もっと言ってはいけない

もっと言ってはいけない by 橘 玲

橘玲(たちばな・あきら)

1959(昭和34)年生まれ。作家。
小説に「マネーロンダリング」「ダブルマリッジ」など。
ノンフィクションに、「幸福の「資本」論」「残酷すぎる成功法則」や「80‘s」「朝日ぎらい」など、著作多数。
「言ってはいけない 残酷すぎる真実」が48万部突破のベストセラーとなり、2017新書大賞を受賞…

人気作家がタブーを明かしたベストセラー「言ってはいけない」がパワーアップして帰還!

目次

プロローグ 日本語の読めない大人たち
1 「人種と知能」を語る前に述べておくべきいくつかのこと
2 一般知能と人種差別
3 人種と大陸系統
4 国別知能指数の衝撃
5 「自己家畜化」という革命
6 「置かれた場所」で咲く不幸―ひ弱なラン

もっと言ってはいけない
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MEMO

もっと言ってはいけない

◆咲ける場所に移りなさい

「置かれた場所で咲きなさい」と
「嫌われる勇気」がミリオンセラーになったことは、
日本社会を象徴している。

「高コンテクスト」の共同体に過剰適応した日本人は、
世間の評価を気にし、
他人から嫌われることを極端に恐れるが、
自分がもっとも高い評価を得られる場所に自由に移っていくことはできない。

会社の上司や同僚、部下を選択することはできず、
「運命」として受け入れるしかない…

これは専業主婦も同じで、
子どもを抱えて離婚すれば、
母子家庭として日本社会の最貧困層に落ちることを覚悟するしかない。

他人や世間を変えることができなければ、
自分が「嫌われる勇気」を持つ以外ない。

いまいる場所から動くことができないなら、
「置かれた場所で咲く」ほかはない。

だが残酷なことに、
「ひ弱なラン」はどこでも花を咲かせられるようには
遺伝的に設計されていない。

幸福になりたければ、
「咲ける場所に移る」ほかないのだ。

日本人の不幸は、
遺伝的にストレスに弱いにもかかわらず、
文化的に高ストレスの環境をつくってしまうことにある。

そんなムラ社会の閉鎖感のなかで、
本来はランとして美しい花を咲かせるべき個人が次々枯れていく。

◆不安感の強い日本人は環境を変えることを過度に恐れ、
ムラ的な組織(タコツボ)のなかに閉じこもって安心しようとする。

グローバルスタンダードと大きく異なる
年功序列・終身雇用の「日本的雇用」が、
ガラパゴスのように日本でだけ残っているのはこれが理由かも。

だがそれによって、
日本人は「会社」というムラ社会に、
あるいは「家族」という閉鎖空間に閉じ込められてしまった。

さまざまな国際比較調査で、
日本のサラリーマンは世界でいちばん会社を憎んでおり、
仕事への忠誠心が低いことが繰り返し示されているが、
皮肉なことにそこでしか生きていくことができないのだ。

◆日本人は「ひ弱なラン」

タンポポはストレスのある環境でもたくましく育つが、
その花は小さく目立たない。

その一方でランは、
ストレスを加えられるとすぐに枯れてしまうものの、
最適な環境では大輪の花を咲かせる。

環境が安定していればランのような美しい花を咲かせるほうが繁殖に有利だが、
不安定な環境で強いストレスがかかるならばタンポポしか生き残ることができない。

日本人は遺伝的に、
特定の環境では大きな幸福感を得ることができるものの、
それ以外の環境ではあっさり枯れてしまう「ひ弱なラン」なのだ。

◆セロトニン運搬遺伝子の発現量が低い「悲観的な脳」の持ち主は、
ネガティブな画像と同様にポジティブな画像にも敏感に反応した。

◆不安感が強い人間は将来を心配し
そのため現在の快楽を先延ばししようとする。

東アジア系は遺伝的・生得的に脳内のセロトニンが少ないことで不安を抱きやすく、
強いストレスにさらされるとうつ病を発症するが、
その代償として必死に勉強し、
真面目に働いて倹約にいそしむことで、
アメリカ社会で経済的な成功を手に入れた。

◆セロトニンの機能がうまく働かないと不安症や抑うつ症に陥るという原理を応用したのが、
現在、世界中でもっとも使われている抗うつ剤SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)だ。

脳内で合成されたセロトニンがニューロンに取り込まれて分解されないよう、
受容体に蓋をすることで(再取り込み阻害)、
脳内のセロトニン濃度が上がってうつが寛解(※)するとされている。

※全治とまでは言えないが、病状が治まっておだやかであること。

◆日本人・中国人・韓国人は(白人と同程度に)知能が高く
性格的に真面目で内向的だから、
ポジティブ志向のアメリカ社会ではリーダーにはなれないかもしれないが、
賃金の高い専門職にもっとも向いている。

◆アメリカでは協調性がない=個性的なほうが高い所得を得られるが、
日本の会社は個性を押し殺して滅私奉公しなければ出世できず、
しかもこの努力が報われるのは男だけで、
女性社員がいくら組織に協調(奉公)してもムダである。

◆心理学では人格の「ビッグ・ファイブ」を
開放性、真面目さ、外向性、協調性、精神的安定性としているが、
これらの性格と仕事の成果(業績)の関係をみると、
すべての仕事においてもっとも影響が大きいのは
「真面目」さで、次いで「外向性」、「精神的安定」となっている。

「真面目で明るく、落ち着いている」ひとは、
どんな職場でも信頼されるのだ。

——————————
◆経済学者のジェームズ・ヘックマンが就学前教育の重要性を説いたのは、
「認知スキルは11歳ごろまでに基礎が固まる」からだった。

しかしこれは逆にいうと、
「それ以降はなにをしても知能は伸びないのだから、
教育に税を投入するのは無駄だ」ということになる。

こうしてヘックマンは、
仕事に必要な性格スキルを養成することの重要性を説くようになった。

認知スキルと同様に性格スキルの形成にも幼年期がもっとも重要だが、
性格スキルは10代以降でも伸ばせるので、
青年時の矯正は性格スキルに集中すべきだというのだ。

このことは、
性格の遺伝率(約50%)が知能の遺伝率(約80%)より低く、
そのぶんだけ環境の影響を受けやすいという行動遺伝学の
知見からも裏付けられる。

性格ももちろん親から受け継いでいるが、
訓練によって伸ばすことが(知能よりは)期待できるのだ。

◆アジア系アメリカ人のIQは白人とほぼ同じだが、
医師、科学者、会計士などの専門職についている割合が白人より高く、
これがアジア系の世帯年収が白人より25%も高い理由だとされている。

知能とは別に、
努力、勤勉、信頼性などの要素(自己コントロール)が
付加価値になっているのだ。

ようするに、真面目に頑張れば報われるという話だ。

このようにしてアメリカでは、
社会的・経済的に成功するためには
認知スキル(知能)だけではなく性格スキル(やる気)
も必要だとされるようになった。

◆「ヒトの家畜化」というと、
宗教の一種ではないかと疑う人もいるだろう。

ヒトがイヌやウシ、ブタなどを家畜化してきたのと同様に、
何者かがヒトを家畜化したとしたら、
それは神ではないだろうか。

だが「現代の進化論」は、
超越者を介在させずにヒトの家畜化を説明する。

なぜなら、
ヒトがヒトを家畜化してきたから。

これが「自己家畜化」だ。

◆行動遺伝学では、
「外向的・内向的」のような性格の遺伝率は
およそ5割とされている。

遺伝率が8割にちかい知能よりは低いものの、
内向性も親から遺伝するのだ。

ちなみに残りの半分は、
「子育て(共有環境)」ではなくやはり
「友だち関係(非共有環境)」だ。

◆シリコンバレーにあるクパチーノは
アップルの本社の所在地として知られる。

クパチーノにはIT企業で働く中国系の家族が流入し、
高校によっては8割ちかくがアジア系というところもある。

これだけなら「人種問題」に思えるが、
白人が逃げ出す理由は中国系の隣人を嫌ったからではない。

彼らが恐れるのは、
地域の学校の成績が高すぎることだ。

クパチーノのハイスクールでは、
SATの平均点が全米平均より27%も高い。

一般生徒がこれほど優秀だと、
白人の親たちはわが子が勉強についていけなくなることを
心配するようになるのだ。

◆日系アメリカ人が経済的に成功したのは
「特別扱い」されなかったからだ。

黒人は過去の奴隷制の歴史を盾に進学や就学で
「特権」を手に入れたことで堕落し、
「負け犬の文化」を身につけたために、
アメリカ社会の最下層に甘んじることになった。

現在の逆境から抜け出そうと思うなら、
すべての「特権」を返上し、
(日系アメリカ人と同様に)公平な条件で競争し、
富を獲得していかなくてはならない。

————————————–
◆東アジア系は混血が進んでおり、
遺伝的にとてもよく似ている。

日本人だからといって、
あるいは中国人、韓国・朝鮮人だからといって、
「特別」なところはなにもないのだ。

◆日本人の知能はなぜ、
中国人や韓国人と同じなのか?

その答えはものすごく単純で、
中国人、日本人、韓国・朝鮮人は
もともと同じ大陸系統だからだ。

日本人の祖先はすくなくとも4万年前には、
ユーラシア大陸からサハリン経由で陸続きだった北海道に渡ってきた。

彼らは温暖な気候を求めて日本列島を南下し、
関東や東海地方に後期旧石器時代の多くの遺跡を残し、
約1万6000年前に土器を作るようになって縄文時代に移行した。

近年のDNA解析によれば、
ヤマト人(現代日本人)は
大陸由来の弥生人と土着の縄文人の混血であることがわかっている。

地域によって異なるが縄文人のDNAの割合は平均して14~20%程度で、
アイヌ人とオキナワ(琉球)人は弥生系との混血の度合いが少ない。

また、ゲノム全体を比較すると、
ヤマト人、アイヌ人、オキナワ人にもっとも近縁なのは
地理的に近接した韓国人で、
これら4つの人類集団は統計的にヤマト人と韓国人の遺伝的違いのおよそ3倍程度だ。

◆日本にはなぜ華僑財閥がないのか?

タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンなど
東南アジア諸国はどこも華僑財閥が経済を支配している。

マレーシアでは「ブミプトラ(土地の子)」という露骨なマレー人優遇策が行われ、
インドネシアでは半華僑の暴動や虐殺が起きた。

華僑は「闇のネットワーク」で権力とつながり、
不正をほしいままにしていると批判されている。

だがもとを辿れば、華僑は福建省や広東省の貧農や、
中国のなかできびしい差別にされされてきた客家の子孫で、
士大夫を頂点とする中国の知識社会の最底辺に位置していた。

東南アジア社会で生き延びなくてはならなかった極貧の中国人の子どもたちは、
現地の友だち集団のなかで優位なものを何ももっていなかった…
唯一、東アジア系の高い知能を除いては…

そんな子どもたちが、
生き延びるために、
遺伝的なわずかな違いに自らの可能性のすべてを賭けた。

そう考えれば、
数世代で巨大財閥をつくりあげたとしても不思議はない。

華僑は、
知能の優位性のある地域でしか財閥をつくることができない。

東アジア系の国はIQが同じなので、
経済的成功のための条件がない。

だから、
日本には華僑財閥が存在しないのだ。

◆日本からの移民はドミニカ社会の最貧困層で、
言葉もわからず、家柄や財産はもちろん耕す土地すらなく、
成功するための要素はなにひとつもっていなかった。

ではいったい何が、
彼らの子どもたちの目覚ましい経歴につながったのか?

実は、日本人移民の子どもたちはたったひとつだけ、
ライバルである地元の子どもたちより有利なものがあった。

それは…
東アジア系としての平均的に高い知能だ。

◆教育に「個人的リターン」があることは、
経済学では人的資本論理で説明されてきた。

経済学者ゲーリー・ベッカーは、
人的資本は教育や技能、知識のほかに健康をも含み、
近代経済国家の富の75%を占めると推計した。

アメリカでは大学教育の投資効果が綿密に計測されていて、
高卒で社会に出た場合と大卒資格者の生涯年収の差を教育費用と比較した場合、
その投資効果は年率10%を超えるとされている。

とはいえ、こうした投資効果が宣伝された結果、
アメリカの若者は借金してでも高等教育を受けるようになり、
借金漬けになってしまった。

◆「知識人」を自称する人たちが、
「本当のこと」を隠蔽し、
きれいごとだけを言っていれば、
世の中がよくなると本気で信じているらしい。

◆「遺伝子決定論」を批判する人たちは、
どのような困難も本人の努力や親の子育て、
あるいは周囲の大人たちの善意で乗り越えいけるはずだとの
頑強な信念を持っている。

そしてこの美しい物語を否定する者を、
「差別主義者」のレッテルを貼って葬り去ろうとする。

だが、本人や子どもがどれほど努力しても
改善しない場合はどうなるのか?

その結論は決まっている。

努力しているつもりになっているだけで、
努力が足りないのだ。

なぜなら、
困難は意志のちからで乗り越えられるはずだから…

現代の遺伝学が明らかにしつつあるのは、
「どんなに努力してもどうしようもないことがある」
という現実だ。

「やればできる」イデオロギーは、
ものすごく残酷だ。

ちゃんと子育てすれば、
どんな子どもでも一流大学に入れるはずなのだから。

さらに残酷なことに、
祖父母や兄弟、友人を含む周囲の人たちは、
あふれんばかりの善意によってこうした仕打ちをする。

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