体を制限するだけでは意味がない。
痛みのないタイプの痛風にも注意…
目次
序章 尿酸値の高い人はここが危ない!
1章 痛風・高尿酸血症はどんな病気か
2章 食生活を改善することが治療の基本
3章 運動習慣を確立して尿酸値を下げる
4章 痛風・高尿酸血症に克つライフスタイル
5章 痛風・高尿酸血症の最新治療

MEMO
痛風を治す生活読本
◆薬物治療の初期に痛風発作が起こる場合も…
痛風発作は体内の尿酸値が増加して過剰になった分が結晶化し、
関節部などに蓄積することで起こる。
根本的原因は尿酸値の高い状態が
慢性化していることにある。
実は、慢性的に高い状態にあった尿酸値が急に下がると、
それが痛風発作を引き起こす原因になることがある。
これを「尿酸値の下降型発作」などと呼ぶこともある。
尿酸下降薬を使用すれば、
体内の尿酸は減少する。
しかし、
患部の関節部などには、
結晶化した尿酸が相変わらず大量に蓄積している。
そうなると、
体内と発作を起こした患部との間に大きな
尿酸値の高低差が生じる。
この「差」がきっかけとなって、
白血球が尿酸結晶を再び攻撃することがある。
白血球の攻撃が再開されると、
関節に張りついている尿酸結晶がはがれ落ち、
痛風発作が再発する。
治療開始後の痛風発作は、
予兆も含めると6ヶ月以内に
40%前後の人が体験すると推測される。
尿酸値を急激に下げない、
最低でも月に1回は尿酸値を計測する。
◆尿酸降下薬は発作の症状が完全におさまってから使用
通常、痛風発作を起こして、
痛みや腫れ、関節部の炎症などが残っている状態では、
尿酸降下薬による治療は開始しない。
尿酸降下薬による治療は、
発作の症状が十分に治まってから
開始することが大切です。
◆尿酸値は徐々に下げるのが治療の鉄則
薬で尿酸を急激に下げると
逆に痛風発作を誘発する。
意外なことに、
尿酸値を急激に下げると、
痛風発作を誘発する危険性がある。
尿酸値の急低下は腎臓に負担、
3、4ヶ月から半年かけてゆっくりと治療する。
◆尿酸値を低下させる薬物療法
尿酸値上昇のタイプ別に2種類の薬を使い分ける
医師は患者の病状、尿酸値の推移、
過去の発作の回数、合併症有無などを詳しく調べてから
治療計画を立てる。
尿酸値を下げる薬を選ぶときも
この考え方が大切になる。
高尿酸血症には
- 尿酸排泄低下型
- 尿酸産生過剰型
の2つのタイプがある。
この2つのタイプによって
薬を使い分ける。
- 尿酸排泄低下型▶尿酸排泄促進薬
- 尿酸生産過剰型▶尿酸生成抑制薬
を処方する。
◆薬物療法を始めるタイミング
- 尿酸値(7.0)▶生活改善法
- 尿酸値(8.0)▶場合によっては薬物療法
- 尿酸値(9.0)▶薬物療法
※痛風発作の経験がある人は生活改善を続けても尿酸値が7.0以下にならない場合は薬物療法となる。
◆こまめな水分補給で尿酸を排泄
尿酸値が高い人は尿量を1日2リットルに。
水の摂取量は1日最低1.5リットル。
◆痛風の人におすすめなのはゆっくりとした軽い運動
寝る前の布団、ベッドの上で両足を高く上げたり、
上半身を上げて腹筋を鍛える。
◆いろんな食品からバランスよく栄養をとる
食品は栄養成分の似たもので6つのグループに分けられる。
この6つのグループからまんべんなく食品を選び、
3食に上手に振り分けて食べる。
ダイエットするときは、
5群と6群の食品を控える。
- 1群(たんぱく質)卵、魚、肉、大豆製品(★)
- 2群(カルシウム)乳製品、小魚、海藻
- 3群(カロテン)緑黄色野菜(にんじん、かぼちゃ…)
- 4群(ビタミンC) 淡色野菜(キャベツ、タマネギ)、果物
- 5群(炭水化物)穀類、いも類、糖類・菓子類
- 6群(脂肪)油脂類、マーガリン、バター、オリーブオイル、サラダ油
※汁ものを具だくさんにして1群から4群の食材を含める。
◆プリン体含有量の比較(食品100gあたり)
魚介類
・イワシ干物 133
・大正エビ 112
・アジ干物 109
・イワシ 94
・カツオ 90
・車エビ 86
・スルメイカ 81
・カキ 80
・ニジマス 80
・アジ 72
・ヤリイカ 71
・サンマ 68
・マグロ 67
・芝エビ 65
・ズワイガニ 63
・タラコ 57
・サケ 52
・サバ 52
・マグロ缶詰 50
・カレイ 50
肉類
・鶏肝臓 148
・豚肝臓 128
・牛肝臓 102
・豚腎臓 91
・牛腎臓 81
・鶏ささ身 67
・鶏モモ 54
・豚ヒレ 53
・ラム 41
・豚ロース 40
・豚バラ 33
その他
・干ししいたけ 186
・大豆 84
・ほうれん草 27
・精白米 13
・小麦粉 8
・鶏卵 0
・牛乳 0
◆「たまに少量」を原則にするのが高プリン体食品摂取のコツ
高プリン体食品を知ったうえで、
それとつき合うためのポイントは2つ、
「頻度」と「量」。
◆食事の質を上げるために毎日1個の卵
卵は体に必要な栄養素を
バランスよく兼ね備えた食品です。
1日1個は食べるようにしたいもの。
1日に1、2個程度なら
コレステロールのとりすぎにつながることはない
と考えられている。
◆プリン体の摂取量が重視されなくなった3つの理由
・食事に由来するものより体内で作られる尿酸のほうがずっと多い
・食事から摂取したプリン体の一部は腸管内で分解される
・尿酸をコントールする優れたクスリが開発された
◆果物80~100kcal(キロカロリー)の目安
※果物は1日に80~100kcal程度の分量にとどめる。
・グレープフルーツ 中1個(約200g)
・はっさく 大1個(約200g)
・みかん 中2個(約200g)
・りんご 中 1/2個 (約150g) ★小玉のりんご1個にする!
・バナナ 中1本(約100g)
・柿 中1個(約150g)
・いちご 8-10粒(約250g)
・すいか 2切れ(約200g)
・メロン 中 1/2個(約200g)
・もも 大1個(約200g)
・ぶどう 大10~15粒(約150g)
・キウイフルーツ 小2個(約150g)
◆果物の果糖や砂糖は体内で脂質に変わりやすい
脂質に変わりやすい糖類は、
尿酸値上昇の原因にもなる。
二糖類、単糖類は体内に入ってからの分解・吸収が速く、
すぐにエネルギーになるという長所があるが、
とりすぎると脂質に変わりやすく、
尿酸値を高める結果を招く。
単糖類はヘルシーなイメージの強い果物に
果糖などの形で多く含まれているため、
果物の食べ過ぎによって過剰摂取を招く。★
果物はビタミンCのほか、
ナトリウムを排泄してくれるカリウムなどの
供給源として期待できるものが多く、
生活習慣病の予防に役立つ栄養源と言える。
しかし、食べ過ぎるとエネルギーオーバーから
肥満につながりやすく、尿酸値の高い人は要注意。★
果物に多い果糖は、
糖分の中でも特に中世脂肪を作る働きが強く、
肥満の原因になる。
果物は1日に80~100キロカロリー程度の分量にとどめる。
◆食物繊維を十分にとって便利、肥満を防ぐ
干し柿、納豆、ひじき、いんげん豆、
栗、まこんぶ、キウイフルーツ
※食物繊維をたくさんとるときに注意したいのは、
カルシウム、鉄、ビタミン類など他の栄養素の不足。
これらも併せて摂取すること。
◆低エネルギー食品を使えば、食欲を満たしながら減量も可能
きのこ、こんにゃく、寒天などは、
いずれも低エネルギーで、
肥満を気にせずに食べられる。
◆「畑の肉」と呼ばれる大豆
動物性食品の摂取を減らすなら、
それに変わる何かで良質たんぱく質を
補う必要がある。
そこで注目されるのが大豆。
大豆は、植物性でありながら、
例外的に良質のたんぱく資源と呼べる食品である。
アミノ酸組成は肉によく似ている。
肉と同様、ビタミンB群の供給源にもなる。
大豆の唯一の欠点は消化があまりよくないこと。
大豆は加熱が足りないと
青臭さも残る。
指で挟むとすっとつぶれるくらいまで
十分に火を通して使うことが大事。
※夕食に納豆を食べれば明け方のリスクが減らせる! ★
◆プリン体が多い魚介類
まぐろのトロ、うなぎ、あなご、子持ちししゃも、めざし、
たらこ、いくら、かずのこ、あんきも、うに、かに、
えび、いか、たこ、貝類
◆尿のアルカリ化作用がとくに高い食品
ひじき、わかめ、昆布、干ししいたけ、大豆、
ほうれんそう、にんじん、ごぼう、キャベツ、大根、
かぶ、なす、さつまいも、さといも、じゃがいも
◆野菜、海藻類を十分にとって尿のアルカリ化を促す
尿をアルカリ性に近づけるためには
クエン酸などの飲用も有効だが、
尿の酸性度は食事の内容でも左右される。
尿のアルカリ化を図る手助けをしてくれる食品は、
野菜や海藻である。
逆に酸性にしてしまうのは、
肉類やアルコールである。
尿をアルカリ性にするには、
肉類やアルコール類を控え、
野菜や海藻をたっぷり食べること。
尿酸値の高い人にとって、
野菜や海藻は、
一石何鳥もの効果が期待できる。
毎食、意識して野菜や海藻をとる。
野菜は最低でも1日に300gは必要。
◆減量のために知っておきたい計算式
・標準体重=22✕身長(m)✕身長(m)
例:身長=164cm(1.64)の人の標準体重は59.2(kg)
・BMI=体重(kg) ÷ {身長(m) X 身長(m)}
例:身長(164cm)、体重(64.6kg)の人のBMIは24
※普通体重範囲は…49.8Kg~67.2Kg
・基礎代謝量(kcal/日)= 基礎代謝基準値 × 体重(kg)
例:あなたの現体重における基礎代謝量は・・・ 1389 kcal/日
例:あなたの標準体重時の基礎代謝量は・・・ 1272 kcal/日
・必要推定エネルギー量(kcal/日)= 基礎代謝量 × 身体活動レベル指数
例:あなたの現体重における推定エネルギー量は 2083 kcal/日
例:あなたの標準体重時に必要な推定エネルギー量は 1908 kcal/日
◆塩分を控える
痛風の人は、
高血圧、動脈硬化、糖尿病を併発しやすい。
合併症を防ぎ、健康を守るために、
塩分の多い食品を控え、
料理の味つけも薄味にする。
◆プリン体をとりすぎない
プリン体を多く含む食品を好んで食べるのはよくない。
動物の内蔵や魚の卵は控えめに。
◆アルカリ食品をたっぷり摂る
野菜などのアルカリ食品をたくさん食べると、
尿がアルカリ性になり、
尿酸が尿に溶けやすくなる。
さらに水分も十分にとる。
◆痛風の食事療法
プリン体は食べものから取り入れる量よりも
体内で作られる量のほうがずっと多く、
しかも食事からとるプリン体の摂取がそのまま
尿酸値の上昇に結びつかないことがわかってきた。
最近ではプリン体自体の制限に重点をおいた
食事療法はほとんど行われなくなった。
現在、痛風の食事療法では
「食べ過ぎない」を基本にした
肥満の予防・改善を推奨している。
◆腎臓と尿酸値は密接な関係にある
尿酸は、腎臓の糸球体でろ過された後、
すぐに尿として排泄されるのではなく、
再度、尿細管で吸収される。
その後、尿細管を通過しながら再吸収を繰り返し、
体外に排泄される。
排泄される尿酸は、
腎臓で処理される尿酸の10%程度と考えられる。
人間の体内でつくられる尿酸の大半は、
腎臓を経て排泄される。
なので、腎臓の働きが低下すれば尿酸値は上昇し、
「尿酸排泄低下型」の高尿酸血症を招く。
◆尿酸値が高い人には2つのタイプがある
尿酸値が上昇する要因によって2つのタイプがある。
- 尿酸産生過剰型:体内で尿酸が過剰につくれてしまう(約10%)
- 尿酸排泄低下型:尿酸の排泄がうまくいかず体内に蓄積してしまう(約60%)
残りの30%は混合型。
◆痛風の90%を占めるのは原因不明の「一次性」
痛風は、原因のよくわかっていない一次性のものと、
原因が解明されている二次性(続発性)のものに分けられる。
圧倒的に多いのは、一次性のもので、
全体の90%以上を占める。
一次性の痛風は、食事、アルコール、肥満、ストレスなど、
生活習慣が発症を誘発するものと考えられる。
二次性の痛風は
薬物などの使用が原因になっている。
たとえば、
降圧薬、利尿薬、アスピリンなども尿酸値を
上昇させることがわかっている。
遺伝的要因も大きく、
痛風患者の約10%が体質などの遺伝が
影響していると考えられる。
◆尿酸値は7.0mg/dl以下が基準値
尿酸値が7.0を超えると、
血液中に解けきれない尿酸が結晶化し、
関節部などに蓄積していく危険性が高くなる。
7.0を超えると高尿酸血症と診断される。
◆酒粕自体には100g中およそ8%のアルコールが含まれている
◆痛風発作が起こりやすい部位
痛風発作は、体中にあちこちに起こるが、
親指のつけ根が全体の70%である。
◆尿酸塩結晶を撃退するため白血球が攻撃を始める
血液中の尿酸が増え続ければ、
尿酸酸結晶の関節部への沈着もどんどん進む。
その結果、
一部の結晶が関節部に付着しきれなくなり、
関節と関節の間の隙間(関節腔)に剥がれ落ちる。
すると体の防御システムが働き、
異物撃退のために、
白血球が出動する。
白血球と尿酸塩結晶の激烈な戦いこそが、
痛風の痛みの原因である。
患部が赤く腫れ上がるのも、
両者の戦いの炎症にほかならない。
白血球と尿酸塩結晶の戦いが激しければ激しいほど、
痛風発作の痛みも激しく、
痛みも長引くことになる。
◆尿酸は一定の量以上に増加すると結晶化する
体内で過剰に尿酸がつくられたり、
尿酸をうまく体外に排泄だきない場合、
体内の尿酸の量は増加する。
尿酸が一定の量以上に増加すると、
結晶化する。
結晶化した尿酸は関節部などに少しずつたまる。
◆食物から入るプリン体は全体の10~15%にすぎない
プリン体は体内でつくられるばかりではない。
食物や飲み物などにも含まれていて、
物を食べるたびに体内に入る。
プリン体の全体量は、
体内でつくられるものが85~90%を占めるのに対し、
食べ物から入ってくるものは10~15%程度にすぎない。
◆プリン体は尿酸の原料になる
尿酸もプリン体も古い細胞が新しく生れ変わるときに
できる廃棄物のようなもので、
尿酸をつくる原料になるのがプリン体。