上級国民/下級国民 by 橘 玲

MEMO
上級国民/下級国民
https://www.amazon.co.jp/dp/4098253542/
◆貧しい人々の「経済的」な行動によって、
裕福な国のベーシックインカムは確実に破綻する。
◆グローバル化によって数億人が貧困から脱出したことで、
世界全体における不平等は急速に縮小している。
ただし、ここには問題がひとつある。
世界が「全体として」豊かになった代償として、
先進国の中間層が崩壊した。
◆教育の本質は
「上級国民/下級国民」に社会を分断する
「格差拡大装置」である。
◆平成が「団塊の世代の雇用(正社員の既得権)を守る」
ための30年だったとするならば、
令和の前半は「団塊の世代の年金を守る」ための20年になる。
◆日本の労働組合はこれまで同一労働同一賃金に頑強に反対し、
「日本は日本人に合った働き方がある」として、
「同一価値労働同一賃金」を唱えてきた。
この論理では、「正社員と非正規は同じ仕事をしていても
労働の”価値”が異なるから、待遇がちがうのは当然だ」とされる。
これは要するに、
正社員と非正規は「身分」が違い、
人間としての「価値」が違うということ。
こうして非正規への身分的差別を容認してきた。
◆働く環境を改善し、
ひいては生産性の向上を実現するには、
中高年に対して手厚く与えられている
既得権益を打破しなければダメ。
中高年の働き方を見直し、
働く意識が弱くなったと、
いつも片付けされてしまう若者にこそ、
働く機会を確保すること。
それが本当の社会的公正である。
◆同一労働・同一賃金の原則が徹底されていれば、
同じ産業・地域・企業規模で同じような仕事をすれば
給与も同じ水準になるはずである。
ところが日本では、
逆に会社間の差が広がっている。
なぜか?
日本的雇用システムでは
労働市場の流動性が極端に低く、
より効率的な(給与の高い)同業他社に転職することができない。
これでは、たまたま新卒で入った会社の業績という
「運・不運」で人生が左右されてしまう。
これが「日本人(サラリーマン)の人生」なのだ。
◆経済低迷の理由は
「日本市場に魅力がない」から
◆日本経済の問題は、
ITへの投資額が少ないことではなく、
投資の効果が出ないことである。
◆なぜ若者の雇用破壊が起きたのか?
この25年間で、通説とは異なって
「全体としては」年功序列・終身雇用の
日本型雇用慣行は温存され、
若い女性ではたしかに非正規が大きく増えたものの、
その多くは元専業主婦だった。
その一方で、若い男性で急激な「雇用破壊」が起きた。
平成の日本の労働市場では、
若者(とりわけ男性)の雇用を破壊することで
中高年(団塊の世代)の雇用が守られた。
男性のひきこもりが増えたのは
実は「団塊世代」の雇用を守ったからである。
ひきこもりは「団塊世代」の犠牲者なのだ。
◆女性の非正規がなぜ増えたのか?
それは「無業者」が大幅に減ったからである。
労働市場に新たに参入した多くは
若い女性(無業者)の専業主婦である。
バブル崩壊による家計の逼迫や価値観の変化で
彼女たちが働くようになった。
この場合、中途採用になることが多いので、
結果的に非正規が増えることになった。
◆労働市場においてこの25年間で日本に何が起きたのか?
就業者全体で見れば正社員の比率はほぼ一定に保たれているが、
非正規の割合は3倍に増えている。
非正規が増えた主な要因は、
自営業者が廃業して正規・非正規の「会社員」になったからである。
かつて日本の自営業の比率は27.7%もあったが、
2015年には11.1%まで減った。
◆日本の2つの不都合な真実
- 日本のサラリーマンのエンゲージメント(※)が極端に低い。
世界22ヵ国の調査で日本は最下位で評価点はマイナス23%である。 - 労働生産性が低い。
アメリカの3分の2しかない。
生産性と賃金の間には、相関関係がある。
生産性が高い国ほど国民の平均賃金が高いし、
生産性が高い企業に勤める従業員ほど賃金が高くなる。
日本がどんどん貧しくなった理由は、
「他国に比べて生産性が低いから」である。
※会社への関与の度合いや仕事との感情的なつながりを評価する基準。エンゲージメントの強い社員は仕事に対してポジティブで会社に忠誠心を持っている。エンゲージメントが低いと仕事にネガティブで会社を憎んでいる。当然エンゲージメントが高い会社ほど生産性は高くなる。
まとめると、日本のサラリーマンは世界(主要先進国)でいちばん仕事が嫌いで会社を憎んでいるが、世界でいちばん長時間労働しており、それにもかかわらず世界でいちばん労働生産性が低い。これがかつての経済大国・日本の「真の姿」である。
◆私たちは
「知識社会化・リベラル化・グローバル化」
という巨大な潮流のなかにいる。
その結果、
世界が総体としては豊かになり、
人々が全体としては幸福になるのと引き換えに、
先進国のマジョリティが
「上級国民/下級国民」へと分断されていく。
◆「上級国民/下級国民」は、
個人の努力がなんの役にも立たない
冷酷な自然法則のようなものとして
とらえられている。
いったん「下級国民」に落ちてしまえば、
「下級国民」として老い、
死んでいくしかない。
幸福な人生を手に入れられるのは
「上級国民」だけだ。
これが、現代日本社会を
生きる多くの人たちの本音である。