弘兼流 やめる! 生き方 by 弘兼 憲史
弘兼 憲史(ひろかね けんし)
1947年、山口県生まれ。
早稲田大学法学部卒業。
松下電器産業(現パナソニック)に勤務後、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。
『島耕作』シリーズや『ハロー張りネズミ』『加治隆介の議』など数々の話題作を世に出す。
「何をやめて」「何を続ける」べきか?
人生後半戦、やりたいことをやりきるためには、
長く引きずった習慣、関係、しがらみ…
を思い切って断ち切って、
時間的にも精神的にも、
自分に自由になることが大切。
目次
第1章 やめて受け入れる
第2章 やめて自立する
第3章 やめてラクになる
第4章 やめて楽しむ
第5章 やめて幸せになる

MEMO
やめる!生き方
◆松下幸之助流「幸福の3つの条件」
- 自分が幸せだと感じること
- 世間の人々もその幸せに賛意を表してくれること
- 社会にプラスになり、周囲の人々に幸せをもたらすこと
こうして考えてみると、
- 好きなこと
- 得意なこと
- 他人に迷惑をかけないこと
- 人の役に立つこと
という4項目のベン図を作って、
その中央の重なった部分が
「幸せになる条件」としてふさわしいのではないか。

◆日本人の「生きがい」とはお金儲けや社会的地位とは別のところにある
茂木健一郎さんは、
英語で「Ikigai: The secret Japanese way to live a happy and long life」
を世界に向けて著し、それを日本語に翻訳した「IKIGAI: 日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣」が2018年に出版された。
茂木さんはその本で、
日本人の「生きがい」になっているのは、
毎日早起きして気持ちのよい朝を迎えるとか、
身の回りの物事に自分だけの小さなこだわりを持つといった、
お金儲けや社会的地位とは無縁のところにあり、
到達点や目的ではない
「終わりのない目標」で、
それは仕事で成功する、財を成す、
出世するというように、
人生で何かを成し遂げる達成感と
同じような価値を持っているものだと語っている。
日本が感じる「生きがい」をベン図で表すのであれば、
「お金になること」を抜かして、
「好きなこと」「得意なこと」「世の中のニーズ」という3つの円を作って、
その中心で重なる部分が「生きがい」になりうるのではないか。
「世の中のニーズ」は、
「人の役に立つこと」と言い換えてもいい。
「どこまで出世できるか」
「どこまで財を成せるか」
といった到達点や目的から生き方を考えるのをやめて、
自分にとってこの3条件を満たす「生きがい」は何かというところから
今後の人生を考えてみてはどうだろうか?

◆世界で話題になった日本人の「Ikigai」
2016年にスペインで出版された「Ikigai」というタイトルの本は、
日本のIT企業で10年以上働いてきたスペイン人エンジニアとスペイン人作家の共著で、
ヨーロッパで大きな反響を呼び、各国で翻訳された。
英語のタイトルは、
「Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life」
で、日本人独自の幸福感や人生観を欧州的解釈で紹介している。

この「Purpose of Diagram」は、
欧米人がいかに「生きがい」という言葉を理解していないかということがよくわかる。
このダイアグラムに「Paid for (お金になること)」という項目が存在していることは、
日本人にしてみると違和感がある。
◆「成功にこだわる」のをやめる
あなたにとって「生きがい」とは何ですか?
「生きがい」を考えるときに参考になるのが
1962年に公開された「終身犯」というアメリカ映画がある。
どのような状況にあっても、
夢中になったり、
没頭できる「何か」を持っていることは、
自分にとって生きがいになりうる。
◆「孤立」は避けて、「孤独」を楽しめる大人になる
孤独というのは、
寂しいイメージがつきまとうが、
そんなことはない。
どんなことでもひとりで楽しめる人の人生は豊かである。
それが「孤独力」。
孤独は楽しめる。
やっぱり人間、
生まれる時も死ぬ時もひとりなんだから、
孤独を楽しめる人のほうが幸せである。
孤独死を避けるために、
毎日1回連絡をとる人がいれば、
ひとり暮らしでいい。
◆イライラしそうになった自分に言い聞かせる「3つの言葉」
- まあ、いいか
- それがどうした
- 人それぞれ
自分の意思とは関係なくやってくる困難、
ピンチ、マイナスの局面を、
この3つの言葉で乗り越える。
どんなことが起こっても現実を受け入れて、
「まあ、いいか」といい意味であきらめる。
そして「それがどうした」と開き直ってやり過ごす。
それから「人それぞれ」と他人と比較せず、
自分が楽しい道だったらそれでいいじゃないかと、
また歩き始める。
これって、
自分で自分に言い聞かせる「おまじない」。
◆「ピンチに立ち向かわない」からこそ、解決策も見えてくる
窮地に陥ったら逃げたほうがいい。
これは人生の鉄則だ。
困難やストレスのある状態から逃げ出したいと思うのは、
自己防衛本能なのだから悪いことではない。
逃げることによって誰かに迷惑をかけるのであれば、
それはよく考えなくてはいけないが、
自分のプライドを守るためだとか、
批判を気にして逃げられないという理由で、
わざわざ窮地に立ち向かう必要なんてまったくない。
窮地から脱する方法を考えるにしても、
いったんその場を離れたほうがいい。
とりあえずそこから離れて、
冷静になる時間を作ったほうがいい。
窮地にある時はパワーダウンしていることが多い、
無駄に動かずやり過ごしたほうがいい。
一時避難して大きな流れに身を任せながら、
立ち上がるタイミングを待てばいい。
◆「自分の物差し」を作る
自分の物差し(尺度)を持っていれば、
今の自分のありようを測る時に、
人と比べる必要がなくなる。
幸せの尺度は人それぞれ違うのだから、
人と比べてみたところで意味がない。
自分の尺度さえあれば、
「もう60歳か」などとネガティブな発想をしなくなる。
他人と比べたがる人や、
物事を悲観的に受け取りがちな人は、
意識して「もう※」ではなく、
「まだ※」から物事を考えるクセをつけるといい。
そうすることで、
自分の物差しを作る訓練になる。
他人と比べて自分の位置を確かめる必要もなくなる。
※コップ半分の水を見て、
「まだ半分もある」と思うか、
「もう半分しかない」と思うか。
◆「人と比べる」のをやめる
なぜ人は他人と比べたがるのかというと、
自分の位置を確かめたいから。
自分よりも下の人と比べて、
自分のいる位置はそれほど下ではないと安心感を得るならまだいいが、
多くの人は自分より上の人と比較して、
落ち込んだり、悩まなくてもいいことで悩んだりする。
◆「反省する」のをやめる
60歳を過ぎたら、
もう反省するのも後悔するのもやめたほうがいい。
過ぎてしまった時間は変えることができないのだから、
マイナスにとらえてもいいことは何もない。
過去は、
どうあろうが自分に都合よく考えたほうが、
この先の人生をプラスに展開できるはず。
60代にもなると、
何か失敗したとしても、
普通はそれまでの経験からだいたい原因がわかるようになる。
わかっているのだから、
それ以上掘り下げて反省を重ねたところで、
たいして得るものはない。
落ち込みが深くなるだけ。
だったら、
失敗は過去の変えられない事実として受け入れてしまい、
「あの失敗があったから今があるのだ」と本気で考えられるようになると、
人生は必ずプラスの方向へシフトされる。
過去は反省するのではなく、
プラス思考に生かす。
60歳を過ぎたら反省や後悔は時間の無駄使いでしかない。
◆「終活」をやめる
自分の人生を締めくくることを書き残す(あるいは、言い残す)終活は、
悪いことではない。
でも、家族のことを考えると、
遺言状などにお墓や戒名のことなどをあまり細かく指示を
残しておくのはどうかと思う。
言い残すのは、
「好きにしてくれ」のひと言でもいい。
お墓がお寺ではなくて共同墓地や施設墓地だというなら、
戒名をつけなくてもまったく問題ない。
人生を楽しんで、
自分のために生きた最後に考えなければいけないのは、
自分のお墓や戒名の心配ではなくて、
残る家族のっこと。
自分の死を受け入れることが前提である
「終活」のプライオリティは、
何より家族に負担をかけないこと。
◆「葬儀に出る」のをやめる
松下幸之助さんは、
葬儀に参列しないことで知られていた。
その理由は、
通夜や告別式は急に執り行われるもので、
親族が大変な思いをしているのだから、
そのような場に行って煩わせたくないということと、
健康で快活だった時のイメージを大切にしたいから、
棺に横たわる故人の顔を見たくないことだった。
◆「お中元・お歳暮」をやめる
お中元やお歳暮も惰性で続けるのはやめる。
お世話になった人に感謝の気持ちを込めて贈り物をするのはいいこと。
ただ、それだったらそう思った時に贈ればいいのであって、
お中元だ、お歳暮だと商業ベースに乗る必要はない。
◆「年賀状」をやめる
60歳を過ぎて、
そのまま習慣的に年賀状のやり取りを続けていることが、
はたして今の時代に必要なことなのだろうかと
疑問を感じている人が多いと思われる。
惰性で続けている気持ちの介在しない年賀状なら、
やめてしまったほうがいい。
ただし、
相手にカドが立たないように年賀状をやめることが大事。
具体的には、
最後に出す年賀状に「今年が最後の年賀状です」などと書く。
年の瀬に、電話やメールで連絡する機会があったら、
「今年からは年賀状をやめました」と宣言しておく。
あるいは、
年が明けてから電話やメールで、
「年賀状ありがとうございました。
どうぞ本年もよろしくお願いいたします。
私は字を書くのもつらくなってきたので、
今年から年賀状はやめました」
などと気持ちを伝える。
◆「モノをため込む」のをやめる
60歳からの人生では、
ため込むのをやめて、
できるだけ身軽になったほうがいい。
愛着や思い入れのあるモノでも、
思い切って捨ててみると
スッキリして気持ちがいいもの。
◆ストレス過剰に気づく3つのサイン
- 飽きる
- だるくなる
- 痛くなる
というのは、
「このままの状態を続けていると
身体が疲労して危険な状態になりますよ」
という3段階のサインである。
だから、
これらのサインが認識できていれば
早めに休憩をとって疲労を悪化させないようにできる。
仕事中に、
これらのサインが出たら、
まずは手を止めて、
休憩をとること。
◆「がんばる」のをやめる▶ほどほどに「かんばる」
60歳からの人生では、
がむしゃらになって目標を達成するような生き方はできなくなってしまう。
だから、
「がんばる」のもほどほどにしなければいけない。
◆「自粛警察」に見え隠れする不安心理
「自粛警察」と呼ばれる人たちは、
感染症という不安や恐怖が根底にあるものの、
論理は過激な反戦運動家と同じである。
感染を防ぐためにマスクをしなければいけない、
ソーシャルディスタンスを守らなければいけない、
他県から移動してくるなんてもってのほかだ、
という正義を掲げて、
相手にどういう事情があるかということは考えずに
懲らしめようとする。
自粛警察と呼ばれる人たちは、
安全でいたい、
健康でいたいという
「願望=自分の正義」を脅かされることが怖いために、
視野が狭くなり、
感染症の実情や他人の事情が見えなくなってしまう。
真面目に自粛している自分の正義を否定されたくない
という願望もある。
正義を口にしたくなるのは、
自分の願望が脅かされることへの恐れから生まれるのだということがわかれば、
そこで争う必要などなくなる。
黙って自分の不安や恐れと向き合い、
冷静に願望への対処を考えればよい。
◆「変えられないことで悩む」のをやめる
死は、
この世に生まれた時から受け入れるしかない宿命。
自分に変えられないことは、
スパッと割り切って受け入れてしまう。
そうしなければ、
無駄な時間と余計なストレスが増えるだけ。
「死」という変えられない現実で悩むよりも、
自分の力で変えていける「生」という現実に目を向けて生きたほうが、
人生は有意義なものになるはず…
◆家にこだわるのをやめる
60歳からの生活で大事なのがダウンサイジング。
人間関係を絞る、
消費活動を縮小することなどともに、
住居のダウンサイジングも大きな検討要素。
広すぎる家は必要ないので、
小さなマンションに引っ越すのも選択肢のひとつ。
◆「健康のために」をやめる
60歳からは、
「健康のため」
「老化防止のため」
などと自分に無理強いすることはやめて、
「気持ちよく」
続けられるかどうかを大事にする。
◆60歳からのお金とのつきあい方
60歳や65歳で働くのをやめたいというのであれば、
それなりに蓄えが必要になる。
でも今は、
働ける間は働いていたいと考える人が大多数だと思う。
具体的に言えば、
60歳で貯蓄がなくて心配だったら、
70歳までがんばってお金を貯めるという計画を立ててもいいし、
65歳までの5年間は徹底的に貯金して、
その後のことは65歳になった時に考えようという生き方だってできる。
◆お金の安心を求めること=不安を求めること
いくらあってもお金の不安はなくならない。
それなら、
「不安に思うだけ損じゃないか」
と考える。
お金とどこかで折り合いをつけて、
身の丈に合った生活をし、
お金の不安に振り回されないようにすることが大事。
お金の安心を求めることは、
かえって不安を追い求めることになってしまう。
◆65歳になると社会的には「高齢者」に分類されることになるし、
体力はどうしても落ちてくる。
自分はそんなに変わったつもりがなくても、
若者からは「老人」として見られるようになる。
年をとったら自分が動ける範囲での、
身の丈に合った生活圏を作っていかなければならない。
若い時のように多くの人に囲まれて
多くの人と交流を持つことは、
経済的にも体力的にもできなくなってくる。
◆人生後半戦を楽しく生きたかったら「やめてみなはれ」
- やめることで、しがらみからラクになる
- やめることで、精神的にも経済的にもラクになる
- やめることで、本当に必要なものが見えてくる
- やめることで、幸せになる
◆ただでさえ60歳を過ぎれば、
肉体的な衰えが目立ってくるし、
残された時間を意識するようにもなる。
いろいろな制約が出てくる中で
人生を豊かなものにするためには、
思い切って「やめること」が必要になる。
◆政府が65歳までの雇用義務化を決め、
さらに70歳まで働き続けられる環境確保を進めようとしている中で、
「生きている間は仕事を続ける」
「働ける間は働く」
というライフスタイルが一般的なものになりつつある。
◆何をやめて、
何を続けるか?
人生に優先順位をつけよう!