座右の書『貞観政要』(じょうがんせいよう) 中国古典に学ぶ「世界最高のリーダー論」 by 出口 治明
出口 治明
1948年、三重県生まれ。
ライフネット生命・会長。
京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社に入社。
企画部や財務企画部にて経営企画を担当。
生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。
ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て同社を退職。
その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務める。
2006年にネットライフ企画株式会社設立(のちのライフネット生命保険株式会社)、代表取締役社長に就任…
正しく“自分の権限”を理解する、“耳に痛い言葉”を聞き続ける。
「すぐれた決断」をできる人の絶対条件。
目次
序章 「世界最高のリーダー論」はどうして生まれたか
――ものごとの「背景」を押さえる
第1章 リーダーは「器」を大きくしようとせずに、中身を捨てなさい
――「権限の感覚」と「秩序の感覚」
第2章 「部下の小言を聞き続ける」という能力
――「諫言」の重要性を知る
第3章 「いい決断」ができる人は、頭の中に「時間軸」がある
――「謙虚に思考」し、「正しく行動」する
第4章 「思いつきの指示」は部下に必ず見抜かれる
――「信」と「誠」がある人が人を動かす
第5章 伝家の宝刀は「抜かない」ほうが怖い
――「チームの仕事」の重要なルール
第6章 有終の美は「自分」にかかっている
――ビジネスを「継続」していくために

MEMO
座右の書『貞観政要』
◆器は大きくするのではなく中身を捨てる
頭の中をゼロの状態に戻すことができれば、
器が大きくならなくても、
新しい考え方を吸収し、
自分を正しく律することができる。
たとえば、
4畳半に住んでいる人が、
荷物が増えて手狭になったからという理由で、
8畳の新居に引っ越したとする。
このとき、
旧居の荷物を捨てないまま引っ越してしまうと、
8畳の新居に引っ越しても、
3.5畳分のスペースしか使うことができない。
けれど、
捨てるという発想があれば、
わざわざ引っ越さなくてもすむ。
4畳半の荷物をすべて捨ててゼロにすれば、
4畳半のスペースを確保できる。
何事であれ、
「上手に捨てること」
が大事である。
◆人生で大切なこと2選!
- 自分の器を大きくすることはできない
「器は、大きくしていくものであって、器が大きくなるほど、人間的にも成長できる」という考えは正しくない。そもそも、自分の器を大きくすることはできない。大きくできないのだから、器の中身を捨てればいい。今、自分の器の中(頭の中)に入っている、仕事観や人生観を捨てて、頭の中をゼロの状態にすれば、器が大きくならなくても、新しい考え方を吸収できる。 - 人生はプラス・マイナスゼロではなく絶対値として考える
自己啓発書などでは、「良いことのあとに悪いことがあって、そのあとに良いことがあって、それが繰り返されて、人生はプラス・マイナスゼロになる」「人生は振り子のようになっていて、マイナスに振れた分だけプラスが得られる」「人生は、与えた分だけ、与えられる」といったことが語られている。だが、実際は違う。「人生の楽しみは喜怒哀楽の総量で決まる」たとえば、失恋をして「マイナス500」悲しんで、その後、新しい恋人ができて「プラス500」喜んだとする。このとき、「やっぱり、プラス・マイナスゼロなんだ」と結論づけるのではなく、「絶対値1000」と解釈する。物事を一喜一憂してしまう人は、「絶対値」という見方が必要になる。喜怒哀楽のすべてが人生なのだ。挫折もまたすばらしい体験となる。
◆「仕事は人生のすべてではない」と考える
1年は8760時間。
その内、
仕事をしている時間はせいぜい2000時間。
人間は、
3分の2以上の時間を、
食べて、寝て、遊んで、子育てをして暮らしている。
仕事をしている時間は、
せいぜい3割程度である。
仕事は全体の3割しかなのだから、
極論すれば、
どうでもいいこと。
人間にとっていちばん大事なことは、
いいパートナーや友人を見つけて、
食べて寝て遊んで次の世代を育てることであり、
仕事は、ほどほどでいい。
◆何か物事を決めるときは、
感情をベースにしてはいけない
数字・ファクト・ロジックで正しいと思うことを、
嫌われようが文句を言われようが、
きちんと主張すべきである。
けれど、
現実の世界では、
9割の人が誤った判断をしている。
その原因は、
感情をベースに物事を考えているからである。
◆困難に遭ってはじめて、その人の真価がわかる
風が吹けば草はなびくが、
強い草は風にもなびかない。
それと同じで、
その人の真偽は、
世の中が平和なときはわからない。
天下が乱れたときにこそ、
その人の忠誠心がわかる。
コロナウィルスが蔓延している
今こそ人々の真価がわかる。
◆小人閑居(しょうじんかんきょ)して不善をなす
つまらない人間が暇でいると、
ろくなことを考えない。
◆人物を大きくする3要素とは?
- 読書
本を読むとは、つまり、歴史から学ぶということ。 - 文章
文は人なり、筆は人なり。書く字の出来、不出来でその人がなかなの人物かどうかが判断できる。 - 人との交流
上に立つ人は、裸の王様にならないように、苦言を呈してくれる人をそばに置いておく。
◆愚者は経験に学び、
賢者は歴史に学ぶ!
個人が一生のうちに経験できる時間軸は
それほど長いものではない。
しかし、
歴史を尺度とすれば、
人は融通無碍(ゆうずうむげ)に時間軸を
設定することができる。
◆タテヨコ思考
- タテ思考
人類の歴史に照らし合わせて考えること。タテ軸は、先人の話を聞くことであり、本を読むこと。 - ヨコ思考
世界の人々のさまざな状況と照らし合わせて考えること。ヨコ軸は、自らの足で世界を歩き、見聞を広めること。
◆「いい判断」をするために大切な3つのこと…
- 過去の失敗に学ぶ
過去の経営者、起業家の失敗から学ぶこと - 善人を登用する
善良な人や行いの正しい人とともに、道義的に正しい道を歩むこと - 戯言に耳を貸さない
取るに足らない人たちは退けて、噂、告(つ)げ口、悪口を聞かないこと
◆人には2つの類型がある…相手がどちらかを見極めよ!
人間の類型は、
大きく「瓦タイプ」と「鉄タイプ」がある。
リーダーは、
部下がどちらのタイプなのかを見極めた上で、
相手に適した磨き方をする必要がある。
- 瓦タイプ
じっくり育てたほうが伸びるタイプ。瓦タイプをうっかり叩いてしまうと、割れてしまい、土くれになって、役にたたなくなってしまう。 - 鉄タイプ
叩いたほうが伸びるタイプ。重い仕事で負荷をかけると、鉄より強い鋼(はがね)に変わる。ただし、負荷に強い鉄タイプとはいえ、強く叩き過ぎると、鋼になる前に、壊れてしまう。鉄タイプの人を叩くときのコツは、その人の逃げ道をつくっておくこと。
◆上に立つ人が正しい判断をするためには、
何よりも心身の健康が大切である
だからこそ、
心を乱されないように、
情報の取捨選択をする必要がある。
上に立つ人は、
知りたがり屋でも、
話したがり屋でもいけない。
◆心を健やかに保つためには、
本当に大切なことでけを覚えておけばいい
瑣末(さまつ)なことまで心を砕いていると、
心が病んでしまう。
◆人間は
「見たいものしか見ない」、
あるいは
「見たいように都合よく現実の世界を変換してしまう」
という習性を持つ動物である。
◆相手が「してほしいこと」より
「嫌がること」を想像せよ
嬉しいことは千差万別でも、
嫌なこと、
苦手なことは似ていることが多い。
人の嗜好も、
してほしいことも、
すべて違うが、
してほしくないことは
かなり共通している。
「相手が喜ぶことをする」
という思いやりの一歩手前に、
「相手が嫌がることをしない」
という思いやりがある。
◆「自分がしてもらいたくないこと」
は相手にしない
ひと言で一生涯守り行うことのできるものがある。
それは「恕(じょ)」(思いやり)である。
ここでいう「思いやり」とは、
自分がしてもらいたくないことは、
人にも仕向けないようにすること。
◆上司は、
部下の権限を代行できない
これが、
権限を付与するときの
基本的な考え方である。
ひとたび権限を委譲したら、
その権限は部下の固有のものであり、
上司といえども、
口を挟んではいけない。
◆上司の機能をひとことでいうと、
「人をまとめる」「方向を示す」という役割
今、どの方向に風が吹いているのか、
社会がどの方向に変化しているかを見極め、
その変化に適した人材に任せる。
適材適所に人材を配置し、
チームとしてのパフォーマンスを上げる。
それが上司の機能である。
◆上司は「人間として偉い」わけではない。
部下と「機能が違う」だけ!
人間には、
頭や手足があるが、
必ずしも頭が偉いわけではない。
頭には頭の、
手足には手足の役割があり、
それぞれが機能を十分に発揮することで、
より良く生きていける。
組織も同じである。
◆『貞観政要』とは、「唐」第二代皇帝とその臣下の言行録である。
内容は「君主」たる条件に付いて述べている。
1.君主が道理に1つでも外れた言をなせば万民は離反して国が乱れる、
2.家臣の言うことを良く聞き専門家の言うことを良く聴かなければならない。
3.耳の痛い言葉を良く聴き、そのようなことをする人こそ登用しなければならない、
4.仕事を部下に任せる度量が必要である、
5.先人や自分の失敗に学ぶことが必要である、
6.罰を加えるときには怒りにまかせてしてはいけない、
7.罰を加えるときにはその人の功績により緩和してはならず、総ての人に公平に行わなければならない、
8.威張ったり、尊大な態度を取ってはならない、
9.困難に際しても必ずやり遂げる強い心を持つ必要がある。
10.物事は自分だけではなく組織で行わなければならない、
11.組織は少数精鋭で当たるべきである、
12.大きな宮殿を作ってはならない、
13.節操なく娯楽に興じてはならない、
である。
◆十思九徳(10の思慮と9の徳行)
【十思】
- 欲しいものがあらわれたときは、老子の「足るを知る」(分相応に満足することを知る)を思い出して、自戒すること。あれが欲しい、これが欲しいと欲張らないで「今のままでも十分」とわきまえる。
- 宮殿の増築などの大事業をするときは、老子の「止まるを知る」を思い出して立ち止まって考え、人民を過度に働かせてはいけない。
- 大きなリスクを冒してまで、野望を果たそうとしてはいけない。自分の力を過信せず、
「自分の能力はそれほど高くない」と謙虚になって自制すること。 - 「もっと欲しい」などと満ち溢れるような状態になりたい気持ちが起こったら、「大海は、たくさんの小さな川の水が下へと集まってできたものである」ことを思い出して、謙虚に振る舞う。
- 遊びたくなったら、自ら制限を設けて、節度を持って遊ぶこと。
- 怠けそうになったら、何事にも一生懸命取り組んでいた初心を思い出すこと。最後までやり遂げることができたときも、威張ったり自慢したりせず、謙虚さを忘れないこと。
- 自分の目や耳が塞(ふさ)がれていると思ったら、下の者の意見を率直に聞くこと。
- 讒言[ざんげん](目上の人に、ある人の悪口をいうこと)や中傷を恐れるなら、まずは、自分の立ち振ち舞いを正すこと。自分の身を正すことができれば、悪を退けることもできるし、部下を茶坊主にすることもない。
- 部下の手柄をほめるときに、恩賞を与えすぎてはいけない。部下を喜ばせようとして大盤振る舞いをすると、特定の部下を増長させることになりかねない。
- 部下を叱責するときは、感情に任せて怒りをぶつけてはならない。新賞必罰は、公正であることが望ましい。
【九徳】
- 寛大な心を持ちながら、不正を許さない厳しさをあわせ持つ
- 柔和な姿勢を持って、むやみに人と争わない。しかし、自分のなすべきことに対しては、
必ずやりとげる力を持つ - 真面目だが、尊大なところがなくて丁寧である
- 事態を収束させる能力がありながら、慎み深く、謙虚である。相手を決して見下さない。
- 威張ったりせず、普段はおとなしいが、毅然とした態度や強い芯を持つ
- 正直で率直にものをいうが、冷淡ではなく、温かい心を持つ
- 物事の細かい点には拘泥(※)しない。おおまかであるが、清廉潔白である。
※物事に囚われ、周りが見えなくなること。 - 剛健だが、心が充実している
- いかなる困難でも正しいことをやり遂げる強さを持つ
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◆組織のマネジメントに大切な5つのヒント
- 組織はリーダーの器以上のことは何一つできない
有限の「器」の大きさしか持てない生身の人間(リーダー)にできることとは、自らの器を捨てる、あるいは必死に消すことしかない。 - リーダーは、自分にとって都合の悪いことをいってくれる部下をそばに置くべきである
部下の諫言(苦言)を受け入れる努力を常に怠らないようにしないと、裸の王様となり、自分の本当の姿が見えなくなってしまう。 - 臣下(部下)は、茶坊主になってはならない。上司におもねってはならない
他人は知るまいと思っていても、悪事(ウソ)は必ずいつかは露見する。だから部下は、自分の信念に従い、勇気を持って正しいと思うことを上司に諫言すべきである。 - 君は舟なり、人は水なり。水はよく舟を載せ、またよく舟を覆す(くつがえす)
リーダーが舟で、部下が水。舟は水次第で、安定もすれば転覆もする。リーダーは、部下に支えられているということを片時も忘れてはならない。リーダーシップとは、人(部下)がついてくることである。 - リーダーは常に勉強しなければいけない
リーダーはさまざまなケーススタディについて勉強しなければならない。
◆「三鏡」の考え方
リーダーとは3つの鏡を持たなければならない。
- 銅の鏡:
鏡に自分を映し、元気で明るい顔をしているかチェックする - 歴史の鏡:
過去の出来事しか将来を予想する教材がないので、歴史を学ぶ - 人の鏡:
部下の厳しい直言や諫言(かんげん)を受け入れる
◆名君と呼ばれる人の「2つの絶対条件」
- 「権限の感覚」を持っていたこと
- 臣下(しんか)の「諫言(かんげん)」を得たこと
◆貞観政要(じょうがんせいよう)
貞観時代の時代のポイントをまとめた書物であり、
その中には、
貞観という稀にみる平和な時代を築いたリーダーと、
そのフォロワーたちの姿勢が明快に示されている。