イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」 by 安宅和人
安宅 和人
1968年、富山県生まれ。
東京大学大学院生物化学専攻にて修士号取得後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。4年半の勤務後、イェール大学・脳神経科学プログラムに入学。
3年9カ月で学位取得(Ph.D.)。
マッキンゼー復帰に伴い帰国。
マーケティング研究グループのアジア太平洋地域における中心メンバーの1人として、飲料、小売り・ハイテクなど幅広い分野におけるブランド立て直し、商品・事業開発に関わる。
また、東京事務所における新人教育のメンバーとして「問題解決」「分析」「チャートライティング」などのトレーニングを担当…
AIとデータの重要性が高まるなか、
これからますます問われるのは、
「感じる力」、「決める力」、「伝える力」。
『イシューからはじめよ』は、
それらを見つめ直し、
磨き上げる。
目次
はじめに 優れた知的生産に共通すること
■序章 この本の考え方―脱「犬の道」
■第1章 イシュードリブン―「解く」前に「見極める」
■第2章 仮説ドリブン(1)―イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる
■第3章 仮説ドリブン(2)―ストーリーを絵コンテにする
■第4章 アウトプットドリブン―実際の分析を進める
■第5章 メッセージドリブン―「伝えるもの」をまとめる
おわりに 「毎日の小さな成功」からはじめよう

MEMO
イシューからはじめよ
◆時間ベースで考えるのかアウトプットベースで考えるのかが
「労働者」と「ワーカー」の違いであり、
もっと現代的な言葉では
「サラリーマン」と「ビジネスパーソン」、
さらには「ビジネスパーソン」と「プロフェッショナル」の違いでもある。
ビジネスパーソンというのは、
会社に雇われてはいるが、
マネジメントや自分の仕事に関わる
「ハンドルを握る側の人」というのが本来の意味だ。
勤怠管理はあっても、
本質的には労働時間ではなく、
マネジメント活動と日々のビジネス活動を通じたアウトプットにコミットし、
そこで評価される。
そしてプロフェッショナルは、
特定の訓練に基づく体系的なスキルをもち、
それをベースに特定の価値の提供にコミットし、
特定の顧客から報酬を得ている人だ。
提供しているものはあくまで顧客への価値であり、
時間あたりで課金を行う弁護士やコンサルタントであっても、
対価は個々人のスキルレベル、
すなわちそれぞれの存在がもたらす価値の大きさで相当に変わる。
◆「圧倒的に生産性の高い人」のアプローチ
「バリューのある仕事」の本質について理解したところで、
次にそれを生み出すプロセスについて考えみる。
つまり、圧倒的に生産性の高い人は
問題にどう取り組んでいるのか、
ということだ。
まず、何も考えずに行うとどうなるのか…
- 月曜:やり方がわからずに途方にくれる
- 火曜:まだ途方にくれている
- 水曜:ひとまず役立ちそうな情報・資料をかき集める
- 木曜:引き続きかき集める
- 金曜:山のような資料に埋もれ、再び途方にくれる
では、圧倒的に生産性の高い、
すなわち「イシューからはじめる」アプローチではどうなるか。
1週間でアウトプットを出さなければならないケースなら、
図7のように作業を割り振る。
図7「イシューからはじめる」アプローチ
◆マトリクスのヨコ軸である「イシュー度」の低い
問題にどれだけさくさん取り込んで必死に解を出したところで、
最終的なバリューは上がらず、
疲労していくだけだ。
この「努力と根性があれば報われる」という戦い方では、
いつまでたっても右上のバリューのある領域には届かない。
本当に右上の領域に近づこうとするなら、
採るべきアプローチは極めて明快だ。
まずはヨコ軸の「イシュー度」を上げ、
そののちにタテ軸の「解の質」を上げていく。
つまりは「犬の道」とは反対回りのアプローチを採ることだ。
まず、徹底してビジネス・研究活動の対象を意味あること、
つまりは「イシュー度」の高い問題に絞る。
このアプローチのためには、
どうしても最初のステップ、
すなわち「イシュー度」の高い問題を絞り込み、
時間を浮かせることが不可欠なのだ。
「あれもこれも」とがむしゃらにやっても成功できない。
死ぬ気で働いても仕事ができるようにはならないのだ。
図5「イシュー度」と「解の質」の分布図
◆犬の道
どうやったら「バリューのある仕事」ができるのか?
仕事や研究をはじめた当初は
誰しも左下の領域からスタートする。
ここで絶対にやってはならないのが、
「一心不乱に大量の仕事をして
右上に行こうとする」ことだ。
「労働量によって上にいき、
左回りで右上に到達しよう」という
このアプローチを「犬の道」と呼ぶ。
図4犬の道
◆イシュー(ISSUE)の定義
- A: 2つ以上の集団の間で決着のついていない問題
- B: 根本に関わる、もしくは白黒がはっきりいていない問題
AとBの両方の条件を満たすものがISSUEとなる。
◆「生産性」の定義は簡単で、
「どれだけのインプット(投下した労力と時間)」で、
どれだけのアウトプット(成果)を生み出せたか」ということだ。
生産性を上げたいなら、
同じアウトプットを生み出すための労力・時間を削り込まなければならない。
あるいは、同じ労力・時間でより多くのアウトプットを
生み出さなければならない。
では、「多くのアウトプット」とは何か?
意味のある仕事のことを
「バリューのある仕事」と呼ぶ。
これを明確に意識することが大切だ。
プロフェッショナルにとって、
バリューのある仕事とは何か?
- 質の高い仕事
- 丁寧な仕事
- ほかの誰にもできない仕事
これらは正しい面もあるが、
本質を突いたものとは言えない。
「質の高い仕事」というのは、
「バリュー」を「質」に言い換えているだけだ。
では、バリューのある仕事とは何か?
「バリューの本質」は
2つの軸から成り立っている。
ひとつめが、
「イシュー度」であり、
2つめが「解の質」だ。
「イシュー度」とは、
「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」、
そして「解の質」とは
「そのイシューに対してどこまで明確に答えを出せているかの度合い」となる。
多くの人は、
「解の質」が仕事のバリューを決めると考えている。
そして、「イシュー度」、
つまり「課題の質」についてはあまり関心を持たない傾向がある。
だが、本当にバリューのある仕事をして
世の中に意味のあるインパクトを与えようとするなら、
この「イシュー度」こそが大切だ。
なぜなら、
「イシュー度」の低い仕事はどんなにそれに対する
「解の質」が高かろうと、
受益者から見たときの価値はゼロに等しいからだ。
図2バリューのマトリックス
◆「イシューからはじめる」という考え方は、
世の中一般の考え方とは異なるところが多々ある。
何よりも大切なのは、
「一般常識を捨てる」ということだ。
- 問題を解く▶問題を見極める
- 解の質を上げる▶イシューの質を上げる
- 知れば知るほど知恵が湧く▶知りすぎるとバカになる
- 1つひとつを速くやる▶やることを削る
- 数字のケタ数にこだわる▶答えが出せるかにこだわる
文の前半が一般的な考え方、
後半が「イシューからはじめる」考え方だ。
◆悩まない、悩んでいるヒマがあれば考える
「考える」と「悩む」、
この2つの違いは何か?
- 「悩む」▶「答えが出ない」という前提のもとに、「考えるフリ」をすること
- 「考える」▶「答えが出る」という前提のもとに、建設的に考えること
この2つ、
似た顔をしているが実はまったく違うものだ。
「悩む」というのは「答えが出ない」という前提に立っており、
いくらやっても徒労感しか残らない行為だ。
極論を言えば、
悩むことには一切意味がない。
特に仕事(研究も含む)において
悩むというのはバカげたことだ。
仕事とは何かを生み出すためにあるもので、
変化を生まないとわかっている活動に時間を使うのは
ムダ以外の何ものでもない。
これを明確に意識しておかないと「悩む」ことを
「考える」ことだと勘違いして、
あっという間に貴重な時間を失ってしまう。
10分以上真剣に考えて埒(らち)が明かないのであれば、
そのことについて考えることは一度止めたほうがいい。
それはもう悩んでしまっている可能性が高い。
◆本当に優れた知的生産には
共通の手法がある。
「カナジチを持っていれば
すべてのものがクギに見える」
という言い回しがあるが、
目的を知らずにツールだけを使うのは危険だ。
いわんや、
「アウトプットとして何を生み出すことに意味があるのか」、
ツールからその答えを導き出すことはできない。
では何が本当のカギなのか?
それが「イシュー(ISSUE)」だ。